【伏黒恵】2万5000分の1のキミヘ
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「めぐみだからか?」
次の日の朝、窓の外を見ている馨に尋ねた。
閉じられた窓の向こう側で、雨が静かに降っていた。
「ん?」
「りんごの品種。恵ってりんごがあるらしい、希少らしいけど。だから、つまり、」
連想、したのかなって。
そう言うと、そうなんだ……と芯のない呟きだけが宙に浮かんだ。
「でも伏黒くん、りんごじゃないでしょう」
「いや、まあ、そうだけど……」
「それなら、関係ないよ」
じゃあ尚更、なんでりんごあめなんだよ。
伏黒の質問には答えずに、彼女は黙って窓を見ていた。
◆◆◆
「聖書が関係してる?アダムとイヴの、禁断の果実ってやつ」
「確かにあれもりんごだね」
「違うのか?」
「違うよ。諸説ではイヴは実を食べてないって話だし、そもそもあの実はりんごじゃないかもしれないって話だし、それに」
伏黒くんは、イヴでもないし女でもないでしょ。
「伏黒君と聖書は関係ないよ」
ふふ、と馨は小さく笑った。
質問に答えろよ、と心の中で毒吐きながら伏黒は頭の中で連想を繰り返す。
「夏の夜の、湿った空気の匂い?」
「違うよ」
「………」
「………」
「お囃子の音?」
「音?音は、しない」
「……………………」
「……………………」
「天の川、とか?織姫と彦星が年に一度出会って……願い、みたいな。恵まれる様に、みたいな……?」
「伏黒くんって、結構ロマンチックなこと言うね」
「はぐらかすな」
自分で言っていて恥ずかしくなった伏黒は、乱暴に頭を掻いて深く息をついた。
なぁ。
りんごあめってその発想。
一体どこからやってきたんだよ。
◆◆◆
「いい加減、教えろよ」
4日目の朝、痺れを切らして馨に尋ねた。
「なんで俺の名前が、りんごあめなんだ」
馨はいつものように窓の外を見ていたけれど、ふと気が付いたように伏黒を見た。
「伏黒くんに言っても、わからないと思う」
「その台詞は前にも聞いた」
「気になるの?」
「………………少し」
「そっか」
素直にならない伏黒に、馨が少し笑顔を見せた。
「いいよ。じゃあ、教えてあげるよ」
そう言って机の中からノートを取り出して、適当なページを開いた。
等間隔の罫線を無視して、" 伏 黒 恵 "の3文字を書き込んでいく。
伏黒が見ているその前で、間隔の広い文字の上を綺麗な指がなぞっていった。
「伏はジューシー、黒は水あめ、恵の文字は甘酸っぱい」
1文字ずつ順番に、馨は単語を割り当てた。
「だから、りんごあめ」
「…………」
それが彼女の答えの全てだった。
言われた通り、伏黒には理解できないことだった。
だけど、その1文字1文字に単語を割り当てるその動作。
その動作に、ピンとくるものがあった。