【加茂憲紀】まだ間に合うからジュリエット
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「ねぇ、私の話ちゃんと聞いてるの!?」
玄関先でシューズを履く加茂憲紀の背中に向かって言葉を放つ。
「聞いている」と低い声で返事があった。
「俺は最初に言ったはずだ。"行けばいい"と」
加茂は立ち上がり、振り返ってこちらを向いた。
先日一緒に選んだ黒の運動着姿だ。
よく似合ってる。
ひどく吊った糸のように細い目をした顔つきは温和だけど、表情に特別な感情は浮かんでいない。
いわば真顔。
デフォルト。
「当然のように言ってるけどさ」
うんざりして、先ほどもした説明を繰り返した。
「私、スノボに行って温泉に入ってくるんだよ、分かってる?」
「ああ」
「あのケダモノたちと!」
「乙骨と虎杖と伏黒と五条さんとだろう?」
日課のロードワークへ行くのを引き止められているというのに、加茂は平然としていた。
「行けばいい」
「気にならないの?」
「何がだ」
あのね、と小さな子どもに言い聞かせるように、1語1語を区切る。
「私が、あの4人と、泊まりで蔵王へ旅行に行くの。他の女子はゼロ」
「真希と釘崎は任務なんだから仕方がないだろう」
「それはそうだけどさ……」
樹氷見にいきたいなぁ、となんとなく呟いた過去の自分を呪いたい。
あれは確か、忘年会的な飲み会の場でのことだった。
参加資格を持つ女子は私以外に二人(真希と釘崎)いたが、五条さんの「僕も見に行きたい!」という一言で、女子は私一人だけとなってしまった。
自分から言ってしまった手前、断ることはできなかったし、虎杖も「行きたい!」と乗り気だったし、五条さんのお守り役として伏黒と乙骨が任命されて少し安心したし、お酒のテンションもあって即決だった。
「男4に女1人かぁー、大丈夫かよ馨」と笑う真希に、「ダイジョーブ、あの加茂憲紀がヤキモチ焼いて『心配だ。行くな』って言うはずない」と返したのは誰だっただろうか。
ひょっとしたら私だったかもしれない。
「行きたくないのか、 行きたいのか、 どっちなんだ」」
尋ねる加茂は、すでにドアノブに手をかけていた。
「行きたいよ、 そりゃ」
と本音を答える。
だって、メンバーはともかく、泊まりで蔵王で温泉でスノボで樹氷の旅行だ。
任務のことなど考えずにこんな楽しい旅行を前に行かないなんて選択肢あるわけがない。
止められてでも行くもん。
そうか、と加茂はドアノブを捻った。
「行きたいなら、 行けばいい」
そう言って、外へと出て行った。
無情に閉じたドアに対して、「でもせめて1回は止めて欲しいの!」と怒ったけれど、おそらく加茂には届いていない。
分かっていた。
最初から分かっていたことだった。
「あの加茂憲紀が嫉妬とかするわけないもんね!?」
私が一番よく分かっていたはずだ、期待するなんて馬鹿だった!
換気扇の音に負けじと、大声で悪態を吐いた。
フライパンの中身をかき混ぜながら、ガタガタと揺する。
色が変わり始めた牛肉と玉ねぎとマッシュルーム。
バターの香りがふんわりと立ち上る。
それを乱暴にかき混ぜる。
ガタガタ。
苛々。
モヤモヤ。
こんなに苛々していても、ちゃんとご飯を用意してあげるなんて、私はすごくいい女だ。
毎日当たり前のように食卓に料理が並ぶことは奇跡のように特別なことなのだと、加茂は理解しているのだろうか。