【狗巻棘】舞台、閉幕。
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恵からキスをしてくれるなんて珍しくて。
それが嬉しくて、浮足立つ足取りで高専の廊下を歩いていた。
そしたらちょうど買い物帰りの棘が真正面からゆっくりとした足取りで歩いてきた。
その手には何か握られてるけど遠くてよく見えない。
「あ、棘~」
何を買ってきたのか知りたくて、大きく手を振って足早に近づく。
そしたら棘はそれを背中に隠した。
なんで隠すんだろう。
あ、そうか。
私の誕生日プレゼントだな。
どこのお店に行ってきたのか聞き出そうと、棘の顔を見る。
身長差がある為、嫌でも上目遣いになってしまう。
「こんぶ」
何でもないような素振りをしているけど。
棘、演技下手くそだね。
私のことを好きになってから、棘は自分の気持ちに嘘をついている。
私が恵と付き合っているからなんだろうけど。
「明後日私の誕生日でしょ?だからみんなでお祝いしようって話してて、明後日空いてる?」
首を小さく傾げた。
野薔薇の言う通り、棘が棘に嘘をついて傷ついているなら解放してあげよう。
だから、我慢しなくていいから、自分の気持ちぶちまけてよ。
そしたら私が、棘の気持ちを、傷ついた心を解放してあげるから。
なんて思うのは、上からすぎ?
でも、やり方なんて知らないから。
クズみたいな言い訳を述べながらも、私は私の望む言葉を棘の口から吐き出されるのを待った。
だけど、棘は。
「しゃけ」
「ほんと?やった!!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて無邪気に喜ぶ姿を見ても。
唇に弧を描いても。
「じゃあ、明後日楽しみにしてる。誕プレもね」
「ツナマヨ、明太子」
「あはは、バレた?」
「ツナツナ」
「あはは!!じゃあ、またね」
何も言ってこなかった。
満面の笑みを浮かべたら、棘も満面の笑みを浮かべて。
ああ、私はなんて酷いことを棘に押し付けてしまったのだろうか。
棘の下手くそな嘘を剥がすことはできないだろう。
そう思った。
それでもやっぱり、棘は大切な幼馴染に変わりないから。
「棘ー!!何か悩み事あったら言ってね!幼馴染なんだから隠し事、なしだよー!!」
なんてひどい言葉なんだろう。
彼が何で悩んでいるかなんて私が一番知っているのに。
全部わかったうえでこんなことを言っている私はなんて卑怯。
だけどこの卑怯さに免じて、何かを言ってくれればって、そう思っただけなんだ。
とても怖い。
本当の私を棘に見せるのが。
そして彼の心の中を覗くのも。
私はずるい。
どこまでもどこまでも。
野薔薇。
あんたは私のこと大好きだって言ってくれたけど。
こんな先輩を好きだなんて言っちゃだめだよ。
こんなクズな人間を。
アンタは、真希みたいな芯の通った女になるんだよ。