【加茂憲紀】もしも
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彼女の細い首の鼓動はゆっくりで、血が流れているのが、音や肌からひしひしと伝わり、"生"というものがどんなものか改めて感じた。
これを止めれば、この心臓の音を止めれば彼女は一生私の傍にいる。
そのくだらない考えが、ピクリと自分の指を動かした。
ほんのわずかに力を込めていくのを自分でもわかる。
無意識か故意か。
そう問われた時、私はきっと即答できない。
彼女の首を絞めようとしたその瞬間。
私の耳に明るい声が響く。
「なんてね!あはは、うっそだよ!それに神社で心中って罰当たりだから!」
彼女の声に我に返る。
あやうく本気で首を絞めそうになった。
割と、真面目に。
一生の傷と後悔を背負うギリギリの一線を私は歩こうとしていた。
小さく震える右手を、私は左手で押さえる。
私の上から体を離すリトは「死ぬのはすぐにはできないけど」と切り出す。
すぐってことは、いつかするつもりだったのだろうか。
ゆっくりと身体を起こして制服についた雪を払う私に、リトは名を呼ぶ。
「心中って、昔は死ぬことだけを言っていたんじゃないんだよ」
彼女が言うには、その愛の印として、自らの髪の毛だったり、爪だったり、指を心中立てとして相手に贈ったらしい。
それが元になっているという。
「今は死ぬことが心中ってされてるんだけどね」
「じゃあ私はその誓いに何を差し出せばいい?」
「私たちはこれで十分じゃない?」
馨は私の小指を手に取り、自分の小指を絡ませた。
所謂、指切り。
「本当に切るわけじゃないけど、でもこれだって立派な心中立てだよ」
本当は彼女のためなら指を切って贈ったっていい。
なんならこの身を捧げても。
だけど彼女はそれを許さないだろう。
「憲紀の指が無くなったら私死んじゃう」
「君に死なれたら困るなあ」
「死ぬときは一緒だよ。だからそれまで死んじゃだめ。私と一緒に死ぬの」
「わかっている。一緒に死のう。だが、死ぬことよりも私は君と一緒に生きていたい。これからもずっと一緒に。私はそっちのほうが嬉しい」
「……うん。実は私もそっちの方が嬉しかったりする」
お互いに顔を見合わせて笑って今日何度目かのキスをした。
帰り道、手を繋いで交戦へと向かう私と馨。
「そう言えば、なんで馨はあんなに心中立てに詳しいんだ?」
彼女は繋いだ手を離し、スキップでもするように私の前に飛び出してくるりと回った。
ひらりとスカートが揺れる。
悪戯っ子の様な笑顔から覗く白い歯が眩しい。
「そんなの自分で考えて」
両手を広げて走り出す。
転ぶぞーなんて声をかけて、楽しそうに笑う彼女の姿を私は眺めて笑う。
そんな日常がこれからも続けばいいと思った。
そんな日常がこの先の未来にも続いていてほしいと願った。