【五条悟】Hey, my love.
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何分乗っていただろう。
子猫ちゃんが立ち上がった。
僕の存在には気が付かずに反対側のドアから降りていく。
僕も降りた。
改札を抜けて、雑多な街に繰り出す。
そこは一度も降りたことの無い駅だった。
喫茶と雑貨の店が立ち並ぶ細い道を、尻尾をピンと伸ばす三毛猫のように彼女は澄まして歩いて行く。
さて、いつ声をかけようか。
どんな言葉を浴びせたら驚くだろうか。
考えながら後をつける。
人混みの中でも彼女は目立って見つけやすい。
ノルディック柄の真っ赤なポンチョ。
そしてその少し後ろをポケットに手を突っ込んでニヤニヤしながらついていく190㎝超えの男―――僕。
まるで赤ずきんと狼だね。
くっくっと喉が鳴った。
子猫ちゃんが立ち止まった。
食べ歩き用の惣菜を売っている店の軒先の看板をじっと見つめている。
それから何かを買ってまた歩き出す。
僕もその店の前で立ち止まって、店員に言った。
「さっきの彼女と同じやつ、ください」
手渡されたのはメンチカツだった。
女子力の欠片も無い。
思わず笑いが零れた。
一口食べて前を見ると、少し先でまた彼女が何か買っていた。
いいねぇ。
食い意地の張った子は大好きだ。
恵もこの子みたいに食い意地張っていっぱいご飯食べればいいのに。
すぐに後をつけて同じものを買う。
今度はたい焼きだった。
両手の食べ物を片付けて2回曲がり角を曲がった後、子猫ちゃんが店に入った。
後に続いてビニールのカーテンをくぐると独特の匂いが鼻をつく。
あぁ、古着屋か、と考えて、派手な装飾の中に紛れた彼女の姿を探した。
スクランブル交差点で目が合ってから以降、彼女は1度も振り向かない。
洋服のタグを熱心に見つめるそのすぐ横に立ってもみたけど、全然気付いてくれない。
やがて目ぼしいものがなかったのか、店の外へと出てしまった。
僕も後に続く。
クレープを買った。
タピオカミルクティーを買った。
コンビニのゴミ箱にゴミを突っ込んだ。
雑貨屋に入った。
雑貨屋を出た。
CDショップに入った。
知らないアーティストのシングルを買った。
CDショップを出た。
ヒレカツサンドを買った。
気の向くままに街を巡る子猫ちゃんを追いかけるのはとても楽しかった。
日が陰ってきた頃、辿り着いた先は小さな映画館。
チケットカウンターで注文している彼女のすぐ後ろに並ぶ。
それでも全然気付かない。
ねぇ、僕のこと見えてる?
それとも、実は気付いてて無視してるわけ?
彼女が退いた後、お待たせしました、と店員が無愛想に言った。
僕はカウンターに肘をついて言った。
今日何度も口にした言葉。
「さっきの彼女と同じやつ、お願い」
店員は眉を潜めたが、面倒な客に関わりたくないのか、はぁ、と気の抜けたような声を出した。
「お席はどちらに」
「さっきの子の隣」
「右隣の席と左隣の席がございますが」
「じゃあ左隣で」
「かしこまりました」