第3章 尊尚親愛―そんしょうしんあい―【NG】
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【OKシーン】
「私も、伏黒君の事が好き。でも、この感情がどの好きなのか、わからなくて。好きになったら普通に。普通に……普通は。付き合いたいって思う、ものなのかなって」
「俺は、お前と付き合いたいって、思ってる。好き、だから」
一生懸命に自分の伝えたい思いを伝える彼女を見て、先ほどまでの異常なまでの心臓のうるささと顔のほてりが伏黒から消えていた。
「じゃあ、付き合いたいって。思わないのは。本当に好きじゃないって事なのかな」
「……お前は、俺と付き合いたいって、思ってるのか」
饒舌だった彼女の唇は、静かに閉じられた。
それが"答え"なのは、恋愛経験が乏しい伏黒でもわかった。
「多分、俺の好きと、お前の好きは違う」
「……」
「好きって言う感情にもいろいろあると思う。俺は恋愛感情でお前の事が好きだ。でも杠、オマエは違う」
渚沙は小さくうなづいた。
「私の好き……は。尊敬とか、目標とか……憧れ、なんだと思う」
「だろうな……」
「伏黒君みたいに、うん……。なりたいってどこかで、思ってて。今も、思ってる」
自分に言い聞かすように。
ぽつりぽつりと奏でる音に、静かに耳を傾けた。
初めて。好きになって。振られて。苦しい。好きに。なって。ほしかった。と思うのは。我儘だろうか。
ぎゅうっと心臓が締め付けられ苦しさを覚える。
それに耐えるように掌を握った。
伏黒は、ゆっくりと息を吐きだす。
「ありがとう。ちゃんと応えてくれて」
「私こそありがとう。嬉しかった」
「友達として、これからも一緒にいていいか」
「うん。一緒にいてほしい」
彼女の言葉一つ一つが呪いのように伏黒に突き刺さる。
だけど、今はそれでいいとさえ思った。
今は。まだ。これからだ。簡単に諦められるわけ。ないだろ。
自分にそう言い聞かせた。
気持ちを落ち着かせ、伏黒は歩き出す。
【OK後】
伏黒は大きなため息を吐いた。
異性に告白をするのは初めてではない。
それこそこの業界にいれば、そういう場面がたくさんあるし、容姿の整っている伏黒は、少女漫画が原作の映画の主演や助演に選ばれることが多い。
告白のシーンなどは両手では数えきれないほどやってきた。
そのはずなのに。
いまだ止まない胸の高鳴り、顔の火照り。
思い出すだけでまた照れくささが甦る。
告白をする瞬間、少しセリフが詰まった。
NGが出されるかと思ったが、カットの声は聞こえない。
そのまま続行したが、セリフが躓いたことや張り裂けそうなほどうるさい鼓動に緊張が走り汗が止まらなくなった。
まるで本当の告白のシーンのようだ、と監督もスタッフもその場にいた誰もがそう思った。
伏黒の緊張が伝わってくる臨場感に誰かが唾を飲み込んだのも事実。
そんな事を知らない伏黒は顔の火照りを鎮めようと勢いよく水を煽った。
渚沙のことは、ただの共演者としか見ていない。
そのはずだった。
そのはずだったのだが、なぜか彼女を見るとドキドキしてしまう。
いや、これは先ほどの感情が残っているだけで、別に決して渚沙を意識をしているとかそう言うわけではない。
そんな言い訳を一生懸命自分に言い聞かせている。
その時点で既に気があるだろうというツッコミは飛んでこない。
大きく息を吸って吐いて気合を入れ直すために、両頬を思い切り叩いた。
「伏黒君!!五条さんが、撮影終わったらみんなでご飯行こう―って!!どこ行きたい?」
気合を入れなおした直後、ひまわりのような笑顔を振りまいてやってくる渚沙に伏黒は、どきりと心臓が跳ねた。
キラキラと輝いて見えるのは幻覚か何かだろうか。
伏黒は眩しい笑顔に目を細め、小さく視線を彷徨わせた。
「……寿司、なら」
「お寿司!!いいね!!私もお寿司食べたいかも。じゃあ五条さんに行ってくるね!!」
大きく手を振ってニコニコと笑う渚沙は、五条の元へと走り出す。
その後ろ姿を見て、伏黒は何度目かのため息を吐いた。
「これ……」
その続きは言葉にならなかった。