【伏黒恵】2万5000分の1のキミヘ
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【2、椎名馨という少女】
伏黒恵の、椎名馨に対する印象は、ちょっとだけ変なところがある奴、ぐらいの程度だった。
いつもぼんやり空を見ている。
遅刻が多い。
サボりもする。
俯きがちで声も小さい。
けど友達は多くて、伏黒みたいな男子とも平気で話す。
その代わり、誰とも親密にはならないみたいだ。
部活は何かはわからない。
体育の時間に、日当たりのいい場所を見つけると、その場から動かなくなる。
だから運動部ではないのかもしれない。
愛読書は、どういうわけだか百人一首。
地面から1cm、浮いてるような感じの子。
成績は、そこそこ良い方。
特に英語は、いつもクラスの順位がトップ。
「伏黒くん、ここ、教えて」
だけど、漢文の成績は悪い。
「古文は満点なのにな」
馨の模試の答案を眺めてそう言うと「勉強、したくなくって、」と小さな声が落とされた。
「漢文は嫌い」
「古文に比べれば、単語も文法も少ないだろ」
「うん……」
馨は制服のポケットに両手を突っ込んで、足元を見ながら返事をしていた。
もしかして、と思って伏黒も視線を辿るけれど、彼女の足は地面についている。
「りんごあめなのか?」
問題を解説し終わった後、参考書を閉じて馨に尋ねた。
「ん?」
「俺の名前」
「……うん」
「なんで?」
「なんで、って……」
馨は困ったように笑って、言ってもわからないと思うなぁ、と呟いた。
それから、小さな声でお礼を述べて、彼女の席に戻っていった。