Dear Mr.Night Blue 第一章(了)
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“彼”は他とは少し変わった容姿をしていた。
それ故に物心ついたときから孤立していた。だけれども、“彼”は優しさなんて知らないから、寂しくなんて無かった。
当然のようにこのままずっと一人で生きていくのだと思っていた。しかし、世の中は分からないものである。そんな“彼”に友達ができたのだ。
そんな友達も十分に変わり者だった。“彼”は友達との時間を過ごして一人じゃないことの温かさや優しい声と共に微睡む幸せを知った。いつしか友達は“彼”の親友になった。
とある日のこと、親友は旅に出た。どうやら親友は探し物をしていているらしい。親友の恋人は旅に連れて行って貰えないようだったが、“彼”はその旅に同行した。ところが、いくつもの海を越えた冒険はあっけなく終わってしまった。“彼”の親友は病に倒れたのだ。“彼”は親友が弱っていくのをただただ見ていることしかできなかった。自分の無力さを呪ったが、親友は彼を責めることなく最期まで温かいものを沢山くれた。優しい掌、掠れる声で紡がれる自分の名前。そんな親友は最期にひとつだけ、“彼”に頼みごとをした。『故郷の恋人に渡して欲しい』と“彼”に震える手で手紙を渡して、そうして親友は冷たくなった。
だから“彼”は親友の最後の頼みに答える為、彼の故郷に旅立った。船を乗り継いで旅をして、やっと次の島が彼の故郷だ。
しかし今“彼”は途方にくれていた。なんと親友の故郷に向かう船が出ないのである。
一刻も早く親友の想いを届けたい。“彼”は丘の上から海を眺めながらこれからのことを考えたが上手い案が浮かんでこない。
ふと、視線を感じた。“彼”が視線を感じた方向に振り向くと、一人のこどもが立っていた。全身白づくめの、可笑しな模様の入った服を着たこどもだ。
こどもはくりくりとした大きな瞳をさらに大きくさせて、ぽつりと呟いた。
「にゃんこが手紙持ってる……」
◇
「ごちそうさまでした」
「え、お前もう食べねェの?」
ナマエはそう言って小さな手を合わせた。
ナマエのお茶碗に盛り上がるほどよそわれていたご飯は米粒一つ残っていない。サラダボールもお味噌汁が入っていたお椀も空っぽだ。しかし、肝心のおかずの焼き魚は半分以上残っている。ナマエは食べ盛りのシャチと同じくらいよく食べる。その小さな体のどこにそんな大量のものが入るのだ、というくらいに。本人は『キャプテンくらい大きくなる』と豪語しているが、それを聞くたびに微笑ましい気持ちになるペンギンだった。ちなみにローは『そうか』と言ったきり何も言わない。それは一周回って寧ろキャプテンなりの優しさなのでは、というのがペンギンの見解である。話がずれた。とにかく、そんなナマエが夕飯を残したのである。怪訝に首を傾げるシャチの様子も当然といえよう。
「具合でも悪いのか」
「ううん、お腹空いてないの。残してごめんなさい」
眉を顰めるローに軽く首を振りながらナマエは席を立った。食べ終わった食器をキッチンに運んで後片づけをすると、こどもはぱたぱたと忙しなく自分の部屋に戻って行く。食事が終わっても何だかんだローの隣に座っているのに、これは妙な行動である。そんな不可解極まりない様子のナマエをじっと見送った後、ローが言った。
「……待て、あいつ何で食べ残した魚を部屋に持っていった」
もの凄く嫌な予感がする四人だった。そして、残念なことに多分それは間違っていない。緊急事態に食事を取るのを一旦止めたローは立ち上がった。行き先は当然決まっている。
