【虎杖悠仁】そよめきなりしひたむきなり
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「あのさぁ、椎名さん」
と途方に暮れて呼びかける。
「カラオケ、やっぱ止めにしよっか」
「え?」
馨が驚いたように顔を上げた。
あれは冗談ではなかったのか、と言いたげだった。
「代わりにファミレス行こーぜ。その……」
英語、教えてくんない?と虎杖はバツの悪そうな顔で彼女を見た。
「俺、全く勉強してないからさ」
「………」
「お願いしますよ」
「や、なんで、なんで私?」
「他にいないし」
でも、と馨は立てかけられているギターを見た。
「私、虎杖くんほど英語の発音良くないし」
「ひょっとしてあの歌のこと言ってんの?」
虎杖は鼻で笑い飛ばした。
「歌詞の意味なんてわかってねーよ。ほら、帰る準備しよーぜ」
「いや、でも」
「俺のこと嫌い?」
「や、別にそういうわけじゃ」
「あのさぁ、椎名さん」
虎杖は呆れたように彼女を見た。
「頼むから俺のこと、そんな怖がんないでよ」
「…………」
「さっきの意地悪は謝るからさ」
「ん゛」
「俺はもう少し慎重になるべきだったよな。ごめん」
「……あの」
「ん?」
「私に何を求めてるの?」
馨は泣きそうな顔をしていた。
彼女の持つ、なけなしの勇気を振り絞って、「だって、おかしいよ」と言った。
「私なんかに絡んだって、何も良いことなんてないのに」
「ちょっと!」
虎杖は盛大に吹き出した。
「それどういう意味なの椎名さん。自己評価の低い子とお近づきになりたいと思ったら駄目?」
「駄目っていうか、」
彼女の瞳は潤んでいた。
「何か罠の匂いがする」
「よく言われるけど、ひっでぇよなそれ。俺は悪巧みなんてしないのに」
あー、わかった、と虎杖は愉快そうに喉を鳴らして、スラックスのポケットに親指を突っ込んだ。
「椎名さん、俺のことなんか勘違いしてるでしょ。地味な女子には見向きもしない男に見える?」
「わかんない……虎杖くんて、その……不思議な人だし」
「不思議だってさ!」
彼は声をあげて笑った。
「じゃあこれはあれだ。俺のこと、なんかすんげー奴だと思ってるパターンっしょ?」
「思っ……てる。だって、虎杖くん、なんでも簡単にできちゃうから」
「嘘でしょ。嘘だよ、それ。気付いてねーの?……そんじゃー、椎名さんにだけ特別、教えてあげる」
と彼は足元のギターを軽く蹴飛ばし、背中を曲げて彼女と目線の高さを合わせた。
「俺は勉強が嫌いだからサボってばっかで成績ヤバいし、剣道のこともなんとかなるっしょって考えてる適当で不真面目な男だよ。今日ギターを弾いたのだって、女子の前で格好つけたかったから。けどさ、俺3つしかコード覚えらんねーの」
CとGと、G7。
指を折って数えた彼は、正真正銘、照れくさそうにはにかんだ。
「実は1曲しか弾けねーんだよ。あれが一番簡単な曲。ほら、分かったらさっさと荷物まとめて来いよ、馬鹿。いや、馬鹿は言い過ぎだな。悪い」
と彼は素早く訂正をして、目の前の少女の身体をくるりと半回転させた。
そしてこれから自身の学習能力の低さを露呈しなければならない恥と向き合うべく、その美しい指で彼女の背中を優しく、そっと前へと押し出した。
(ジャンバラヤ
ザリガニパイとヒレガンボ
今夜は可愛いあの子と会うから
ギターを持って
フルーツ瓶をいっぱいにして
陽気にいこうよ
あぁ、もう畜生 ここで楽しく騒ごうぜ)
――― Jambalaya / Song By The Carpenters ―――