Dear Mr.Night Blue 第一章(了)
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今日も潜水艇は海の底を進む。
さて、メンバーが一人増えて五人になったハートの海賊団は目下とある問題ごとにぶつかっていた。
そんな彼らの問題ごとは、新入りであるこどもの部屋割である。ものすごくどうでも良いことに思えるが、彼らは困っていた。
何故問題なのかというと。
「だから、私はここがいい」
力強くナマエは自分の意見を主張した。というのも、この数か月でナマエは学んだのだ。ハートの海賊団の船長たるローは淡白なところもある為、日常における要望はわりと“主張した者勝ち!”だということを。
シャチが聞いたら『お前わりと最初からそうでしたけど?!』等と勢いよく意義を申し立てられるだろうが、とにもかくにもナマエは真剣であった。
これから暮らすことになる部屋だ。でも自分は新入りである。広くなくても、綺麗でなくても構わない。ただ一つ譲れないものがある。
ナマエは両手をぎゅっと握って息巻いた。そんなこどもの今にも戦いが始まりそうな剣幕にペンギンは頭を抱えることしかできない。
「何度も言うけど、ここは部屋じゃねェって……」
ところで問答を繰り広げているこの場所であるが、ここは物置である。遺憾なことにそれ以上でもそれ以下でもない。
「だーかーら、お前ここは物置だから!」
「物置だって部屋でしょ」
シャチは腕を組みながら少し屈んでナマエに目線を合わせると、負けじとこどもも目を逸らさないので睨み合いは続く。お互い譲らないのでどこまでも平行線だ。
ベポは両者一歩も引こうとしないシャチとナマエを見比べあわあわと白くまのアイデンティティをかなぐり捨て青いくまになり、ペンギンは相変わらず頭を抱えている。このままではペンギンは頭を抱えた銅像にでもなってしまうのではなかろうか。この結論の出ない虚しい押し問答が、彼の人間としての存在をも危ぶむとても危機的な問題であるのは確かだった。
ところで、この船の責任者は廊下の冷たい壁に背を預けて事の成り行きを見守っている。何事にも冷静にドンと構えたローの様子に、尊敬すれば良いのかツッコめば良いのか分からなくなるペンギンであった。しかし、多分それはどちらとも不正解だ。というか、これはどっちかというと職務放棄しているのでは?ペンギンは回らなくなった頭で考えてみたが、先程からローの発言が一切無いことが何よりの証拠では無かろうか。キャプテン何とか言って下さいよ、あんたの一声でどうにかなるでしょ!!と脳内でペンギンはローに掴みかかったが、それはあくまで脳内だからできることである。
「なんかおれ達がお前を虐待してるみたいじゃん!」
「そうは言ってないよ!」
そんなことをペンギンが悶々と考えていると、話はとんでもない方に飛躍している。え、なんで虐待なんて話になった。
「だいたいなんでこんな狭いところがいいんだよ、お前はハムスターか!」
「だってここが一番キャプテンの部屋に近いもん」
そう、ナマエが重要視したのは“ローの部屋から一番近い”。ただ、それだけである。例え部屋の広さがあの夜の街と大して変わらなくても、家具が一切なく殺風景でも、それさえあれば他はどうでも良いのだ。
広さだけはどうにもならないが、家具や小物はこれからでも揃えられる。しかし、部屋の位置は変えられない。そこでナマエは船長室の隣の物置を自らの部屋の最有力候補に挙げたのである。
「……お前本当にキャプテン好きだな」
「だいすき!」
「良い返事だ、おれも好きだ」
互いに通じ合うものを感じたのか、ナマエとシャチは頷き合った。お互い過激派ではあるが同担拒否では無いらしい。いや、そんなの心底どうでもいい。ペンギンはもう耐えられなかった。
「……もう何か言ってやってくださいよ」
「関わりたくない」
恨めしげにローに視線を飛ばすペンギンを見ることもせず、ローはばっさりと斬り捨てた。取りつく島も無く断られたペンギンは崩れ落ちて動かない。慌てたベポは背中を摩ってくれたが、それは気持ちが悪くなったときの対処法である。しかし、その気持ちだけはありがたく貰っておこう。哀愁漂うペンギンの背中を見下ろしたローは目を細めた。片やよく分からない(分かりたくない)が自分の話をしている仲間二人。片や疲労から崩れ落ちた仲間とそれを慰める仲間。
ものすごく混沌としている。いつからポーラータング号は夢と希望と地獄を煮詰めた鍋の底になったのだろう。これは誰かが終止符を打たなくてはいけない。
非常に気が進まないが、首を掻いたローは溜息交じりで口を開いた。
「好きにさせればいいだろ。ただし、今後どうなろうとナマエは文句は言うなよ」
「「アイアイ!」」
ローという鶴の一声でこの不毛な争いは秒で閉幕した。
彼の采配に気持ちの良いお返事を返す二人を見てペンギンはがっくりと項垂れながら、自分の今までの徒労はなんだったのかと空しくなった。