ばんっとローがナマエの部屋の扉を容赦なく開けると、扉に背を向けて座っていたこどもは慌ててばさりと黒っぽい“なにか”に布団を被せた。ローの目がおかしくなければ、それは小柄な動物に見えた。例えば、猫とか。
「お前、今何を隠した」
「え、なんのこと?!」
だらだらと冷や汗をかきながら、振り返ったナマエはわざとらしくとぼけてみせた。このこどもは嘘を吐くのが思いっきり下手なのだ。目は完全に泳いでいるし、声は上ずっている。
そんなナマエの代わりに答えるように、にゃあ、と甘く可愛らしい声がナマエの後から聞こえてきた。
「おい」
「お腹!やっぱりお腹空いてたみたい!」
慌てて両手をぶんぶんと振って誤魔化そうとするナマエに、彼は自身の予想が間違っていないことを確信した。ローはナマエの部屋にずかずかと入ると、無言でナマエの布団を引っぺがした。
「ああ、駄目!」
「こいつは何だ」
布団の中から出てきたのは、艶やかな毛並みの黒猫だった。その猫は左右で色の違う瞳でローを見つめ、再びにゃあと鳴いた。
「……にゃんこ」
「見れば分かる」
ばつの悪い様子で目を逸らしながらナマエは答えたが、ローは眉間を揉み解しながらばっさりとそれを斬り捨てた。ローがナマエのやらかしたことに頭を悩ませていると、遅れてペンギンとシャチ、ベポの三人がやってきた。
「元のところに戻してきなさい」
「だからお前は母ちゃんかよ」
ナマエの部屋までやってきたペンギンは、正座したこどもの隣にちょこんと座っている黒猫を目に入れるなり言った。後ろを歩いていたシャチがすかさずツッコみを入れる。ベポは漫才のような会話をしている二人の上から黒猫を見下ろすと、「おれの方が毛並みが良い」と謎に黒猫と張り合っている。全くもって意味が分からない。
「違うよ、飼うんじゃなくて」
ナマエがちらりと猫を見ると、その猫は優雅に立ち上がって何かを咥えてきた。
「なんだこれ」
猫が咥えているものに手を伸ばしたシャチは、毛を逆立てた猫に見事な猫パンチを決められた。猫の電光石火を食らったシャチの手の甲にはしっかりと爪痕が数本刻まれている。
「いてェ!こいつ引っ掻いたぞ!」
「この手紙は大事な物みたいだから触っちゃ駄目だよ。私も引っ掻かれた」
したり顔で頷くナマエは自身の袖を捲って見せたが、確かにその両腕に盛大なひっかき傷ができている。いつも七分丈程度に腕まくりしているのに、やけにピッシリ着ていると思ったらそれが原因か。ひっかき傷どころか噛み跡も見える。ベポが小声で「いたそう……」と溢したが、ナマエ同様に引っ掻かれたシャチはそれに全面同意である。これ地味に痛い。苦い顔をしたローが無言でナマエの両腕を取った。ざっと視診したローは溜息交じりに「後でおれの部屋に来い」と言うので、ナマエはこくりと頷いた。
「分かった。でも和解できたよ」
ね、とナマエが猫に笑いかけると猫は返事の代わりに尻尾をぱたりと振った。
「でね、この手紙を届けたいみたい。住所見たら次寄る予定の島だから、いいかなって」
「いや、駄目だろ」
「乗船許可は猫でもキャプテンに取らなきゃダメ」
両腕を交差させてバツを作って見せるシャチとベポにナマエは項垂れた。
「……ごめんなさい。困ってそうだったからつい」
「といってももう船出ちまってるしな」
「今回は仕方無ェ」
がばっと顔を上げたナマエは両手を上げて喜んだ。今になって始まったことではないが、浮き沈みが露骨に出るこどもである。
「ありがとうキャプテン!!」
「いいからお前はこっちに来い」
ローに襟首を引きずられて連行されていくナマエを見送りながら猫はまたにゃあと鳴いたが、シャチに見られていることに気付くと毛を逆立てて威嚇してきた。あくまでナマエ以外とは馴れ合うつもりは無いらしい。なんて可愛げの無い奴!!シャチはギリギリと唇を噛んだ。
