【夏油傑】君の恋路に立たされている
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その背中を無言で見送った後、恐る恐る後ろに呼びかけてみる。
「……夏油?」
「夏油です」
ですよね。
「すごい身長差、だって」
おずおずと振り向きざまに見上げる、 私の背後を守るような位置に夏油が立っていた。
真下からのアングルのせいだけじゃないだろう。
表情が険しい。
目が合うと、「ごめんね」と謝ってきた。
「そんな!私も背が低くてごめん」
「違くて、 あいつら」
夏油は遠く廊下の果てを指差した。
「変なこと言ってただろ」
あいつら、とは、五条くんたちのことだ。
「話、聞いてたの?」
「聞いてない。見かけたから近づいたら、逃げられた」
彼はとてもさり気無く舌打ちをした。
元から多少の悪人面ではあるが、獲物を取り損ねて拗ねる動物の姿と重なる。
「悟の奴等に、 何言われたの?」
冷静沈着な虎でも、実は狩りの成功率は低い。
という話を思い出し、「別に」と私は笑った。
「ただのセンパイ……友達想いの高校生です、って」
「なにそれ」
「あと、 好奇心旺盛って言ってた。 それから……」
なんだっけ、と首をひねって、あぁ、と呟く。
「心配性、 だってさ」
「うわ、余計な御世話すぎる」
うへぇ、という声を漏らして夏油は右手をひらひらさせた。
「まぁいいや。後でまとめてシメとく。一旦全部忘れてくれないか」
「待って」
どこかへ行こうとする夏油を引き止めようと、手頃な場所にあった彼のベルトを咄嗟に掴んだ。
うぐ、とくぐもった声がしたので、「あ、 ごめん」と手を離す。
「あのさ、夏油。今朝の、結局どうするの?」
「今朝のって?」
夏油はうんざりしたような顔をしていた。
「靴棚なら、あのままで行きたいんだけど。楽だし」
「違うくて、 そっちじゃなくて」
周囲を気にして、「ラブレター」と小声で囁くと、今度こそ勘弁してくれ、といった表情になった。
「あれがラブレターかどうかは、中身を確認しないとわからないだろ」
と、大儀そうにずれたベルトを直す。
「逆に言うと、私が封を開けるまで、あれはラブレターとは言えない、と、思いたい」
「嘘、まだ読んでないの?」
「読んでない。というか、読めなくなった」
「どうして?」
「盗られたんだ」
抑揚のない声で白状した。
「あいつらに」
あいつら、とは。
もうさすがに分かる。
ラブレターと思しき手紙を盗まれた。
一体どんな経緯を辿ればそんな事態に陥るのか気になるところだったが、「そうなんだ」と私は受け入れることにした。
「お気の毒さまだ」
「本当だよ。 他人の恋路をオモチャか何かだと思ってんだろうね」
淡々と話す彼の声には、すでに観念した気配が滲んでいた。
お手上げです、 流れに身を任せます、 と言わんばかりに。
「夏油の恋路って、縁起良さそうだね」
「他人事だなぁ」
「外野は楽しいよな、と、虎杖?くんが言ってた」
「ほんと、あいつ……」
夏油は鼻で笑って、でも、と続ける。
「その虎杖がさ、手紙の返事をOKしたらどうだってアドバイスしてくるんだよね」
「アドバイスという名の強制だね」
「その通りだよ。でも私にもそれなりに本命がいて」
「夏油の好きな子」
「じゃあそっちが脈無しだったら、手紙の子にはOKしようぜって、あいつら3人は勝手に盛り上がって勝手に調査に乗り出したわけ」
「勝手に」
「そ、勝手に私の本命に聞き込みに行った」
「じゃあ、その子の気持ち次第なわけだ。夏油困っちゃうね」
「夏油さん困っちゃうなぁ」
「大変だねぇ」
「ほんと、大変だよなぁ、お互い」
アハハハ、 と2人で笑う。
恋バナができるくらいに、仲良くなれて良かったなとニコニコしながら、"お互い"ってどういう意味だろう!?とも考えてみる。