そんなペンギンの放つどんよりとした空気を読んだベポはそっと頭を撫でてくれた。そのふわっふわな掌のおかげでささくれ立った心が凪いだので、可愛いは正義だとペンギンは思った。
さて、メンバーが一人増えて五人になったハートの海賊団は目下とある問題ごとにぶつかっていた。
そんな彼らの問題ごとは、新入りであるこどもの部屋割である。ものすごくどうでも良いことに思えるが、彼らは困っていた。
何故問題なのかというと。
「だから、私はここがいい」
力強くナマエは自分の意見を主張した。というのも、この数か月でナマエは学んだのだ。ハートの海賊団の船長たるローは淡白なところもある為、日常における要望はわりと“主張した者勝ち!”だということを。
シャチが聞いたら『お前わりと最初からそうでしたけど?!』等と勢いよく意義を申し立てられるだろうが、とにもかくにもナマエは真剣であった。
これから暮らすことになる部屋だ。でも自分は新入りである。広くなくても、綺麗でなくても構わない。ただ一つ譲れないものがある。
ナマエは両手をぎゅっと握って息巻いた。そんなこどもの今にも戦いが始まりそうな剣幕にペンギンは頭を抱えることしかできない。
「何度も言うけど、ここは部屋じゃねェって……」
ところで問答を繰り広げているこの場所であるが、ここは物置である。遺憾なことにそれ以上でもそれ以下でもない。
「だーかーら、お前ここは物置だから!」
「物置だって部屋でしょ」
シャチは腕を組みながら少し屈んでナマエに目線を合わせると、負けじとこどもも目を逸らさないので睨み合いは続く。お互い譲らないのでどこまでも平行線だ。
ベポは両者一歩も引こうとしないシャチとナマエを見比べあわあわと白くまのアイデンティティをかなぐり捨て青いくまになり、ペンギンは相変わらず頭を抱えている。このままではペンギンは頭を抱えた銅像にでもなってしまうのではなかろうか。この結論の出ない虚しい押し問答が、彼の人間としての存在をも危ぶむとても危機的な問題であるのは確かだった。
ところで、この船の責任者は廊下の冷たい壁に背を預けて事の成り行きを見守っている。何事にも冷静にドンと構えたローの様子に、尊敬すれば良いのかツッコめば良いのか分からなくなるペンギンであった。しかし、多分それはどちらとも不正解だ。というか、これはどっちかというと職務放棄しているのでは?ペンギンは回らなくなった頭で考えてみたが、先程からローの発言が一切無いことが何よりの証拠では無かろうか。キャプテン何とか言って下さいよ、あんたの一声でどうにかなるでしょ!!と脳内でペンギンはローに掴みかかったが、それはあくまで脳内だからできることである。
「なんかおれ達がお前を虐待してるみたいじゃん!」
「そうは言ってないよ!」
そんなことをペンギンが悶々と考えていると、話はとんでもない方に飛躍している。え、なんで虐待なんて話になった。
「だいたいなんでこんな狭いところがいいんだよ、お前はハムスターか!」
「だってここが一番キャプテンの部屋に近いもん」
そう、ナマエが重要視したのは“ローの部屋から一番近い”。ただ、それだけである。例え部屋の広さがあの夜の街と大して変わらなくても、家具が一切なく殺風景でも、それさえあれば他はどうでも良いのだ。
広さだけはどうにもならないが、家具や小物はこれからでも揃えられる。しかし、部屋の位置は変えられない。そこでナマエは船長室の隣の物置を自らの部屋の最有力候補に挙げたのである。
「……お前本当にキャプテン好きだな」
「だいすき!」
「良い返事だ、おれも好きだ」
互いに通じ合うものを感じたのか、ナマエとシャチは頷き合った。お互い過激派ではあるが同担拒否では無いらしい。いや、そんなの心底どうでもいい。ペンギンはもう耐えられなかった。
「……もう何か言ってやってくださいよ」
「関わりたくない」
恨めしげにローに視線を飛ばすペンギンを見ることもせず、ローはばっさりと斬り捨てた。取りつく島も無く断られたペンギンは崩れ落ちて動かない。慌てたベポは背中を摩ってくれたが、それは気持ちが悪くなったときの対処法である。しかし、その気持ちだけはありがたく貰っておこう。哀愁漂うペンギンの背中を見下ろしたローは目を細めた。片やよく分からない(分かりたくない)が自分の話をしている仲間二人。片や疲労から崩れ落ちた仲間とそれを慰める仲間。
ものすごく混沌としている。いつからポーラータング号は夢と希望と地獄を煮詰めた鍋の底になったのだろう。これは誰かが終止符を打たなくてはいけない。
非常に気が進まないが、首を掻いたローは溜息交じりで口を開いた。
「好きにさせればいいだろ。ただし、今後どうなろうとナマエは文句は言うなよ」
「「アイアイ!」」
ローという鶴の一声でこの不毛な争いは秒で閉幕した。
彼の采配に気持ちの良いお返事を返す二人を見てペンギンはがっくりと項垂れながら、自分の今までの徒労はなんだったのかと空しくなった。
そんなペンギンの放つどんよりとした空気を読んだベポはそっと頭を撫でてくれた。そのふわっふわな掌のおかげでささくれ立った心が凪いだので、可愛いは正義だとペンギンは思った。