◇
ポーラータング号には、彼らの経済状況を犠牲にして成り立っている立派な医務室や処置室があるが、引っ掻き傷低度ならローの部屋で手当てができる。わざわざそっちまで行くのが面倒だったので、ローはナマエを自室まで連行した。ソファにナマエを座らせ、応急処置のキットが入った救急箱を取ってくるとこどもはソファの上でしおしおと小さくなっていた。
「キャプテン、ごめんなさい」
「それはさっき聞いた」
呆れながらナマエの手を取り、ツナギの裾を捲る。両腕に細かいひっかき傷があるが、一番主張が激しいのが右腕の肘の下から手首にかけての傷だ。血も出ていたようだが、ツナギの素材上全く気付かなかった。しかし捲った袖の裏地にはしっかりと血が付いていた。その惨状にローは顔を顰め、そんな彼の表情を見たナマエは更に小さくなった。このままではナマエは虫めがねで見ないと目視できなくなるのでは、といったしおらしく殊勝な態度である。消毒液が沁みたのか、ナマエはびくりと肩を震わせた。
「痛ェときは言えよ」
善処はする。つまり、歯医者が言う「痛かったら言ってくださいねー」と同義である。ともあれ、この言葉はナマエにとって意味をなさない。何故なら。
「全然痛くないよ」
ナマエは必ずこう答えるのだ。ときおりこのこどもは痛覚が麻痺しているのではないかと思うことがある。
そういえば、ナマエが「痛い」と言ったことは今までで一度も無い。同業者と戦ったときはそれなりに怪我を負うこともあるというのに。まるで「痛い」と言うことが罪であるかのように、いつもナマエは首を振った。それが遠慮であるのなら心底不愉快である。そんなローの考えなど露知らず、ナマエは口を開いた。
「ねぇ、キャプテン。あの手紙、なんだろうね」
「さァな」
真剣に猫のことを考えているこどもには悪いが、仲間と比べてしまったらそんなもの、ローにとってはどうでもいいのだ。
それ故に物心ついたときから孤立していた。だけれども、“彼”は優しさなんて知らないから、寂しくなんて無かった。
当然のようにこのままずっと一人で生きていくのだと思っていた。しかし、世の中は分からないものである。そんな“彼”に友達ができたのだ。
そんな友達も十分に変わり者だった。“彼”は友達との時間を過ごして一人じゃないことの温かさや優しい声と共に微睡む幸せを知った。いつしか友達は“彼”の親友になった。
とある日のこと、親友は旅に出た。どうやら親友は探し物をしていているらしい。親友の恋人は旅に連れて行って貰えないようだったが、“彼”はその旅に同行した。ところが、いくつもの海を越えた冒険はあっけなく終わってしまった。“彼”の親友は病に倒れたのだ。“彼”は親友が弱っていくのをただただ見ていることしかできなかった。自分の無力さを呪ったが、親友は彼を責めることなく最期まで温かいものを沢山くれた。優しい掌、掠れる声で紡がれる自分の名前。そんな親友は最期にひとつだけ、“彼”に頼みごとをした。『故郷の恋人に渡して欲しい』と“彼”に震える手で手紙を渡して、そうして親友は冷たくなった。
だから“彼”は親友の最後の頼みに答える為、彼の故郷に旅立った。船を乗り継いで旅をして、やっと次の島が彼の故郷だ。
しかし今“彼”は途方にくれていた。なんと親友の故郷に向かう船が出ないのである。
一刻も早く親友の想いを届けたい。“彼”は丘の上から海を眺めながらこれからのことを考えたが上手い案が浮かんでこない。
ふと、視線を感じた。“彼”が視線を感じた方向に振り向くと、一人のこどもが立っていた。全身白づくめの、可笑しな模様の入った服を着たこどもだ。
