【虎杖悠仁】そよめきなりしひたむきなり
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なぁ、この曲なんていうの、と前方に座る男子が小声で尋ねた。
知らね、ともう1人。
集中力切れちゃったから、赤点とったら虎杖のせいにしよっか。
いいね、賛成。
と密やかに交わされる女子の囁き。
誰かのシャーペンが机でリズムをとる音。
肌触りの良い初夏の風が、木々の緑から窓へ、そしてギターを持つ彼の脇をすり抜けて、教室内へと流れ込んでくる。
息抜きという言葉なんてついつい忘れがちな馨のつま先さえも、控えめに曲に合わせてテンポを刻もうとした、その時だった。
「虎杖っ!こんのド阿呆!」
教室のドアと罵声が穏やかな午後の空気を引き裂いた。
音楽は止まり、その場にいた全員の視線が戸口へと向く。
「なぜに呑気にサボタージュしたんだ⁉」
立っていたのは隣のクラスの釘崎野薔薇。
スカートの下にジャージを履いた彼女を目にして、へっ?と間の抜けた声が虎杖の口から飛び出した。
「今日、練習あんの?」
窓際の虎杖が尋ねる。
「ある」
と廊下の釘崎野薔薇。
「テスト休み期間なのに?」
「関係ないわよ。大会近いんだから」
2人を結ぶ線上に座る椎名馨は、口を少し開けたまま、上空を飛び交う会話に合わせて彼らの顔を見比べた。
「朝練だけかと思った。放課後練もあるとか聞いてないんだけど」
「朝の時に言いましたー。それに、五条のバカと夏油さんが来てるわよ」
「うそ、まじで?」
「まじまじ。2人とも張り切ってて正直うざい」
2時間しか体育館使えないんだから早くしなさいよ、とため息とともに虎杖を急かす釘崎野薔薇は、クラスの眼差しなどものともしていない。
「今行くからちょい待ち」
そしてギターは窓際に立て掛けられた。
振動で共鳴する6本の弦。
「虎杖、部活行くんー?」
近くに座っていた男子生徒が、気怠そうな様子で尋ねた。
「そ、行く」
と虎杖は机の上に乗っていたエナメルバックを自身にかける。
特別ガタイがいいわけでもない身体に、重量感のある鞄。
不釣り合い、アンバランス、不安定。
そういった要素は時に、不思議な魅力の引き金となる。
「大変だな。さすが剣道部」
「これでも一応、三連覇目指してますから」
「ご苦労様です」
「いえいえどうも」
「いってらー、虎杖」
別の男子が右手を突き出す。
人差し指と小指を立てて、残りの指の腹を合わせて、こんこん、と手遊びのきつねの形を作っていた。
対して虎杖も、真似して右手できつねを作る。
「いってきまー」
ちゅ、と2匹が軽い口づけ。
げらげらと下品な笑いが男子たちから沸き起こり、女子生徒たちは意味ありげな目配せをし合う。
唯一馨だけが深刻そうな顔をしながら、しなやかに教室を出ていく背中を見送っていた。