【五条悟】境界線を跨ぐ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なんか、変だ」
悟がぐらりと瞳を揺らして呟いた。
「俺、変だ」
そう、確かにいまの悟は変だ。
まるで、さっきとは別人のように見える。
けれど悟は私を見つめて「お前、なんでそんな顔してるんだよ」と苦しそうに言った。
「え?」
「その、視線とか、胸とか、太ももとか……なんっつーか、」
悟は真っ赤な顔で視線を彷徨わせ、ぽつりと呟いた。
「……エロい」
「はぁ⁉」
いや、そう言う悟も相当エロい。
なんだよ!
せっかく私がムードを読んで想像で補完してほしいと言ったのに、エロいの一言で片付けられてしまった。
いや、確かにそうなんだけれど、それにしたってなんて薄っぺらい言葉だ!!
私は息を飲んで悟を見た。
もしかして、私達はいま初めてお互いを異性として意識したのだろうか。
ぼんやりとポケットからスマホを取り出した。
画面の時計は昼休みが終わるまでまだ20分あることを告げている。
親指でロックを外すと、先ほど見ていたキスのリストがずらりと出てきた。
それを黙ってスクロールした。
顔を上げると悟も画面を見ていて、私の視線に気が付いてこちらを見た。
そのまま無言で見つめ合って、どちらともなしに背中に手を回した。
「…っ、さと、ぅ……ふ、んん」
合わさった唇の隙間から声が漏れる。
執拗に絡めとられる舌に、身体の中心が熱くなっていく。
あれから悟と私はスマホに書かれているキスのやり方を上から順番に実行した。
もちろん逐一感想を述べ合うこともしない。
それはまあいいのだが、持ち前の勘の良さと器用さを遺憾なく発揮した悟は全てのテクニックを習得してもなおキスをやめようとしなかった。
いつの間にか複数の技を組み合わせて緩急をつけて私を揺さぶり始め、リストに載っていない応用技まで編み出してくる始末だ。
私は気持ちいいのと恥ずかしいのと訳がわからないのとで、後半のほうはずっと彼にされるがままになっていた。
なんとか逃れようと悪戦苦闘した結果、現在は貯水槽の壁を背もたれに地べたに座り込んで、両手を背後の壁に押し付けられている状態になっている。
逃げようにも男子の力に勝てるはずもない。
「……舌、もっと出せ」
荒い呼吸で悟が言った。
この要求も何度目だろうか。
黙ってそれに従うと優しく吸い付かれて甘噛みされる。
ゾクゾクと快感が背中に走った。
悟は夢中で私の唇を貪っている。
けれどそれは欲情に突き動かされているわけではなく、彼が納得いくまで続けていると言った方が、きっと正しい。
舌で口内を犯して、唾液を交換して。
私の反応が悪ければ別のことを試す。
私の身体がぴくりと動いて、声が漏れて、尚且つ悟自身も気持ちよければそれを何度も繰り返す。
短い時間の中で私の弱点が上顎を舐められることと舌を軽く噛まれることだと発見したらしい。
なんという冷静さだろうか。
あぁこれは、と、ここにきて自分のしでかしてしまった事の重大さに気がついた。
私は軽率だった。
彼をファーストキスの相手に選ぶまえにもう少し考えるべきだった。
「馨、馨……っ」
ちゅ、ちゅ、とリップ音の合間に聞こえる切なそうな声に、頭がくらくらした。
は、と息を漏らしたところに、予鈴のチャイムが鳴り響いた。
悟がピタリと動きを止めた。
名残惜しそうに銀色の糸を引いて、唇が離れる。
「……教室、戻るぞ」
すぱっと立ち上がって放置されていたジャンプを拾う悟を見て、ものすごく理性が強い人間なんだなと驚いた。
キスをしていても私の反応を気遣って、昼休みが終われば素直に教室へ帰る。
「あのさ、あの」
屋上の扉から続く階段を下りながら悟に話しかけると、「な、なんだよ」とぶっきらぼうな返事をされた。
生徒のざわめきの中へ戻ると、さっきの濃密な時間が夢みたいで急に恥ずかしくなる。
2人の間にぎこちなさが生まれてしまった。
「あのさ、昼休み終わったら別れるって言ったけど、無しでいい?」
そう尋ねると、
「当たり前だ」
と乱暴に返された。
「……俺は自分の経歴に傷を付けるつもりはねぇし、嘘の告白もしない」
赤くなった耳を見て、あぁ、コイツ、私のこと好きだったのか、と今更ながらに気がついた。
だから勢いで告白もしたのか、と。
納得して自分の席に座りかけて、絶句した。
私は、一体いつからコイツのことを好きだった?