【狗巻棘】舞台、閉幕。
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あの子はきっと私のことが好きなんだと思う。
小さい頃からずっと一緒にいた。
所謂、幼馴染。
いつの間にか彼の気持ちに気が付いていた。
もうずっと前から知っている、その気持ち。
幼い頃は自分の言葉で傷つけられた時もあった。
その度に、誰よりも傷ついた顔をする彼を助けたくて。
安心させたくてずっと笑っていた、傷ついてほしくなかったから、大切な幼馴染だから。
彼の気持ちを確かめる勇気なんてなかった。
それ以上の関係なんて望んでいなかった。
ただ、幼馴染のままでいられればよかった。
彼の言葉で、彼自身を呪ってほしく、なかった。
そう思っていただけなのに。
私と彼は幼馴染だったけどあっちは一度も私の名前を呼びはしなかった。
私を傷つけないために、誰も傷つけないために、語彙を絞って、話をする彼の優しさに甘えた。
誤算だった。
まさか私のことを好きになるなんて思っていなかった。
私は恵の事が好きで、恵と付き合っていたから。
焦った。
どうしようと思った。
恵と付き合っていることを知られてはいけないと思った。
けど、たぶん。バレていたと思う。
勘のいい彼のことだから。
もし彼に告白をされたら私は彼の想いを断らなければならない。
だけど、彼を傷つける事だけは嫌だった。
それだけは絶対にしたくなかった。
棘が傷つかない優しい世界。
だから私は彼の気持ちに気づかないフリをした。
演じたのだ。
何も知らない私。
棘が望む私。
私が望む私。
全てを演じた。
うまく演じられたかはわからない。
けれど私は、理想の自分を演じたのだ。
私の誕生日が明後日に近づいてきた。
毎年毎年もらう誕生日プレゼントは、大切にしている。
「ありがとう」と笑って。
だけど棘は知らない。
彼がくれる誕生日プレゼントは全部恵とかぶっている。
ぬいぐるみ、ネックレス、ピアス……。
デザインや色は違うけれど、同じなのだ。
それを大切にしまっている。
ネックレスやピアスとかのアクセサリーは恵とデートするときだけ。
それ以外ではつけない。
そうでもしないと棘を傷つけてしまうから。
何でこんなにも被るんだろうと疑問に思った。
けどすぐにその答えはわかった。
一つ下の後輩である野薔薇が、恵と棘に同じ雑貨屋を紹介していたのを耳にした。
だから問い詰めた。
なんでそんなことをするのか、と。
そしたら野薔薇は前髪をかき上げて、私を睨んだのだ。
「傷つけないのが優しさだと思ったらそれは大間違いっすよ。傷つけるのも優しさの内なんじゃないんですか」
「………」
「いつまでも隠し通せるわけ、ないじゃないですか。馨さんも同じくらい傷付いているくせに」
「………」
「私は、同期が傷つく姿も、尊敬している先輩が傷つく姿も、大好きな先輩が傷つく姿も、何も見たくないんです。早く、解放してあげてくださいよ」
それだけ言って、野薔薇は私の前からいなくなった。
これが彼女なりの優しさだって分かっているし、皆の事を思っての言葉だともわかっている。
分かっているけど、どうしたらいいのかわからない。
だってずっとそうやって演じてきたから。
演じるのをやめた時、一体どうなるのか、私には想像ができない。
棘を、棘の、傷つく姿を、もう二度と見たくないのに。
私が、私の手で傷つけることが優しさだなんて。
そんなの優しさなんかじゃない、残酷な行為だ。
頭の中でぼぅっとそんなことを考えていると、私の前に誰かが立ったのか、影ができた。
顔をあげれば、大好きな恵が心配そうに顔を覗き込ませていて。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。明後日の誕生日のこと考えてたら、寝不足なだけ~」
「子供かよ……」
「恵よりは大人ですけど?」
「はいはい」
呆れたような口調だけど、その唇は優しく弧を描いている。
恵のこの笑顔が好き。
ずっと見ていたい。
ずっとそばにいたい。
恵の笑顔を自分だけのものにしたい。
「馨さん」
「ん~?なぁに、めぐ……み」
名前を呼ばれて、顔をあげると。
唇に恵の唇が重なった。
リップ音と共に離れる唇。
真っ赤になった私の顔を見て、恵がプッと噴き出して笑って。
「誕プレ、楽しみにしていてくださいよ」
と、眩しい笑顔を見せるものだから。
今日この日を、「椎名馨がキュン死した日」として祝日にしてほしい。