【吉野順平】嗚呼、手に余る我が人生
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部屋着の上から羽織ったコートにマフラーを巻く。
財布を持って、部屋の電気を消す前に机の上のカレンダーを見た。
特に予定なんて書き込んでいないけれど、あと数日もすれば新年で、仲直りついでにご機嫌伺いしながらの初詣なんてちょっと嫌だなと思ったわけなんだ。
それから階段をそろそろと降りて、玄関の扉を開ける時になってようやく、初詣と言えば今年の初めは、参拝客の混雑の中でどさくさ紛れに手を繋がれたなと思い出してしまって、ワアッとなって思わず扉に盛大な頭突きをかました。
だってあの時、手を握られて、僕は家に帰るまでに何をしたと思う?
何もしなかったんだよ。
手を握られたのに!
要するにつまり、僕は今日で17歳になりました。
子供心に憧れた年齢になりました。
だけど、この有様を見てどう思う?
未だに自分はパッとしないし、親のお金でのんびり生きてるし。
部活動だって映画を観ているだけで作っているわけではないから、毎日がむしゃらに生きてますと胸を張って言えるわけじゃない。
好きな子を守るなんて言う前に、好きだと伝えることすらできない男になりました。
そのくせ夜中に呼び出されたらそわそわ迎えに行ってしまうんだからもうどうしようもない。
怒りを込めて言いたいけど今夜はすごく冷えるよねホント。
『深夜にラーメンを食べに行ける関係っていうのは、すごく貴重だよね』
これは馨が僕を言いくるめるためによく使ってくる決め台詞。
それこそ「高校生らしからぬ発言」だけど、とにかく、僕は馨のそういう言葉にすごく弱くて、例えば『今日はありがとう』とか『おやすみ』ってにっこり笑って言われただけで心臓が緩く締め上げられるような心地になる。
最近はもう『順平!』なんて名前を呼ばれるだけでぎゅっときてしまう。
一度心配になって狭心症の症状を調べたことがあるというのは秘密だ。
もう気付いてるかもしれないけど、つまりはそういうことで、年々深刻になっていることは自分でもわかってるつもり。
通り道にある椎名家のインターホンを鳴らすと、馨はすぐに出てきた。
外出から戻ってきたばかりなのだろうか、髪の毛を、女子たちがよくやってる、あの"くるりんぱ"ってやつにして、けれどいつも通りの手ぶら姿に、少なからずプレゼントを期待していた僕は少しだけしょぼんとなった。
少しだけね。
どうも12月28日が誕生日っていうのは微妙なもので、冬休みっていうこともあって、割とないがしろにされちゃうことが多いんだ。
しかも年末もあるし。
数日前まではクリスマスムードで町中が散々浮かれていたのにさ、25日が過ぎた途端、みんなの頭の中は切り替わるらしい。
さあ、おふざけはおしまい。
年賀状はもう用意した?大掃除は?みたいな感じに。
急に周りがスッと冷めてしまうから、本日の主役は苦笑するしかないってわけだ。