【狗巻棘】舞台、閉幕。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
棘は知らない。
棘がくれる誕生日プレゼントは全部恵とかぶっている。
ぬいぐるみ、ネックレス、ピアス……。
デザインや色は違うけれど、同じなのだ。
それを大切にしまっている。
何でこんなにも被るんだろうと疑問に思った。
けどすぐにその答えはわかった。
一つ下の後輩である野薔薇が、恵と棘に同じ雑貨屋を紹介していたのを耳にした。
野薔薇を見ると、まっすぐに私を見つめて……いや、睨んでいた。
終止符を打てと言わんばかりに。
隠していたのに。
知られないために。
私の努力を水の泡にしたんだ、野薔薇は。
知られないために努力したのに。
知られてしまった。
恵とかぶっている誕生日プレゼント。
息ができなくなった。
だけど、奥歯を噛みしめて棘を追いかけた。
どこにいるのかわからない。
必死に校舎を探し回っていると、窓の外に棘の姿を見つけた。
急いで彼の後を追う。
棘が向かった場所は高専の区画内にある湖。
少し離れた場所で、彼の様子を見ていた。
上がる息を押し殺し、気配を消して。
棘は紙袋の中から小さな箱を取り出す。
しばらくそれを見つめる彼は、苦しそうに顔をゆがめる。
綺麗な曲を奏でていたその箱は。
綺麗な孤を描きながら空を舞い。
捨てられて湖の底へ消えた。
「棘……」
何も言えなかった。
どうすることもできなかった。
こういう時、どう声をかければいいの。
どうしてこんな風になってしまったの。
私はただ、ずっと幼馴染のままでいられたらよかったのに。
「野薔薇……私はどうすればよかった?棘の気持ちに応えてやればよかった?知らないフリしないでちゃんとすればよかった?」
いつの間にか私の後ろにいた野薔薇に声をかける。
震える声を必死に抑えながら、私は一つ下の後輩に最適解を求めた。
だけど、野薔薇は何も言わなかった。
こういう時、何も言ってくれないんだね。
傷付けることが優しさだなんて、私はどうしても思えない。
思えないけど、結局私は棘を傷付けた。
大切な幼馴染を。
大好きな幼馴染を。
「どっちにしても、傷つけない方法なんてなかったと思いますよ、私は」
野薔薇はそれだけしか言わなかった。
私は、棘も恵も傷つけてしまった。
自分勝手な我儘で。
溢れる涙を抑えきれない。
震える棘の背中はとても小さく、私の心を苦しめる。
オルゴールが奏でていた恋の歌は。
とても綺麗で優しく柔らかかった。