【七海建人】男女別々青春トークのすゝめ
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――七海建人side――
そもそもあの時、空腹を訴えて騒ぐ五条さんなんか放っといて、さっさと寮に帰ればよかったんだ。
◆◆◆
平日の夕方の、混み始めた店内。
任務帰りの私と灰原と伊地知君、そして帰り道にばったりと遭遇した五条さんと夏油さんの5人。
テーブルに案内された時は、灰原がレジに可愛い店員がいると騒いでいたからそっちに気を取られてしまっていた。
気が付いたのは席についてから15分後くらい。
運ばれてきた料理の一口目を食べようとした時、ようやく彼女と目が合った。
あ。
隣のテーブルに、馨が座っていた。
テーブル端に座る私、の正面に座る五条さんの、すぐ横。
目が合った瞬間、馨の身体はピタリと硬直し、彼女が口に運びかけていたフォークからずるりとパスタが落っこちた。
それでも目を丸くしてこちらを見ている。
なんでこんなとこで。
「七海?どうかした?」
視界の中に、灰原の顔が入り込んできた。
「え?」と聞き返してから、自分だってスプーンの前で口を開けた間抜けな状態で固まっていることに気が付いた。
「いや、なんでもない」
と笑って、一口分のドリアを口に突っ込む。
まだ熱いそれを飲み込みながら、アニメの話で盛り上がる自分のテーブルの会話に混ざるフリをした。
しながら、ばれないように隣の様子を伺った。
馨も友達の女子たちと来ているみたいだ。
高めのトーンで話す友人に顔を向けながらも、ちらちらこっちを見ている。
その仕草が可愛かったから、よくわからない進化の違いについて語る五条さんのほうに身を乗り出しつつ、組んだ腕をテーブルの上に乗せてこっそり彼女に手を振ってみた。
チラッと視線を向けると、彼女は依然顔を横に向けていたけれど、耳まで真っ赤になっている。
照れてる姿も可愛いなぁ、なんて、つい口元が緩んでしまった。
馨は高専から少し離れた場所にある女子校に通っている。
ひょんなことから仲良くなって、向こうから告白されて付き合い始めた。
でもまさか、こんなことって。
平日の夕方、混んだファミレスの店内、隣り合ったテーブル、斜め前の席。
手を伸ばせば届きそうなほどの距離に、彼女がいる。
ひょっとして、この偶然も運命?
他校どうしの付き合いだから、彼らには私に恋人がいることは知っていても馨と面識はないし、もちろん隣のテーブルに座る女子たちも私の知らない子ばっかりだ。
誰も気付いていない、2人だけの関係。
そんな秘密が照れくさくて、独りでにやけながら目の前の料理を口に運んだ。