仙牧 新⬆旧⬇
から。
そう言う曜子さんに、俺は「確かに」と頷きを返した。
やりたいと思ったことを、努力を惜しまず自分の物にしていく牧さんの原点を見た気がする。
写真の中の彼は、九歳と十歳で、今の彼と背の長さも体つきももちろん違う。しかし、顔の雰囲気や勝気な瞳は今の彼そのままだった。
──仙道、
曜子さんの「一途だから」というセリフと、写真の中の牧さんの瞳に、俺を見てくれる時の確かな熱を思い出して、思わず身体の熱が上がる。
それをごまかすように、俺は慌てて食べかけだったハンバーグを口の中に押し込んだ。
「彰くんは? 昔やってた習い事とかないの?」
そんな俺に構うことなく、今度は俺に水を向けてきた曜子さんは、ことりと首を傾げながら聞いてくる。
──バスケ以外で昔やっていたこと。
それは、俺の母さんが、子供が出来たら絶対にやらせようと決めていた──。
「いや……その、スポーツはやってなかったんですけど、母さんの影響で、──バイオリンを……」
モゴモゴとそういうと、陽子さんは「バイオリン? 凄いわね!」とパチパチと拍手までしてくれる。あまり人には語ったことのないかつての習い事を暴露するは、決して嫌では無かったが、どこか気恥しさが先行してしまう。
「どれくらいやってたの?」
「幼稚園から小学五年まで、です。だから小学校の頃は、放課後はミニバスかバイオリンの練習って感じで……」
「本格的じゃない! 三つ子の魂百までなんて言うけど、今も弾けるんじゃないの?」
「いや……どうっすかね。バイオリンも実家に置きっぱなしですし……」
牧さんほどでは無いかもしれないが、俺自身もバスケにハマりこんでからは、だんだんとバイオリンからは離れてしまった。
牧さんのように大会にこそ出ることは無かったが、地元のちいさな発表会で拙い演奏を精一杯披露したあと、見に来てくれていた母さんやばあちゃんが、すごく嬉しそうな顔をして拍手をしてくれたことはとても印象に残っている。
そういや、あのバイオリンは、今はどこにしまったっけ。
「紳一もね。それこそ小学校二年くらいまでは、楽譜くらい読めるようになって欲しくてピアノも習わせてたのよ」
ピアノは練習を嫌がって直ぐに辞めちゃったけどね、と曜子さんはなんでもないように続けるものだから、俺は理解が追いつけない。
──牧さんが、あの牧さんが、ピアノ?!
確かに牧さん家の居間にでっかいピアノが置いてあるのは知っていたけど、曜子さんの趣味だと思っていた。まさか、牧さんがピアノまで弾けるなんて。
目を白黒させている俺を見てか「まぁあの子が引けるのはねこふんじゃたレベルの話よ」と穏やかに笑う。そうして。
「二人バスケもすごく楽しんでるけど、陵南のエースとか、神奈川の帝王とかは抜きにして、いつか二人で、バイオリンとピアノで二重奏を演奏してみるのなんかもいいんじゃない?」
そう大層楽しそうに続けた曜子さんの言葉に、思い描くのは海が見える大きな家で、俺を見上げる牧さんと、呼吸を合わせて『キラキラ星』を演奏する姿だった。
俺も牧さんも、どっちも少しだけ大人になっていて、牧さんなんかよりカッコよくなっている。今でもかっこいいし、落ち着きがあるけれど、なんて言うか綺麗さ?美しさ?が増し増しになっていて色気がすんごい。
俺たちの二重奏の観客は、たくさんの猫や犬たちで、二人で失敗しながらゆっくりと音を奏でている。
ゆっくりと流れる穏やかな時間に、思わず笑がこぼれた。
──ああ、この未来いつか絶対に、手に入れたい。
「うわぁ! 母さん! 仙道に何見せてるんだ!!」
そう言って珍しく声を荒らげて慌てて帰ってきた牧さんを見ながら、過去と未来と、そうして現在の彼を垣間見る。
そうしていつまでもこの人と一緒にいたいと、俺は決意を新たにしただのだった。
そう言う曜子さんに、俺は「確かに」と頷きを返した。
