【虎杖悠仁】勇気一つを友にして
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「先輩、俺の誕生日いつかわかります?」
「わかっ……らない。ごめん。いつ?」
「3月20日!!」
頭がようやく会話に追いついた時には、既に話題が流れ去った後だった。
しょうがない。
さっきの言葉は聞かなかったことにしよう。
動揺を悟られないように「へ、へえ!そうなんだ!」と無理矢理テンションを上げて喋った。「遅生まれなんだね。そしたら来年みんなでお祝いしないとだね‼︎」と。
「俺、1年の中では一番誕生日遅いんスよ。釘崎が1番早くて、なぜか自慢げに威張ってました」
「野薔薇と虎杖には悪いけど、伏黒が1番年上に見える」
「うわ、まじか。でも、伏黒も早生まれだからまだ15歳っスよ」
「15歳‼︎」
「釘崎もまだ誕生日きてないから15歳」
その数字に思わず目を見張った。
「伏黒が15とか……マジで見えない」
「えっ!俺は?」
「虎杖は、う〜ん、年相応って感じ。たまに欲望に忠実な中学生って感じでもする」
「ひでぇ‼︎1年の中では俺が1番料理できるのに‼︎」
「誕生日と関係なくない?」
先輩ってば、まじでひでぇよ……。
呆れたように呟く声が、いつもと全く違って聞こえた。
伏黒みたいに色気のある低音に鼓膜を揺さぶられて、虎杖の方を見てしまった。
「先輩、俺のこと、もしかして弟みたい、って思ってない?」
そう言った彼の目が、夕陽に照らされて真っ赤に燃えていた。
たまに見せる、威圧感のある、あの視線。
真っ直ぐで、純粋で、まぶしすぎて、目が焼けてしまいそうなほどの視線。
見続けることが耐えられなくて、思わず顔を背けた。
辺りが暗くなるに連れて、蝉の声がだんだん小さくなっていく。
1匹、また1匹。
「弟みたいっていうか……年下だからね、虎杖は」
やっとのことでそう言った。
理性がなんとか踏みとどまった。
だけど、俺は先輩の弟じゃないっすよ、と甘い声が飛んでくる。
「弟じゃないから、こういうこともできる」
ぐっと身体が近づいた。
平均身長より少しだけ高い虎杖だけど、いつもよりずっと大きく見える。
ジッ、と音を立てて、最後の蝉の声が止まった。
沈黙が訪れた公園の木の下で、虎杖が言った。
「虎杖悠仁として、一人の男として、俺を見てよ。先輩」
「……っ!」
この官能的な顔を、彼は無意識にやっているのだろうか。
抉るように顔を覗き込まれて、どこを見ていいのかわからない。
あちこちに視線を彷徨わせていたら、突然唇を塞がれた。
「んっ…!?ぅ…、」
やわやわと啄まれて、角度を変えて粘膜を合わされて、唇が離れた後も驚いて固まっていると、馨先輩、と喘ぐ声が聞こえた。
「俺、誰かに教えてもらったわけじゃないんスけど、わかるんです」
訴えるように言う虎杖は、なんだか泣きそうな顔をしていた。
「これが好きってことなんだなって……キスのやり方も、多分その先も、なんとなくわかるんです」
"誰かに教えてもらったわけじゃないのに"
私も、なんとなくわかってしまう。
神様なのだろうか。
神様のせいなのだろうか。
「……先輩は?俺のこと、好き?」
「……………私は……」
言いかけて言葉を飲み込む。
言っちゃダメだと思った。
自分が知っている少ない言葉の中から、虎杖への気持ちを表す単語を探すとしたら、きっと私も彼と同じ言葉を選ぶだろう。
でも、私達は呪術師で、いつ死んでもおかしくなくて。
しかも虎杖は宿儺を受肉していて、いつかは虎杖を殺さなくちゃいけない日が来るかもしれなくて。
そうなった時、虎杖と付き合うことになったら、きっと私はそう簡単に虎杖を手放すことはできない。
みんなにも迷惑かけるし、虎杖にも気を遣わせてしまう。
今みたいにみんなで笑って帰ることも……あぁ、でも!!
「……………私も……!」
わかってる。
ダメだってわかっている。
頭ではわかっているのに、熱く滾る血液が体中を駆け巡る。
勝手に身体を突き動かしてくる。
太陽を目指して飛んだイカロスのように。
夏のかがり火に自ら飛び込む羽虫のように。
ダメだとわかっていても、自分の理性を超越した何かが、思考を勝手に支配してくる。
「私も……!虎杖のことが好きだよ……っ」
震える声を押し出した時、熱い雫が頬を伝っていった。
あぁ神様、もしあなたが存在するのなら、どうか笑ってください。
間抜けなイカロスで構わないと思ってしまった私を。
笑ってください。
間抜けな私たちを。
次ページ、補足があります。