【五条悟】Zapatillas
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「さとるー」
「なにー?」
「まだー?」
「あとちょっと!いい子だから待っててねー」
ベッドに腰掛けている馨は、目の前にある五条悟の背中を睨んだ。
最強呪術師に休みなんてほとんどないくせに、どこで揃えているのか、彼のクローゼットからは次から次へと衣類が飛び出てくる。
五条はその洋服達を並べては、あーでもない、こーでもない、と熱心に鏡の前で比べていた。
馨は腕の中のクッションを力強く抱きしめて急かす。
「ねー!早くしてよー!」
今日は久しぶりのデート。
馨は張り切って早起きして、五条の部屋まで迎えに行った。
なのにそこで目にしたのは、ベッドの上ですやすやと寝息をたてている彼の姿だった。
毎日誰かの尻拭いや出張で疲れているのは馨も十分承知だ。
むしろ貴重な休みの日に一緒に遊んでくれること自体が有難いと思う。
だから寝坊ごときでは怒ったりなんかしない。
けれど、彼の言う"すぐ終わる支度"に終わりが見えないので、いい加減お冠だ。
「さーとーるー!」
馨が上下に揺れるたびにベッドが軋む。
「映画始まるんだけど」
「ごめんてー、じゃあ時間ずらして、いっこ遅いのにしよ?ポップコーンおごるからさ」
「そういうことじゃないんだってば。もう、服なんて適当でいいじゃん!そのままでも十分格好良いよ!」
えー、と鏡の中の彼が口を尖らせた。
「でもでも、せっかくのデートだし、馨もおめかしして可愛くなってるし。僕も気合い入れなきゃ」
嬉しいこと言ってくれる割には、先ほどから鏡の中の自分に夢中のようだ。
私のことなんてちっとも見ていないじゃないか。
普段黒づくめの服に目隠してるくせに。
身嗜みもへったくれもないくせに。
私のため、なんて言うけれど、実際は悟自身のためなんだろう。
だって2人きりの時は、酷い髪型でも平気でへらへら笑ってるし、今だって恥じらいもなく全裸で着替えをしているし、鏡越しに見えてるし。
寝起きの悟の、変に跳ねた寝ぐせや、よれたTシャツから覗く鎖骨も、それはそれで可愛くて大好きだけどね。
馨はぶう、とむくれてクッションに顔を埋めた。
「洋服はこれでけってーい」
五条は鼻歌を歌いながら鏡の前で無意味にキメ顔をしてみせた。
センスのある小綺麗な衣服に身を包んでいる。
確かに、先程までの寝間着姿よりはよっぽど魅力的だ。
「じゃあ……」
「次は髪の毛のセットに入りまーす!」
「最悪……」
馨は諦めてベッドに倒れこんだ。
五条の匂いのする布団が身体を包む。
ねぇ、悟。
そんなにお洒落する必要ってあるわけ?
馨は布団を抱きしめながら、ワックスをつけている五条の背中を見つめた。
どうせ外でも、私の機嫌よりショーウィンドウに映る自分のヘアスタイルのほうを気にするんでしょう。
私の見ていないところで、すれ違う女の子と目を合わせて笑ってみせるんでしょう。
そんなことされても、嬉しくないよ。
馨はもぞもぞと掛け布団の中に潜った。
五条はそれにも気づく様子はなく、楽しそうに準備を整えている。
大きく息を吸う。
五条へのムカムカとする気持ちを、彼のにおいで落ち着かせる。
なんだか変な話だ。
そのうち、だんだん考えるのも面倒になってしまって、早起きも相まって、いつの間にか馨は眠ってしまった。
◆◆◆
何分経ったのだろうか。
「お待たせしましたー、格好良い五条さんおひとつお届けでーす!」
その声を合図に馨は起き上がった。
ベッドの上で座り直して、ふむふむ、と彼を眺める。
「うん、男前になったね」
「どう?どう?」
「だから格好良いってば」
おどけてポーズをとる彼。
その姿を見てまたイライラが募った。
「じゃあいよいよ映画館へ……」
言いかけた五条の言葉を無視して彼のジャケットの胸元を乱暴に引っ張った。
バランスを崩した五条は馨の上に倒れこむ。
その憎らしき頭をぐしゃぐしゃと撫で回してやると、「ちょ、なにし……、やめろー!」と悲鳴があがった。
「いきなりなにすんの!せっかくセットしたのに!」
ぷんぷんと怒る彼がうるさいので、キスをして唇を塞いだ。
さすがに驚いたのか、むう、と押し黙る。
ぱちぱちと瞬きをする両目を見て、馨は満足気に口を歪めた。
「やっと私のこと見てくれたね」
ねぇ、気付いてよ、悟。
私が欲しいのは外面を飾ったあなたじゃない。
鏡を見てる大きな背中でも、他の女の子に向ける笑顔でもない。
私が欲しいのは、私を見つめるその真っ直ぐな視線だけなんだよ。
「ふぅん、そういうこと」
馨の言葉の意味を理解したのか、五条も悪戯っ子のような目で笑った。
「……それなら五条さんは決めました!今日はお出掛けなし!」
そう言うと馨の上にがばりと覆いかぶさった。
布団ごと抱きしめられて、馨もきゃー!とふざけて手足をばたばたさせた。
「今日は1日馨とゴロゴロする日にします!」
「いいのー?せっかくお洒落したのに」
「いいの!」
「ジャケットにシワができちゃうよ」
「関係なし!」
きっぱりと言い放つと、五条は馨に顔を近付けた。
鼻の頭が触れあって、とても近い距離で目線がぶつかる。
右目と左目、どちらを見たらいいのか迷ってしまうほど、近くなって、近くなって、2人は声を上げて笑った。