やりたいと思ったことを、努力を惜しまず自分の物にしていく牧さんの原点を見た気がする。
写真の中の彼は、九歳と十歳で、今の彼と背の長さも体つきももちろん違う。しかし、顔の雰囲気や勝気な瞳は今の彼そのままだった。
──仙道、
曜子さんの「一途だから」というセリフと、写真の中の牧さんの瞳に、俺を見てくれる時の確かな熱を思い出して、思わず身体の熱が上がる。
それをごまかすように、俺は慌てて食べかけだったハンバーグを口の中に押し込んだ。
「彰くんは? 昔やってた習い事とかないの?」
そんな俺に構うことなく、今度は俺に水を向けてきた曜子さんは、ことりと首を傾げながら聞いてくる。
──バスケ以外で昔やっていたこと。
それは、俺の母さんが、子供が出来たら絶対にやらせようと決めていた──。
「いや……その、スポーツはやってなかったんですけど、母さんの影響で、──バイオリンを……」
モゴモゴとそういうと、陽子さんは「バイオリン? 凄いわね!」とパチパチと拍手までしてくれる。あまり人には語ったことのないかつての習い事を暴露するは、決して嫌では無かったが、どこか気恥しさが先行してしまう。
「どれくらいやってたの?」
「幼稚園から小学五年まで、です。だから小学校の頃は、放課後はミニバスかバイオリンの練習って感じで……」
「本格的じゃない! 三つ子の魂百までなんて言うけど、今も弾けるんじゃないの?」
「いや……どうっすかね。バイオリンも実家に置きっぱなしですし……」
牧さんほどでは無いかもしれないが、俺自身もバスケにハマりこんでからは、だんだんとバイオリンからは離れてしまった。
牧さんのように大会にこそ出ることは無かったが、地元のちいさな発表会で拙い演奏を精一杯披露したあと、見に来てくれていた母さんやばあちゃんが、すごく嬉しそうな顔をして拍手をしてくれたことはとても印象に残っている。
そういや、あのバイオリンは、今はどこにしまったっけ。
「紳一もね。それこそ小学校二年くらいまでは、楽譜くらい読めるようになって欲しくてピアノも習わせてたのよ」
ピアノは練習を嫌がって直ぐに辞めちゃったけどね、と曜子さんはなんでもないように続けるものだから、俺は理解が追いつけない。
──牧さんが、あの牧さんが、ピアノ?!
確かに牧さん家の居間にでっかいピアノが置いてあるのは知っていたけど、曜子さんの趣味だと思っていた。まさか、牧さんがピアノまで弾けるなんて。
目を白黒させている俺を見てか「まぁあの子が引けるのはねこふんじゃたレベルの話よ」と穏やかに笑う。そうして。
「二人バスケもすごく楽しんでるけど、陵南のエースとか、神奈川の帝王とかは抜きにして、いつか二人で、バイオリンとピアノで二重奏を演奏してみるのなんかもいいんじゃない?」
そう大層楽しそうに続けた曜子さんの言葉に、思い描くのは海が見える大きな家で、俺を見上げる牧さんと、呼吸を合わせて『キラキラ星』を演奏する姿だった。
俺も牧さんも、どっちも少しだけ大人になっていて、牧さんなんかよりカッコよくなっている。今でもかっこいいし、落ち着きがあるけれど、なんて言うか綺麗さ?美しさ?が増し増しになっていて色気がすんごい。
俺たちの二重奏の観客は、たくさんの猫や犬たちで、二人で失敗しながらゆっくりと音を奏でている。
ゆっくりと流れる穏やかな時間に、思わず笑がこぼれた。
──ああ、この未来いつか絶対に、手に入れたい。
「うわぁ! 母さん! 仙道に何見せてるんだ!!」
そう言って珍しく声を荒らげて慌てて帰ってきた牧さんを見ながら、過去と未来と、そうして現在の彼を垣間見る。
そうしていつまでもこの人と一緒にいたいと、俺は決意を新たにしただのだった。
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