【狗巻棘】舞台、開幕
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その日の夜、夢を見た。
教室の教壇の上。
いつもと変わらない高専の制服に身を纏った馨が何かを叫んでいる。
なんて言っているのか、わからない。
音のない声。
なのにどうしてだろう。
胸が痛い。
教壇で何かを叫んでいた彼女は。
窓際に歩いていき、纏められていたカーテンのタッセルを解き、身体を包みこんだ。
真っ赤な唇に真っ白なカーテンは、妖艶で魅惑的で俺の欲望を掻き立てる。
君のために買ったプレゼントそのものだ。
そう思ってしまえば、それにしか見えなくて。
音のない声は、何かを謳っているような。
そんな風に思えて仕方がない。
夢だからだろうか。
口を開けば。するりと。言葉が零れる。
いつもなら呪ってしまう言葉は。
この場では誰も呪いはしない。
「馨」
ずっと呼びたかった名前。
ずっとずっと。
君の名前を、俺の言葉で、俺の音で、言いたかった。
彼女の名前を何度も紡ぎながら、ゆっくりと真っ直ぐに彼女が隠れているカーテンへ歩いていく。
隙間から覗く瞳は俺を映している。
両の手で真っ白なカーテンを左右に開いた。
驚いた顔で俺を見上げる彼女。
少しだけ開いた口からのぞく真っ赤な舌。
その夜、俺は夢の中で。
あの子にキスをした。
衝撃で目を覚ました。
すでに日は昇っている。
いつもより少し早い目覚め。
俺の全身は汗で濡れていた。
ありえない。
幼馴染で、大切で可愛い後輩の彼女にキスをするなんて。
馨は俺のことを弟みたいにしか思っていない。
それ以上のことなんて……。
恵だって俺のことを信用してる、はず。
そんな俺が、彼らの思いを裏切っているなんて知られてしまったら、どれほど傷つくだろう。
傷つけてしまうだろう。
俺の気持ちは、彼らに悟られてはいけない。
隠さなきゃいけない。
俺は俺の気持ちに嘘をついた。
そうすることで彼らを守っていたし、自分の心も守ることができた。