【伏黒恵】あなたに聞きたいことがある。
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こんな山奥から、彼の部屋まで声が届くはずがないという疑問を抱くこともなく伏黒はただただ声のする方へと歩き続ける。
「聞こえてるよ、なんだよ」
近づいてくる声に、答えるように。
伏黒は声を出した。
がさがさと草木を分けて何かがやってくる。
いつでも式神を出せるように構える伏黒の前に一人の男が姿を現した。
「あ?俺のガキかと思ったら、違うのが出て来た」
唇に傷のあるガタイのいい男は、伏黒を見下ろしている。
今にも舌打ちをしそうな勢いの男は伏黒を見るなり、踵を返し。
「恵!!どこだ!!出て来い!!」
「おい……」
「パパ!!」
なぜこの男が自分の名を呼ぶのか到底理解できない伏黒は男に声をかけた。
しかしそれはもう一つの声によって遮られた。
と同時に。
伏黒は目を見張った。
目の前には、幼い伏黒の姿があったからだ。
見間違うはずがない。
5、6歳ほどの小さな少年は、伏黒自身だった。
「パパ、やっと見つけた。どこ行ってたの」
「それはこっちのセリフだ。どこ行ってた」
「どこにも行ってないよ。ずっとここにいたよ」
「はぁ。なにわけのわかんないこと言ってんだ」
二人のやり取りをただ見るしかない伏黒は、目の前の男が自分の父親であることを確信したが未だに信じられないでいた。
なぜ、ガキの自分が。
なぜ、目の前に父親が。
ぐるぐると思考回路は回り続ける。
そんな伏黒を男は横目で見た。
「恵。この兄ちゃんが一緒に遊んでくれるってよ。よかったな。俺は家で寝てるから暗くなる前に帰って来いよ」
「おい、ちょっと……!!」
「悪いな、俺は眠いんだ」
そう言って男はひらひらと手を振ってどこかへ行ってしまった。
残される伏黒とチビ黒。
お互いに顔を見合わせて、伏黒は深いため息を吐いた。
「……なにして、遊ぶ?」
子供の扱いなど慣れていない伏黒。
しかも相手は幼い頃の自分。
ますますどう接すればいいのかわからずにぎこちなくなってしまう。
ちらりと、見下ろせばチビ黒が服の裾を掴んで俯いていた。
「……僕、誰でもよかったわけじゃない」
小さく零れた声に。
伏黒もまた俯いた。
「そうだな。"俺"は、父さんと一緒がよかったんだ」