【狗巻棘】舞台、閉幕。
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そして誕生日当日。
パーティーはお昼を少し過ぎたあたりから。
恵の任務が終わる時間に合わせた。
幸か不幸か。
この日、任務がないと言っていた棘も急な任務が入ったために朝からいなかった。
ホッと胸をなでおろす。
思い出すは今朝の夢。
なんであの夢を見てしまったのか。
誕生日だと言うのに、なんでこんな重い気分にならなくてはいけないのか。
教室のカーテンをを見る度にキスを思い出す。
今は棘に遭いたくなかったから本当に良かった。
逆に、恵に会いたい。
一秒でも早く。
「馨、何かあったのか?」
「え?」
「誕生日だってのに、暗いじゃん」
「あたりまでしょ~真希。だぁいすきな恵がいないんだもん。ね~、馨」
「悟、今ちょっと黙ってて」
「酷い……」
床に倒れ女の子座りをしながらしくしく泣く190㎝以上の28歳男児を無視し、私はぐっと背伸びをした。
教室には、恵と棘を除いた人間が集まっていて、あとは二人が帰ってくるのを待つだけ。
「椎名馨!!物まねします!!」
「いきなりどうしたんすか、馨先輩」
手を挙げて、教壇の上に立つ。
驚いた顔がいくつも私を注目している。
昨日見たドラマの物まねをすれば、意外とウケが良くて調子に乗った。
気分が晴れていくのが自分でもわかった。
「次、やります!!」
「いいぞ、いいぞ~」
ケラケラ笑う彼らの声援を耳にしながら、物まねを披露しようとした時。
扉が音を立てて開いた。
そっちに視線を移すと、ずっと待っていた人物二人が同時に入ってきた。
「もぉ~遅いよ、二人とも」
悟が腰をくねらせながら、二人の肩を掴み教室の中へと引きずり込む。
恵を見れば、これ以上ないくらい目が死んでいた。
「やっと来たな。お前らを待ってたんだよ」
「高菜」
「昨日見たドラマの物まねだってよ」
本日の主役が何やってんだって目で私を見る棘。
でもおかげで今棘を見ても大丈夫になった。
そうじゃなかったら絶対今、目なんて合わせてらんないもん。
仕切り直し、とでも言わんばかりに咳ばらいを一つして、再び教壇の上に立った。
大きく息を吸って。
そして気が付いた。
この状況は、夢と同じだ。
違うのは、棘以外の人間もいると言う事。
気が付いたけど、遅かった。
私は吸った勢いのまま、ドラマのセリフを吐き出した。
「実の兄だろうと関係ないわ。私はお兄様を愛しています!」
震える声で私は叫ぶ。
実の兄に恋をした妹。
禁断の愛。
私たちの恋は禁断ではないけれど、決して結ばれてはいけない。
今更になって自分のセリフが胸に刺さる。
「私を引き裂いて私の魂をみてください。そこに私の本当があります!」
泣き出したくなった。
たとえドラマのセリフだとしても、棘に聞いてほしくなかった。
昨日の夢のせいだ。
棘の気持ちが痛いほど伝わってくる。
棘の気持ち。
棘の本音。
こんなに私を想っていたなんて。
「……どういうドラマ?」
物まねが一通り終わった後、恵がぼそりと呟いた。
誰もが思ったであろう感想を述べてくれてありがとう。
今、誰かが何かを言ってくれないと、私が崩れてしまう。
私の理想とする私を演じる事が出来なくなってしまう。
教壇では、便乗した悠仁が何か物まねをしてゲラゲラと悟が笑っている。
そのバカさが今はすごい羨ましい。
馬鹿でいてくれてありがとう。
棘の本当が分かったけど、でもそれでもやっぱり私は彼の気持ちには応えられない。
それが彼を深く傷つけたとしても。
一通り物まねをして満足したのか、ようやく私の誕生日会が始まった。
真希と野薔薇と悠仁で作った手作りのケーキに、私も悟も目を輝かせる。
形はお世辞にもいいとは言えないけれど、私の為に作ってくれたと言うのが嬉しい。
「五条先生に作ったんじゃないんだかんな」
「分かってるよ~」
悠仁に注意され、少ししょんぼりする悟。
子供に怒られる大人ってどうなんだ。
クスクスと笑いながら、パンダがケーキを切り分けてくれた。
お皿に乗った一切れのケーキとチョコのネームプレート。
ああ、おいしそう。
早く食べたい。