【吉野順平】嗚呼、手に余る我が人生
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「それに、前の初詣の時、順平のこと怒らせちゃったし」
「怒らせた?僕を?」
全くの初耳で、びっくりして慌てて尋ねた。
「そうだったっけ?記憶にないけど」
「だって、ずっとダンマリだったじゃない。話しかけても、あぁ、とか、うん、くらいしか言わなくてさ」
「それは……」
少しの間、絶句して、「それは、頭がパンクしてたんだと思う」と言った後、ほら、と付け加える。
「あの時、急に手を握られたから……」
「握ったの?私が?」
そうだったかしら?と馨は首を傾げた。
「それで、順平くんは照れちゃったのか」
「混乱したんだ、多分。ところでこの話はもう終わりでいい?」
「恥ずかしいの?」
「恥ずかしいよ。でも、お互い誤解が解けて良かった」
「お互いとは?」
馨が尚も尋ねてきたけれど、聞こえていない振りをした。
まさか、あの時、手を握ってきたことに何の意味もなかったなんて。
というか本人はすっかり忘れているなんて!
何だか無駄に損した気分だ。
それから、二人で気恥ずかしさを紛らわすように、何となく話をしながらダラダラと歩いた。
そして馨の家が見えてきた時に、「というわけで、」と僕が口を開いたら「どういうわけで?」と馨が柔らかい動作で振り返る。
「僕も、勇気を出して、その、聞きたいことがあるんだけど」
「なに?聞くよ」
「すごく、今更なんだけど、」
「うん」
「さっきのチケットの映画、誰と観に行ったの」
「えぇ?」
「だって、」
僕は少しだけムッとした。
「日付が入ってた。12月25日。まさかクリスマスに一人で映画館に行ったわけじゃないだろ」
それを聞いて、馨はむせたように笑い出した。
「順平、嫉妬してるの?」
「嫉妬じゃないよ。心配してるだけだって。その……お、男として?」
「なんで疑問形!」
すごく愉快そうに、馨ははしゃいだ。
「ご心配ありがとう。でも、アンジーと観に行ったの」
「誰、それ」
「ほら、4月の自己紹介で、セレブになってハリウッド俳優と結婚したいって言った……」
「いや、誰?」
「5組の女の子!」
あー面白い、と馨が目尻を拭った。
「あぁ、それでね、順平の誕生日プレゼントなんだけど……」
「え!いいよ、悪いし」
「いやぁ、それがね」
馨が困ったように眉を寄せる。
「映画ついでに買いに行ったんだけど、あんま順平の好みとかわかんなくって。色々迷ったんだけど、アンジーが"自分が欲しいものをあげたら?"って唆すから、結局……」
「なに?」
「怒らないでね」
無礼講無礼講、と最初にへらへら断ってから、馨は顔を寄せてきた。
え⁉と思う間もなく、頬に軽くキスをされる。
「原価0円、可愛い子ちゃんからのちゅーにしました。じゃ、オヤスミ。良い夢見ろよ」
相当に恥ずかしいのか、馨はくるりと背を向けてさっさと帰ろうとした。
その腕を無言で掴む。
たぶん僕が怒ったと思ったんだろう。
ヒッ、と短い悲鳴をあげて、「ごめんなさ……」とか言いかけてたけど、こっちだってもうどうしようもないくらい頭が沸騰してしまってたから、問答無用でキスをし返してやったってわけ。
もちろん唇に。
とびきり長くね。
その後は当然、まぁそのまま走って帰って布団被ってわーごめんなさい!って叫んだんだけどさ。
お約束だし。
だって、何度も言う通り、僕は17歳になったんだ。
ようやくと言っていいくらい。
でもご覧の通り、全然サマになってない。
その上馨の奴はあぁ見えて進学クラスの5組だし、なにより向こうの方が誕生日が早くて、僕より先に18歳になるんだから、「You need someone older and wiser」なんて偉そうに言える立場じゃ全然ないんだけれど、それでもこの子を守ってあげるのは誰かなって考えたら、やっぱり僕だったらいいなとは思ってるわけなんだ。
あぁもう、どうしてこんなに格好がつかないんだろう。