【釘崎野薔薇】そのわけを
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放課後、馨は数日後に迫ったテストに向けて勉強していた。
部屋では誘惑に負けてしまいどうしても集中できず、誰もいない静かな教室で真面目に取り組んでいた。
ノートと教科書を開きペンを走らせる。
最初の1時間は集中できていたのだが、ここ最近の激務に身体が限界を迎えたのか、うつらうつらと船を漕ぎ始めた。
ゆっくりと項垂れる頭は机に静かにぶつかり、そのまま深く馨は眠ってしまった。
「馨ー?」
その時、彼女の名を呼ぶ声が廊下から聞こえてきた。
クラスメイトの釘崎野薔薇だ。
虎杖と伏黒と一緒に4人で勉強をしないかと誘いに来たらしい。
教室を開けた野薔薇は机に突っ伏して寝ている馨に気が付いた。
すやすやと眠る彼女を顔はどこか幸せそうで、どんな夢をみているのだろうと思い小さく笑みを零した。
「涎出てるわよ。汚いわね」
口の端から零れる馨の涎を持っていたティッシュで拭い、ゴミ箱に捨てる。
大きな音を立てないよう椅子に腰を掛けると野薔薇は、愛おしいものを見るような眼差しで暫く馨の寝顔を見つめていたが、少しだけ開いた彼女の唇に釘付けになった。
ふっくらとした唇は触れたらとても柔らかそうだ。
そんな考えが頭を過り、野薔薇は慌てて首を横に振った。
クラスメイトのしかも同性に対して、そんな事を考える自分に嫌気が差してしまったのだ。
「……起きなさいよ」
机に転がっている馨のシャープペンシルを手に取り、つんつんと彼女の頬をつつく。
その度に、シャープペンシルの上に着いた小さなキーホルダーが左右に揺れる。
以前、買い物に行った時馨と一緒にお揃いの物を買ったのだ。
馨のシャープペンシルには赤い薔薇が、野薔薇のシャープペンシルには向日葵が。
小学生女児が好んで使いそうな物に、初めは抵抗があったが「これ野薔薇じゃん。かわいい」と言った彼女の一言で、先ほどまで抱いていたはずの抵抗感はどこかへ消えた。
単純だと思う。
馬鹿げていると思う。
それでも嬉しかった。
溢れ出すこの感情を"そう"だと言うなら、野薔薇はこの時馨に淡い気持ちを抱いてしまったのだ。
頬をつついても起きる気配のない馨。
ごくりと喉が鳴った。
辺りを見渡し誰もいないことを確認した野薔薇は、ゆっくりと馨の唇に自分の唇を落とした。
少しだけ乾いていたが、やはり想像通り彼女の唇は柔らかく、無意識に何度も啄む。
時間にして数秒。
彼女とのキスを味わった野薔薇は、同性にキスをしてしまったことへの後悔や夜這いに似たようなことをしてしまったことへの後ろめたさなどでいたたまれなくなり、逃げるように教室を後にした。
再びシンと、静まり返る教室。
時計の針の音だけがやけに大きく響いている中、馨は目を覚ました。
「え?」
間抜けな声が自分の喉から零れる。
野薔薇にキスをされた。
その事実に頭が混乱して情報を上手く処理できない。
まさか、野薔薇は自分のことが好きなのか。
でも「あの野薔薇に限って。それに同性なのに」という疑問が何度も何度も頭の中に浮かぶ。
野薔薇のことは嫌いじゃない。
むしろ好きな方だ。
でもそれは、恋愛感情ではなく友情的な意味で、だ。
だからこそ知りたいと思った。
いつから――なのかと。
しかし、聞いていいものかどうかわからない。
そうでなくても人数の少ないクラスメイトなんだ。
聞いてしまって変に関係がこじれてしまう方が馨にとっては苦痛だった。
だから何も聞かなかった。
野薔薇の方から何か言ってくるかもしれない、そんな思いもあったから。
しかし、案の定と言うか想像通り、野薔薇は何も言わなかった。
いつもみたいに明るい声で馨の名前を呼んで、楽しそうに笑っている。
つまりそういうことだ、そう言い聞かせた。
もしかしたら一時の気の迷いだったのかもしれない。
もしかしたら自分が見ていた夢だったのかもしれない。
そう言い聞かせて。