【伏黒恵】2万5000分の1のキミヘ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「私のおすすめの、柿本人麻呂ちゃんを紹介してあげるね」
馨が伏黒の肩に頭を乗せて、本の最初あたりを開いた。
そして、ゆっくり読み上げた。
あしびきの 山鳥(やまどり)の尾の しだり尾の
長々し夜を ひとりかも寝む
「完璧だ。グリルチキンのトマトソース煮込み」
「これ、長い夜が寂しいって意味の歌なんだけど」
本を持つ馨の左手に自分の手を重ねて、伏黒が笑った。
「しかも全然甘くない料理」
「知ってるよ。授業でやったもんね。だけど私にとっては、小5のクリスマスに食べた味」
本を閉じた馨が、伏黒の右手に指を絡めた。
「椎名にとって、4時間目の国語の時間は天国ってわけか」
「地獄だよ。お腹は膨れないもん。それに、美味しい味ばっかりじゃないから。いきなり、靴底みたいな味するときもあるし」
「それ、ほんとのことなら最悪だ」
「ほんとだよ。ほんと」
嬉しそうに笑う馨に、伏黒はどんどん尋ねていく。
本を読みながら食事をしたらどうなるのか?
いちばん美味しい数式はどれなのか?
気になる人の名前は?
りんごあめは好きか?
なぁ、今度さ。
「今度、好きな味だけ集めた文を書いて」
いつの間にかしていたキスを止めて、伏黒が馨にそう言った。
「どんな風になるのか、すげー気になる」
「伏黒くんさ、それでうまいこと素敵な詩になるとでも思ってるの?」
前にやったことあるんだ、と馨が笑った。
「意味のわからない単語の羅列になったよ」
「別にいいよ。意味わかんなくても」
「ほんとに?」
「ほんと」
そしてまた唇を合わせた。
溢れ出てきた気持ちが、繋いだ手を通って彼女の気持ちと交わって、絡めた舌からまた自分に戻ってきてるようだった。
2人の間を、想いがぐるぐる巡っていた。
「ほんとにいいの?」
「しつこい」
「だって、意味のわからない文章って、読んでて不安になっちゃうよ。私のこと、病気だと思わないで」
「思わない。思うわけないだろう」
オマエの一番好きな味にしよう。
読ませて、俺に。
「それでさ、もしその、椎名の好きな味の中に、"恵"って文字が入ってたら、」
「………入ってたら?」
「オマエに好きって、言ってもいいか」
泣きそうな馨の顔を両手で包んで、小さな声でそう尋ねると、うん、と聞こえたような気がした。