【五条悟】境界線を跨ぐ
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もう一回、と悟が口を開いた。
「もう一回、やっていい?」
「そ、そうだね」
私も反対しなかった。
このまま無感動のまま引き下がるわけにはいかない。
私達はまたキスをした。
唇を重ねて、離す。
「「???」」
2人で首をかしげた。
気持ち良くもなんともない。
「全然思ってたのと違う!なんっっっにも楽しくねぇ!」
悟が叫んだ。
「こういうもんなのかな?じゃあなんで皆キスするんだろ⁉」
私も混乱した。
「いや、きっとなんか間違ってんだよ……ほら、口に力入れすぎなんじゃない?」
「そうか?……いや、どうやって脱力するんだよ」
悟が唇を尖らせて私の肩を掴んだ。
「私もわかんないよ」
自分の指で唇を揉んで、それから合図も無しに2人で唇を合わせた。
ふにゃり、とした感触が伝わる。
「……」
「……」
「柔らかかったね」
「柔らかかったな」
「でもそれだけだね」
「それだけだな」
「……」
「……」
私達にはまだ早かったということか?
いやいやいやいや!!!
私は諦めきれなかった。
すぐさまポケットからスマホを取り出して、検索欄に『キス』と打ち込む。
魚のキスの説明に混じって検索候補に出てきたそれらしきページを開くと、正しいキスのやり方が書かれたリストがずらりと出てきた。
「……なんか、いろいろ種類があるんだね」
私が呟くと、悟も画面を覗きこんだ。
「……『下唇を舐めて、唇を啄むように』」
言うが早いが、私の顎を持ち上げて唇を親指でなぞった。
「……っ!」
今までとは違うもどかしさが身体に走る。
私も悟の頬に手を当てて、同じように唇を撫でてやると、彼も何か感じたようで、吸い込まれるように顔が近付く。
ぺろり、と熱い舌で唇を舐められる。
ぞくぞくとした何かが迫り上がってくるのを感じた。
唇を優しく咥えられて、探るように自分の舌が口外へと伸びる。
悟の唇にも同じように舌を這わせて啄む。
呼吸に混じって彼から掠れた声が漏れた。
あぁ、次はましな感想が述べられそうだ、と思って唇を離すと、いきなり後頭部を抑えられて再び口を塞がれた。
「んぅ……!?」
予想外の出来事に酸素を求めて息を吸い込むと、また下唇を舐められて軽く歯を立てられる。
ちゅ、と音を立てて離れたかと思えば、また角度を変えて口付けられる。
ぬるっとした感触が侵入してきて、私の舌に触れた。
「ちょっと!」
本能的に悟を突き飛ばした。
彼は1歩よろめいたが転ぶことはなく、私と向き合ったまま立ち尽くした。
荒い呼吸と心臓の音だけがやけにうるさい。
悟は自分でやっといて自分の行動が理解できていないのか、手の甲で口元を抑えながら呆然と私を見ていた。
その姿に釘付けになる。
彼の紅潮した頬、乱れた白い髪、蕩けそうに潤んだ瞳。
首筋の汗、ごくりと動く喉、上下する肩、腕の血管、Yシャツから覗く鎖骨。
この気持ちをなんて言ったらいいんだろう。
なんとも言えない……そう、何も言っちゃいけないんだと思う。
私の少ない語彙力で表現しようとしても、現実よりもずっとずっと薄っぺらいものにしかならない。
申し訳ないけれど、このときの私の気持ちは各自想像で補完して欲しい。