【夏油傑】君の恋路に立たされている
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「思春期の娘との距離感が掴めない親父みたいだな」
ひょこん、と割って入ってきたのは、クラスの違うクラスの五条くんだった。
伏黒や夏油と仲良くしてれば、自動的に話しかけてもらえると専ら噂の、五条くんだ。
私の人見知りが功を奏して、余り話したことはないけれど。
「五条さん、やっぱり来たんですか」
伏黒が眉を潜めると、それはこっちのセリフだろ、と五条くんは突き返した。
「恵、興味無さげな顔してた癖に、ホントは気になってたんだ?」
「うるさいですよ」
「何の話?」
不安になって2人に尋ねた。
五条くんはニンマリ笑い、「こういうのは俺に任せなって」と、伏黒の肩を小突く。
「つまりだ」
と、彼は軽快に話し始める。
「恵が聞きたかったのは、最近、気になる人とかいるのかってことだったんだけど」
「そうなの?ごめんね、私、汲み取れなかった」
「だろ?でもまどろっこしいから、もうちょっと踏み込んで質問するけど、いま彼氏いる?」
イマ彼氏イル?
彼氏???
首を横に振る。
「欲しいと思う?」
「あ、相手によるかなぁ……」
「ほら」
伏黒が勝ち誇ったように五条くんを見た。
「結構お堅いんですよ、この人」
キミにだけは言われたくない、と思った。
「じゃあサァ」
と次の質問を口にしたのは、五条くんではなかった。
「椎名センパイの好みのタイプは?」
ピンクがかった髪の人が、伏黒の後ろからひょっこり現れた。
この人に至っては名前すら知らない。
センパイって言ってるし、一年か?
「こ、好み?」
なんで急に、と私は慌てて両手を広げた。
「っていうか、誰?」
「名乗るほどの者ではありません」
その人は澄ました顔で、右手を自身の胸に当てる。
「ただの先輩想いの高校生です。名前は虎杖悠仁っス」
「俺は五条悟。好奇心旺盛です」
「やめてください。椎名さんが困ってるでしょ」
出たよー、 と五条くんの非難の声が上がる。
「そういう恵こそなんなんだよ。紳士ぶってさ、野次馬根性は一緒だろ」
「知り合いなんだからしょーがないでしょ。俺は、あんたらの抑止力として来てるだけで。心配性だから」
「わかるぞ伏黒?外野は楽しいもんな。せっかくだから一緒に嗅ぎ回ろうぜ」
虎杖と名乗った人が、それで?と再びこちらに向き直る。
「好みのタイプ、教えてくんないっすか?改良しとくんで」
改良。
その表現が気になるものの、意味を聞き返す余裕はなかった。
覚えているだろうか。
椎名馨は背が低いという設定を。
小心者で、人見知りだという設定を。
どういう理由であれ、高身長の男に囲まれると、怖いのだ。
しかも3人もいる。
「ご、ごめんなさい」
と私は身体を小さくした。
「見逃してください」
一瞬の沈黙の後、「ほら~」と暢気な声が上がる。
「ゆーじのせいで、 馨怖がっちゃったじゃん」
「俺ぇ?五条先輩みたいに物騒な顔の奴がいるからじゃねぇんすか」
「あ゛ぁん!?」
「五条さん、 女子の前でその声出すのやめてください」
真顔で指摘した伏黒だったが、突然、「あ」と発した。
それを合図に残りの2人もピタリと固まる。
揃ってくるりと背中を向けたかと思うと、先を争うようにバタバタと走り去っていった。
残された私は棒立ちのままだ。
ぽかんとするしかなかった。
まるで3分しか戦えないヒーローの撤退を見ているようだった。
彼らの身体にはタイマーが仕込まれているのかもしれない。
という妄想はさておき、廊下を猛ダッシュする男子が3人もいたらどうなるか。
行き交う生徒が、何事かと喧騒を振り返る。
悲鳴を上げて道を空ける人もいる。
タイミング悪く教室の扉から出てきた教師が伏黒とぶつかりそうになり、抱えていた書類があわや落ちそうになった。
「おい!お前ら!!」
教師の怒号が飛んだ。
「スンマセーン!!」
と被せるように聞こえた無駄に良い声は、みるみるうちに遠ざかっていく。
怒りの矛先を失った教師は、「剣道部の奴らか?」」とぶつぶつ文句を溢して、グルンとこちらを向いた。
「おう、危ないだろ。あいつらに後でちゃんと言っとけ」
わ、とばっちりだ。
理不尽に感じながらも、「すみませ……」と頭を下げようとした。
しかし、真後ろから「はい」と低い声が被さってきて、口を噤む。
「明日の練習試合は、あいつらにずっと審判やらせときます」
と頭上から、降るように声がする。
おいおい、と教師の表情が緩んだ。
「あいつら抜けたら、試合勝てないんじゃないか?」
「そんなことありませんよ。個人戦は私の独壇場なんで」
「ハハ、頼もしいな」
それから教師はしげしげとこちらを見つめ、「しかし、お前らはすごい身長差だな」と感心したように言い残して去っていった。