【夏油傑】東京雨の日
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カーテンの向こうからは、相変わらず、シタシタと屋根や木々の梢に雨の当たる音がしていた。
寝心地の良い体勢を求めて何度か動いているうちに、馨の左足と夏油の右足、二人の足首が重なっていたが、どちらも動く気力がなくただ黙って呼吸をしていた。
「わたし、課題終わったのかしら」
ふと疑問に思って口にすると、隣から、はっと息の吐く音が聞こえた。
「いま私、寝てた」
「ねえ、わたし課題出来てたっけ?」
「…………最後まで解いた記憶は?」
「ない」
「じゃあ出来てないんだろ」
「うそーん」
ショックで寝返りを打つと、夏油にぴったりとくっつく格好になった。
お互いの体温が近づき、僅差ながら安心感より不快指数が上回った。
「夏油、わたしシャワー浴びたいんです」
「別に風呂くらい良いけどさ……。着替えの服は?」
「ないです」
「………私の貸そうか?」
「いやいやサイズ……。それに一回脱いだ下着をまた履くのは嫌です」
「私の貸そうか?」
「絶対やだし」
くすくすと笑ったと同時に。
ぐう、とお腹が鳴った。
どちらの音かはわからなかった。
「うーん、お腹減った」
「コンビニ行く元気ある?」
「これが無いんだよねぇ」
「わたしね、シャワー浴びてからじゃないと外に出たくないタイプ」
「終わったね」
「夏油がなにか買ってきてくれたら、すごく嬉しいよ」
馨は天井に向かって、ぱかりと口を開けた。
「お口開けとくからさ、ココにご飯入れて」
「あら、女の子が無防備に開けちゃって………。あ、ひらめいた」
「通報しました」
「何考えたんすか 」
仰向けのまま、二人で力無く笑った。
すべての活動が億劫に思える気持ちは通じあっていた。
「じゃあ、こうしようよ」
と提案をしたのは馨だった。
「わたしが、"せーの"って合図出すから、一緒に起き上がろう」
「…………うん」
「いくよ?」
「うん」
「せーのっ」
とは言ったものの、馨は動かなかった。
もちろん、夏油も微動だにしなかった。
「起きれなかった」
「マジ茶番だね」
「愚の骨頂ですし」
「この上なくおろか」
こんなの馬鹿馬鹿しいや、と馨は笑った。
カーテンの向こうは、先程よりも明るくなっている。
あぁ、いまは夜明けだったのか、と漸く判った。
どうやら日曜の朝だったのだ。
力尽きた腕立て伏せのような格好から、膝を折って両腕を伸ばした。
ちょうど、伸びをする猫のような体勢になり、あくびをひとつ。
「わたし、帰る」
「は?」
これは時間の無駄なのかもしれない、とようやく思えるようになったのである。
「帰るのかい?」
「帰るよー」
「なにか予定とかあるの?」
「別にー、無いけど……」
起き上がろうとした身体が、とんでもなく重たかった。
頭だけでなく、あちこちが固まっていたようで地味に痛い。
やはり雨の日の低気圧のせいもあり、寝過ぎのせいでもあるのだろう。
のろのろと時間をたっぷりとかけて眠い目を擦り、ベッドの縁に腰かけた。
地面に足を下ろそうとしたところ、後ろから手が伸びてくる。
腹部に優しく回された。
あのですねぇ、と馨は笑う。
今度こそ本当に抱き寄せられたのだ。
「せっかくさ、頑張って起き上がったのにさぁ」
抗議をするも、「まぁいいじゃない」と、なだめすかされる。
クスクスとふたり忍び笑う声も、いつしか途絶えた。
そして雨の音だけを記憶に残して、馨はまた目を閉じる。
くり返すように、夢の中へと降りていった。