【虎杖悠仁】勇気一つを友にして
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
"むかーし ぎりしゃーのー いかろーすーはー"
「何ですか、その曲」
「え?」
伏黒に尋ねられて、自分が無意識に歌を口ずさんでいたことに気が付いた。
任務後、たまたま一緒になった一年ズと歩いていた帰り道のことだった。
「知らない?この歌。小学校の音楽の授業で習った気がするんだけど」
そう言って次のフレーズも口ずさむと、伏黒は「記憶にないです」と顔をしかめた。
「じゃあ私と伏黒の学校は、違う教科書だったのかな」
「世代が違うからじゃないですか?」
「意外と失礼な奴だな。1学年しか違わないじゃん」
伏黒の腕に軽くパンチをしたら、前方で釘崎と話していた虎杖が振り返った。
その視線にチリッと肌が焦がされた気がして、慌てて目線を伏黒に戻す。
わざと気付かないフリをしていたら、虎杖はまた前を向いて釘崎と話し始めた。
「その曲は初めて聞きましたけど、イカロスの話なら知ってますよ」
ギリシャ神話ですよね?と伏黒の声が降ってくる。
「確か、蝋燭の"ろう"で、翼を作って空を飛んだんでしたっけ」
「うん。太陽に向かって飛んだ」
馨は喋りながら、目の前を歩いている虎杖を見ていた。
「そして高く飛びすぎて、太陽の熱で翼が溶けて海に落ちて死んだ」
間抜けですね、と正面を向いたまま、伏黒が言った。
「普通気付きますよね。溶けるって」
「というかまず、素材を選んだ時点で間違ってたよね」
「もっと言うと、ろうで飛べるわけなんてないですけどね」
「そこは突っ込んじゃダメ!」
明るく言って笑い飛ばすと、じゃあ、俺こっちに用事あるんで、と伏黒が右手を上げて背を向けた。
私もちょっと買い物してから帰るんで!と釘崎も挨拶をして伏黒を追いかける。
「あまり夜遅くならないようにねー!!」
そう言って2人に手を振った。
先程までは、確かに煩い集団だったのに、伏黒と釘崎と別れたことで、馨と虎杖が残った。
2人だけの時間が訪れる。
「あ!先輩」
公園の前を通りがかった時、虎杖が急に足を止めてブランコの方を指差した。
「蝉が鳴いてる」
そう言って走って行ってしまう。
ちょうどすれ違った犬を連れたおばさんが、不思議そうに虎杖を見ていた。
違うんです、別に私たちは蝉好きな人間という訳ではないんですよ。
なんて苦笑だけを返して、馨も虎杖の後を追いかけた。
彼はブランコの後ろに立つ、大きな木を見上げていた。
「さっきと鳴き声が違う」
上を見たまま、虎杖が言った。
「種類が違うのかな」
その言葉に、馨も耳を澄ました。
カナカナカナ……と鳴いているこれはなんていう種類だろうか。
昼間よりもぐっと気温の下がった夕方の空気が、火照った身体を冷やしていく。
「不思議だよなぁ。なんで種類が違うと鳴く時間も違うんだろ」
「他の種類と混じっちゃったら、わけわかんなくなるからじゃない?」
「でも、『俺たちはこの時間に鳴くんだ!』って、生まれた時から知ってるってことですよね?誰かが決めたわけじゃないのに」
「さあねぇ。神様が決めたんじゃない?」
「神様かぁ……」
適当に言った馨の台詞に、虎杖は少しだけ首を捻った。
目線だけを斜め上に向けて、何か考えている様子だった。
「じゃあ、俺が馨先輩のことを好きになったのも、神様が決めたのかな」
「えっ?」
「昨日って、何の日か知ってます?」
「昨日?」
突然切り替わる話題に、馨は目をパチパチと瞬かせた。
昨日なんて何か特別な日だっただろうか。
というよりも、今この子はとんでもない爆弾発言をしたんじゃないだろうか。
「昨日は、俺のじいちゃんの誕生日だったんスよ」
笑う虎杖に、へえ、そう……なんて言葉しか出てこなかった。
いや、待って、虎杖くんよ。
今私のこと好きって言った?
ねぇ、好きな食べ物言うみたいにサラッと流してるけどさ、私それ初耳だったんですけど。
混乱する馨を他所に、虎杖はニコニコと笑っている。