こどもはくりくりとした大きな瞳をさらに大きくさせて、ぽつりと呟いた。
「にゃんこが手紙持ってる……」
◇
「ごちそうさまでした」
「え、お前もう食べねェの?」
ナマエはそう言って小さな手を合わせた。
ナマエのお茶碗に盛り上がるほどよそわれていたご飯は米粒一つ残っていない。サラダボールもお味噌汁が入っていたお椀も空っぽだ。しかし、肝心のおかずの焼き魚は半分以上残っている。ナマエは食べ盛りのシャチと同じくらいよく食べる。その小さな体のどこにそんな大量のものが入るのだ、というくらいに。本人は『キャプテンくらい大きくなる』と豪語しているが、それを聞くたびに微笑ましい気持ちになるペンギンだった。ちなみにローは『そうか』と言ったきり何も言わない。それは一周回って寧ろキャプテンなりの優しさなのでは、というのがペンギンの見解である。話がずれた。とにかく、そんなナマエが夕飯を残したのである。怪訝に首を傾げるシャチの様子も当然といえよう。
「具合でも悪いのか」
「ううん、お腹空いてないの。残してごめんなさい」
眉を顰めるローに軽く首を振りながらナマエは席を立った。食べ終わった食器をキッチンに運んで後片づけをすると、こどもはぱたぱたと忙しなく自分の部屋に戻って行く。食事が終わっても何だかんだローの隣に座っているのに、これは妙な行動である。そんな不可解極まりない様子のナマエをじっと見送った後、ローが言った。
「……待て、あいつ何で食べ残した魚を部屋に持っていった」
もの凄く嫌な予感がする四人だった。そして、残念なことに多分それは間違っていない。緊急事態に食事を取るのを一旦止めたローは立ち上がった。行き先は当然決まっている。
ばんっとローがナマエの部屋の扉を容赦なく開けると、扉に背を向けて座っていたこどもは慌ててばさりと黒っぽい“なにか”に布団を被せた。ローの目がおかしくなければ、それは小柄な動物に見えた。例えば、猫とか。
「お前、今何を隠した」
「え、なんのこと?!」
だらだらと冷や汗をかきながら、振り返ったナマエはわざとらしくとぼけてみせた。このこどもは嘘を吐くのが思いっきり下手なのだ。目は完全に泳いでいるし、声は上ずっている。
そんなナマエの代わりに答えるように、にゃあ、と甘く可愛らしい声がナマエの後から聞こえてきた。
「おい」
「お腹!やっぱりお腹空いてたみたい!」
慌てて両手をぶんぶんと振って誤魔化そうとするナマエに、彼は自身の予想が間違っていないことを確信した。ローはナマエの部屋にずかずかと入ると、無言でナマエの布団を引っぺがした。
「ああ、駄目!」
「こいつは何だ」
布団の中から出てきたのは、艶やかな毛並みの黒猫だった。その猫は左右で色の違う瞳でローを見つめ、再びにゃあと鳴いた。
「……にゃんこ」
「見れば分かる」
ばつの悪い様子で目を逸らしながらナマエは答えたが、ローは眉間を揉み解しながらばっさりとそれを斬り捨てた。ローがナマエのやらかしたことに頭を悩ませていると、遅れてペンギンとシャチ、ベポの三人がやってきた。
「元のところに戻してきなさい」
「だからお前は母ちゃんかよ」
ナマエの部屋までやってきたペンギンは、正座したこどもの隣にちょこんと座っている黒猫を目に入れるなり言った。後ろを歩いていたシャチがすかさずツッコみを入れる。ベポは漫才のような会話をしている二人の上から黒猫を見下ろすと、「おれの方が毛並みが良い」と謎に黒猫と張り合っている。全くもって意味が分からない。
「違うよ、飼うんじゃなくて」
ナマエがちらりと猫を見ると、その猫は優雅に立ち上がって何かを咥えてきた。
「なんだこれ」
