逆トリナンバーズ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ただいま」
ナナシは浴室の扉を開けてその先の人物に声をかける。
狭い浴槽に横たわり、ジップロックに入れたiPadで遊んでいるのはゲーム「ロックマン」のキャラクター、バブルマンだ。
何故彼がナナシの家の浴室にいるかといえば、さかのぼること数日前のことである。バブルマンは物質転移装置の実験中の事故で別の位相へ飛ばされた。比較的近い世界線だったらしく、文化レベルはかなり近いように見えたが、大きく異なる点が一つあった。
ロボットがいない。
正確には自律思考型ロボットが町中にまったく見当たらなかった。人間に近い見た目をしているとかそういう話ではなく、識別できる範囲内で高度なAIを搭載したヒューマノイドが一機も無いのだ。その証左としてバブルマンを見た人間が奇異なものを見る目で、何かのコスプレですか?と訊ねてきたのだ。そこでバブルマンはようやく別の世界線に来てしまったのだと気が付いた。ワイリー博士はおろかライト博士もいない、ロボット科学の発達しなかった世界線に。
つまり、元の世界から助けが来ることを待つしかないということだ。ワイリー博士はきっと必死になって彼を取り戻そうとするだろう。……諦めてスペアを起動することは無いと思いたい。帰れないのはもちろん、戻ったら自分が二人いるのもごめんだった。
ロボットがいない世界なら人の目に付くところにいるのは当然得策じゃない。幸い水中用だったため、飛ばされた地点から近い河に身を隠すことにした。このときほど自分の機体に感謝したことは無い。エアーマンや他の兄弟機だったら身を隠すだけでも一苦労だっただろう。
助けが来るまで数日数ヶ月数年どれくらいかかるか分からないが、誰かに見つかるか、エネルギーが尽きるまでここに居ようと思っていた矢先、人間に見つかってしまった。
「え?!カッパ?」
カッパとは失礼な、と内心思うが、ロボットとばれるよりはカッパと思われた方が幾分ましかもしれない。
「違う、もしかしてバブルマン……?」
なぜ彼女が自分の名前を知っているのだろうか。元の世界ならテレビで見たとかで知っていることはあり得るが、ここはDr.ワイリーもロボットもいない世界のはずだ。
警戒するバブルマンに彼女は慌てたように、怪しいものじゃないこと、彼のことを知っているのはゲームで見たからだと説明してきた。さらにバブルマンが違う世界線に来てしまっていることまで当ててきた。
なぜそこまで事情を知っているのか最初は訝しんだが、匿ってくれるとのことだったので素直についていくことにした。本当に味方であるなら事情を知っている方がやりやすいし、もしそうでないなら始末するのに近くにいた方が良いと思ったからだ。
そうしてバブルマンはナナシの住むアパートに案内され、浴室を占拠することになった。
「おかえり、早かったね」
「今日は定時で上がれたから」
ピンポーン
チャイムが鳴り響く。インターホンから、宅配便です、の声が聞こえてくる。
「なんだろ何も頼んでないはず……」
「あ、僕が頼んだオイルだ。受け取っておいて」
「また勝手に人のカードで買い物して!」
必要経費とうそぶくバブルマンにナナシは嘆息する。
うっかりiPadにクレジットカードの情報を登録したままにしてしまったら勝手に買い物するようになってしまったのだ。それが少額ならいいが、本当に必要あるのか怪しいものまで買いあさるものだから困っていた。
それでも許してしまう程度にはナナシはバブルマンには甘かった。この賑やかさがいつ終わるともしれないものであるからこそ寛容なのかもしれない。
「草津温泉の素も届くからよろしく」
「だー!もう!」
泡沫の夢
(それでも会えてよかった)
3/3ページ