【狗巻棘】舞台、開幕
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
俺はきっとあの子のことが好きなんだと思う。
小さい頃からずっと一緒にいた。
所謂、幼馴染。
いつの間にか好きになっていた。
もうずっと前から抱いていた、この気持ち。
幼い頃は自分の言葉で傷つけた時もあった。
けど、嫌な顔一つしないで笑ってくれて。
その笑顔が何よりも好きで、ずっとそばで見ていたくて。
自分だけのものにしたくて。
だけど告白する勇気なんてない。
それ以上の関係なんて望んでいない。
ただ、彼女の側にいられるだけでよかった。
俺の言葉で、彼女を呪いたくなんて、なかった。
そう思っていたのに。
「いらっしゃいませー」
任務のない、休日のある日。
俺は、出かけていた。
任務がない、とはいえ。
いつ何があるかわからないから、私服ではなく高専の制服で原宿を歩いていた。
そしてとある店に足を運ぶ。
そこは女の子の集まる雑貨屋。
周りは中学生や高校生がいっぱいいて8割が女性で2割がカップル。
そんな中に男一人でいるこの状態。
正直耐えられないし、1分ももたない。
逃げたい。
けど、逃げる訳にはいかない。
俺は、とある目的のためにここにいるのだから。
とはいうものの、やはり居づらい雰囲気と言うか、居心地の悪さを感じてしまう。
のは、一人でいることに対して周りがこっちを見てニヤニヤと笑っているからだと思う。
早く、目的のものを買ってここから去ろう。
と言う時に限って、どうして人は人を追い詰めるのだろうか。
「何かお困りですかぁ?」
逃げられない状況が、俺の前にやってきた。
必要以上に高い声。
体が強張る。
話しかけないでほしいオーラを出していたというのに、話しかけてくるなんて……。
「彼女さんへのプレゼントとかですかぁ?」
「しゃ、しゃけ……」
「え……?しゃけ??」
誰も呪わないためにおにぎりの具でしか会話をしない俺に、店員は目を点にした。
こういう時、真希やパンダがいればいいんだけれど。
しどろもどろになりながら、俺は必死に店内を見渡す。
もうなんでもいい。
なんでもいいから早くこの場を立ち去りたい。
そしてとあるものを指さした。
俺が指さしたものはオルゴール。
どんな音色を奏でるのか、知らない。
ただ、真っ白な箱に小さなガラス玉が埋め込まれていた。
逃げたくて適当に指さした物だったけど、一瞬で一目惚れをした。
真っ赤に光るガラス玉は、あの子の唇の色。
真っ赤なグロスを付けている、あの子のカラー。
野薔薇に感謝しなければ。
幼馴染誕生日プレゼントを買いたいけど、何がいいかわからなくて悩んでいた時に、野薔薇がこの場所を教えてくれた。
ラッピングを待っている間に、店内をぐるりと見渡す。
ネックレスやイヤリング、マグカップなどが立ち並ぶ店内。
どれも魅力的だけど、あのオルゴールに勝るものはなくて、いい買い物をした。
喜んでくれるといいけれど。
「お待たせしましたー」
綺麗にラッピングされたプレゼントを大切に持って、俺は寮へと戻った。
寮へと戻ると、ちょうど真正面から幼馴染がるんるんと軽い足取りで歩いてきた。
椎名馨。
俺の幼馴染。
好きな人。
そして、恵の彼女。
俺は恵の彼女を好きになった。
好きになった早さで言えば俺の勝ち。
だけど想いを伝えた早さは恵の勝ち。
俺の方が彼女のことを想ってるだとか、俺の方が早く彼女のことを好きになったとか、そんな女々しいことは考えてないし、考えたとしても自業自得に過ぎない。
だから、何を想っても何をやってももう手遅れ。
今更自分の気持ちを伝えたところで、彼女は俺の事を見てはくれない。
「あ、棘~」
俺の姿に気が付いた彼女は、大きく手を振って足早に歩いてくる。
プレゼントを見られたくないから、後ろに隠した。
俺よりだいぶ身長の低い彼女は、自然と上目遣いをしてくる。
仕方ないんだろうけど、やめてほしい。
俺の気持ちなんて彼女は知らないから、なんとも思っていないんだろうけど、俺からすればそれは毒だ。
恵、ちゃんと注意しなくちゃ。
馨は無自覚天然男誑しなんだから。
「こんぶ」
「明後日私の誕生日でしょ?だからみんなでお祝いしようって話してて、明後日空いてる?」
小さく首を横に傾ける馨。
本当にやめてほしい。
俺のこの恋心にこれ以上火をつけないで。
「しゃけ」
「ほんと?やった!!」
ぴょんぴょんと跳ねて。
真っ赤な唇が弧を描く。
あぁ、どうして俺は……。
「じゃあ、明後日楽しみにしてる。誕プレもね」
「ツナマヨ、明太子」
「あはは、バレた?」
「ツナツナ」
「あはは!!じゃあ、またね」
にっこりと笑って。
俺も笑った。
遠のく背中を見つめ、そして誕プレに目を移す。
彼女がこれを喜んでくれたなら、それだけで俺は。
部屋に入ろうとした時、遠く離れた場所から馨が声をかけた。
俺に届くように大きな声で。
「棘ー!!何か悩み事あったら言ってね!幼馴染なんだから隠し事、なしだよー!!」
それだけ言って、今度こそ俺の前から姿を消した。
だからでしょ。
幼馴染だから隠すんでしょ。
恵の彼女だから、大切な後輩の彼女だから、隠すんでしょ。
じゃなきゃとっくの前に好きだと伝えている。
強く拳を握りしめた。