猫が咥えているものに手を伸ばしたシャチは、毛を逆立てた猫に見事な猫パンチを決められた。猫の電光石火を食らったシャチの手の甲にはしっかりと爪痕が数本刻まれている。
「いてェ!こいつ引っ掻いたぞ!」
「この手紙は大事な物みたいだから触っちゃ駄目だよ。私も引っ掻かれた」
したり顔で頷くナマエは自身の袖を捲って見せたが、確かにその両腕に盛大なひっかき傷ができている。いつも七分丈程度に腕まくりしているのに、やけにピッシリ着ていると思ったらそれが原因か。ひっかき傷どころか噛み跡も見える。ベポが小声で「いたそう……」と溢したが、ナマエ同様に引っ掻かれたシャチはそれに全面同意である。これ地味に痛い。苦い顔をしたローが無言でナマエの両腕を取った。ざっと視診したローは溜息交じりに「後でおれの部屋に来い」と言うので、ナマエはこくりと頷いた。
「分かった。でも和解できたよ」
ね、とナマエが猫に笑いかけると猫は返事の代わりに尻尾をぱたりと振った。
「でね、この手紙を届けたいみたい。住所見たら次寄る予定の島だから、いいかなって」
「いや、駄目だろ」
「乗船許可は猫でもキャプテンに取らなきゃダメ」
両腕を交差させてバツを作って見せるシャチとベポにナマエは項垂れた。
「……ごめんなさい。困ってそうだったからつい」
「といってももう船出ちまってるしな」
「今回は仕方無ェ」
がばっと顔を上げたナマエは両手を上げて喜んだ。今になって始まったことではないが、浮き沈みが露骨に出るこどもである。
「ありがとうキャプテン!!」
「いいからお前はこっちに来い」
ローに襟首を引きずられて連行されていくナマエを見送りながら猫はまたにゃあと鳴いたが、シャチに見られていることに気付くと毛を逆立てて威嚇してきた。あくまでナマエ以外とは馴れ合うつもりは無いらしい。なんて可愛げの無い奴!!シャチはギリギリと唇を噛んだ。
◇
ポーラータング号には、彼らの経済状況を犠牲にして成り立っている立派な医務室や処置室があるが、引っ掻き傷低度ならローの部屋で手当てができる。わざわざそっちまで行くのが面倒だったので、ローはナマエを自室まで連行した。ソファにナマエを座らせ、応急処置のキットが入った救急箱を取ってくるとこどもはソファの上でしおしおと小さくなっていた。
「キャプテン、ごめんなさい」
「それはさっき聞いた」
呆れながらナマエの手を取り、ツナギの裾を捲る。両腕に細かいひっかき傷があるが、一番主張が激しいのが右腕の肘の下から手首にかけての傷だ。血も出ていたようだが、ツナギの素材上全く気付かなかった。しかし捲った袖の裏地にはしっかりと血が付いていた。その惨状にローは顔を顰め、そんな彼の表情を見たナマエは更に小さくなった。このままではナマエは虫めがねで見ないと目視できなくなるのでは、といったしおらしく殊勝な態度である。消毒液が沁みたのか、ナマエはびくりと肩を震わせた。
「痛ェときは言えよ」
善処はする。つまり、歯医者が言う「痛かったら言ってくださいねー」と同義である。ともあれ、この言葉はナマエにとって意味をなさない。何故なら。
「全然痛くないよ」
ナマエは必ずこう答えるのだ。ときおりこのこどもは痛覚が麻痺しているのではないかと思うことがある。
そういえば、ナマエが「痛い」と言ったことは今までで一度も無い。同業者と戦ったときはそれなりに怪我を負うこともあるというのに。まるで「痛い」と言うことが罪であるかのように、いつもナマエは首を振った。それが遠慮であるのなら心底不愉快である。そんなローの考えなど露知らず、ナマエは口を開いた。
「ねぇ、キャプテン。あの手紙、なんだろうね」
「さァな」
真剣に猫のことを考えているこどもには悪いが、仲間と比べてしまったらそんなもの、ローにとってはどうでもいいのだ。