【灰原雄】雨音に
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雨の音で目が覚めた。
外を見れば、午前中は晴れていた空が今は曇り空へと変貌している。
どうりで少しだけ教室の空気が暗いと思った。
黒板には見知らぬ数式がずらりと並んでいる。
ノートに書き写そうとしたら、ノートには寝ていた時の痕跡が残っている。
口を開けて寝ていたせいでノートの上には涎が溜まっていたのだ。
とりあえずハンカチで拭き取ったけど、勉強する気は失せてしまった。
窓の外。
今にも降り出しそうなどんよりとした空をずっと眺めつづけた。
午後は買い物に行きたいから、降らないでほしいな。
そんなことを思いながら、さっき寝ていたというのに睡魔が襲ってきて、瞳を閉じた。
身体を揺さぶられ、私は重たい瞼を開けた。
目の前にいるのは太陽みたいな顔をした灰原君の姿が。
「おはよう。いい夢見れた?」
「………あー、覚えてない……」
「椎名さん、あとで職員室に来るようにと夜蛾先生が言っていたけど」
灰原君の奥から声が聞こえた。
身体をずらした灰原君の奥には金髪の青年、同級生の七海君がジト目で私を見ていた。
たった3人しかいない同級生。
あんだけ爆睡していれば怒られるか。
「ありがとう、七海君。買い物終わったら行くよ」
「いや、行く前に行けばいいのでは?」
その言葉を受け流し、私は軽く伸びをする。
すると背骨や肩甲骨がポキポキと音を鳴らした。
「二人はこれから任務だっけ」
「そう!!久しぶりの任務だから気合入れなきゃ!!」
「がんばって。あとお土産よろしくです」
そう言って私は買い物に出かけるために椅子から立ち上がる。
私に任務は回ってこない。
というのは私が非戦闘要員だから。
家入先輩と同じで反転術式が使える。
そのため、私がやることは怪我をした彼らを治してやること。
「あ、そうだ」
教室を出る前に私は灰原君と七海君の手を握る。
私よりも大きくて骨ばっているその手は血が通っていて温かい。
「いつものおまじない、です。気を付けて」
二人が任務に出かける時、私は必ずこうやって二人の手を握っている。
所謂おまじないというか願掛けというか。
無事に帰って来れるように、祈りを込めて。
二人もまた私の手を握り返して優しく微笑んでくれる。
それがすごく嬉しい。
教室を出て私は吉祥寺へと向かう。
古着屋巡りをするために。
雨が降る前に行って雨が降る前に帰る。
頭の中で計画を立ててるからか、無意識のうちに急ぎ足となる。
が、買い物が終わり吉祥寺から電車に乗ったところで雨が降ってきた。
乗り換えはあるけど駅構内だから濡れないけど、問題はその後だ。
最寄り駅から高専まで歩くと結構な時間がかかる。
補助監督の人を呼ぼうかと考えたけど、そんなことで呼び出しを喰らう補助監督がかわいそうだ。
雨降らないって思ってたんだけどな。
曇ってはいたけど、雨の匂いしなかったから油断してた。
最悪だよ。
傘、持ってきてないし。
雨がやむまで雨宿りをしようか。
いつ止むか、わからないけど。
その時、ポケットに入れて置いたスマホが鳴った。
相手は灰原君だった。
『椎名さん、傘持って行ってる?』
それは私を心配してくれている内容のもの。
『持ってきてない。任務は終わったの?』
『うん!七海と一緒だったから楽勝だった!!』
文字だけなのに、その向こうでニコニコと笑いながら文字を打つ灰原君の顔が容易に想像できる不思議。
『今どこ?迎えに行くよ‼』
『え……いいよ、別に。任務で疲れてるのに』
『大丈夫だよ‼雨の中帰ったら風邪引いちゃうじゃん!!』
『なんか、ごめんね。最寄り駅にいる』
『わかった!!ダッシュで行くから待ってて!!』
『あとで何か奢るね』
最後のメッセージは既読がつくことはなかった。