【虎杖悠仁】ときめき
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そして来たる誕生日。
めちゃくちゃ盛り上がっていた、カラオケ店で。
初めこそ、虎杖の先輩や友達にどう接していいかわからなかった馨と、馨の友達にどう接したらいいかわからなかった虎杖だったが、数分後にはどちらもものすごく仲が良くなっていた。
元々虎杖はフレンドリーという文字が擬人化したような男であるがゆえに、美々子と菜々子とすぐに打ち解けた。
馨の友達と言う事もあったが、一番大きいのは同級生の釘崎とも友達だと言う点だろう。
逆に馨は人見知りが先行したが、双子の友人の従妹の兄という存在に救われ、また生真面目な伏黒と七海の存在も大きく、打ち解けた。
灰原もまた虎杖と同じく友好的な人間であるために、馨と仲良くなるの時間はかからない。
問題は五条だった。
見た目は高校生でも中身は小学3年生と言われてもおかしくないこの男は、馨と虎杖の仲にちょっかいを出しては夏油と七海に足蹴りを喰らい、拗ねに拗ねていた。
ボウリングをした後のカラオケ店では、五条が半ばやけくそになって歌って、灰原と釘崎と双子が合いの手を入れている。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「私も行ってくる」
「私も煙草~」
馨と真希、そして家入が席を立ち部屋を出る。
出た瞬間に家入と真希は馨の腕を掴んで、顎をくいっとさせた。
どこぞのヤンキーかなと思ったが、馨は黙って二人について行き、カラオケ店の外へと出た。
店の裏路地。
ヤンキー座りをして煙草に火をつける家入は、煙を吐き出した後口を開いた。
「思った以上によそよそしいんだね、あんたら」
「それ私も思った」
「だって、仕方ないじゃないですか。付き合ってないんですもん」
ぷくりと頬を膨らます馨に、二人はボウリングでの出来事を思い出す。
4人ずつに分かれた3チームでボウリングをしていた彼等。
馨と虎杖は同じチームで家入と真希も同じチームだった。
「虎杖、数字が小さいほうが軽いんだっけ?」
「そうだよ。これとか、馨投げやすいんじゃない?」
「うーん、ちょっと重いけどいっか」
「俺、これ~」
「重くない?」
二人のやり取りを見ながら、真希と家入は盛大にため息を吐く。
何だそのやり取りは、と。
お互いに意識しまくっているのがわかるのに、それ以上距離を縮めようとしない歯がゆさ。
見てるこっちが恥ずかしい。
ストライクを出した虎杖にハイタッチをしようとすれば、お互いに一回急ブレーキをかけてからゆっくりとその手を合わせるし、飲み物が入ったグラスを持とうとしたその手と手が触れ合えば、引っ込めて「ご、ごめん」「私も、ごめん……」なんて、どこの少女漫画だよと突っ込みたくなる。
そんなゲロ甘展開を始終見せつけられた真希と家入は既に胸やけを起こしている。
家入に至っては煙草を吸わずにはいられないほどに。
2本目の煙草に火をつけ、肺に煙を送り届ける家入。
その横で眼鏡の汚れを拭きとる真希。
「絶対あいつ、付き合いを意識してよそよそしくなってるよね」
「だと思いますよ。友達でも恋人でもない微妙な期間があって付き合ったカップルみたいな感じですよね」
「言い得て妙」
「しっかりやれよ、馨」
「なんですか、それ。いいですよ、もう~」
「素直じゃないな、君は」
煙草の火を消して立ち上がる家入。
ぐっと伸びをしてスマホで時間を確認する。
利用時間終了まであと1時間半もあることを頭に叩き込み、今頃五条が面白くないと暴れているのでは思った家入はカラオケ店の中へ戻る。
そして真希も同様に店の中へと戻った。
「私トイレ行ってから戻ります」
「早く戻って来いよ。じゃないと私と虎杖でデュエットしてるかもしんねえぞ」
「真希さん!!」
「冗談だよ。あはは」
どこまでが本気でどこまでが冗談かわからないから、心臓に悪い。
馨はふぅ、息を吐いて受付前のソファに座った。
いつもは虎杖と二人きりで遊んでいたが、こうして大勢と楽しむのも悪くない、と同時に。
虎杖と話す時間は圧倒的に少なく、どこか寂しさを感じる。
OKしたのは自分だけれども。今二人きりになるとなぁ……。
どちらが正解だと言えないことに、馨は頭を悩ませる。
彼女の焦りや不安は日に日に大きく増していく。
「馨?」
その時、自分を呼ぶ声が聞こえた。
目に映るのは虎杖の姿。
「虎杖、どうしたの?」
「お前こそどうしたんだよ。トイレに行ってたんじゃ……」
「あー、ちょっと休憩」
あはは、と笑えば虎杖も笑った。
そういう虎杖も休憩がてら部屋を出て来たと言う。
なんでも中では、五条と灰原と夏油が悪ノリを始めたらしく、美々子と菜々子がちゃちゃをいれ、伏黒と七海はソファで死んでいるという地獄絵図が完成されているという。
なにそれ、戻りたくない。
という言葉を飲み込んで「へぇ」とだけ答えた。
無言の時間が二人の間に流れる。
聴こえるのは、有線からのはやりの曲と、各部屋から聞こえる歌声。
そして明らかに一層うるさい自分たちの部屋からの笑い声と悲鳴と爆音。
「うるさ……」
「あはは、めっちゃウケる」
あの中に自分もいると言うことを忘れて爆笑する馨。
その笑みを虎杖は見つめて、そして少し口を結んだ後、パーカーのポケットから小さな箱を取り出した。
「馨、これ」
「なにこれ」
「なにって、誕プレ……」
「え……?」
「えってなんだよ」
「だって、これが誕プレだと思ってたから」
馨は大勢で祝うことがプレゼントだと勘違いしていたようだった。
そんなわけないだろと虎杖は思うが、それを口に出さずプレゼントを開けるように、馨に言った。
言われた通りに、彼女はラッピングされた包装紙を綺麗に取り、小さな箱をゆっくりと開ける。
「ネックレス……」
「うん、似合うと思って」
箱の中身は赤いバラの付いたネックレスだった。
それを慎重に取り出し、光に当てて眺める馨。
この微妙な時間に耐えられないのか、虎杖は落ち着きがない。
「これ、どこで買ったの……?」
「どこでもいいだろ、そんなの……」
そっぽをむく虎杖に、馨は溢れそうになる感情を必死に抑えた。
虎杖が自分のために慣れないアクセサリーショップに入って、自分のために似合うだろうと思った物を買ってきた。
これほどまでに嬉しい事はない。
「恥ずかしかったでしょ」
「だいぶ」
「ウケんね」
「ウケんなよ。俺めっちゃ勇気いったんだぞ」
「へへへへ」
「何その笑い、こわっ!!」
「怖くないし!!」
「じゃあそれ渡したから!!俺部屋戻る!!」
「あ、ちょっと虎杖!!」
ぴゅーっと、ウサイン・ボルト並みの速さで廊下を走る虎杖。
遠ざかる背中を見つめる馨。
「ありがとう、虎杖」
その言葉は、虎杖には届かない。