ハロウィンの魔物
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今日はハロウィン。仮装した子供たちが大人からお菓子を強請る日。
私の住む街では毎年この日には大規模な仮装大会が開かれる。
子供だけじゃなく大人も老人も男も女もロボットまでもが、思い思いの仮装をする。
広場へ続く大通りも今日だけは歩行者天国で、化け物たちが練り歩く。
魔女が呼び込む店先にはジャック・オ・ランタンが不気味に目を光らせ嗤い、蝙蝠のモビールがゆれる。
特殊メイクのゾンビ、血塗れのナース、片腕がフックの海賊、ベネチアンマスクの貴族、不気味に吠える狼男、ロボットのフランケンシュタイン、ホラー映画の殺人鬼に、仮面のヒーローから魔法少女までいる。
大会の最後には一番素敵な仮装をした人に賞が与えられるものだから、みんな気合が入っている。
もちろん私みたいに賞に興味が無い人たちもいるし、みんなこの祭りを楽しんでいる。
私の仮装は魔女の使い魔、黒猫だ。
黒い猫耳カチューシャと鈴のついたチョーカー。黒いワンピースの裾から尻尾が垂れている。
私は黒猫の主人である魔女に扮した友達と歩いていたはずなのに、
手の込んだ仮装に気を取られてよそ見をしているうちにお互いを見失ったようだ。
「あれー…出ないなぁ…」
さっきから何度も電話をかけているのだが、この奇妙な仮面舞踏会の熱狂に紛れて聞こえないらしい。
何度目かのコール音の後、電話は諦めてメールを送ることにした。
この雑踏の中で歩きスマホなんてするものじゃない。
手元ばかり見ていれば当然、足元がおろそかになるわけで。
はっ、と気がついた時には目の前の人にぶつかりよろけてしまった。
(あ、ころぶ……)
反転する視界。
気持ちの悪い浮遊感。
背中を地面に打ち付ける痛みに覚悟したのに、思ったよりも小さい衝撃に顔を上げる。
切れ長の目、長い鷲鼻、上品な微笑を浮かべた唇から覗く牙。
混乱し停止した脳はかろうじて吸血鬼に抱きとめられたのだと理解した。
「大丈夫ですか、御嬢さん?」
「あ……す、すみません!」
ワンテンポおいて思考が追いつくと同時に羞恥がやってきた。
吸血鬼は真っ赤な顔の私を気遣うようにそっと立たせ、優雅に身を離す。
「お怪我はありませんか?」
「はい!おかげさまで……!」
それは良かった、と優しいテノールが耳をくすぐり、さっきとは違う理由で思考が停止しそうになる。
「ところで御嬢さん、そんなに慌ててどうされたんです?何か探し物でも?」
「友達とはぐれてしまって……広場なら会えるかなって」
吸血鬼は一瞬眉を寄せたように見えた。
「……広場には行かない方が宜しいかと」
「え?……あぁ、イベントでもあるんですか」
「まぁ、そんなところです」
そういえば広場には特設ステージがあった。
イベントが始まれば必然的に人が多くなる。そうなれば友達と会うのは難しくなるだろう。
もっと人の少ないところで落ち合うべきか。
「重ね重ね、ご親切にありがとうございました!」
「お気を付けて!」
私は魔物の雑踏に消えていく吸血鬼に手を振りながら、今度は人にぶつからないように歩き出した。
(そういえば名前聞きそびれちゃったな……)
またあの親切で素敵な吸血鬼さんに会えるだろうか。
まだ熱を帯びる頬を秋風がかすめていった。
「シェード、仕事サボって女の子抱っこしてる~!いけないんジャン!」
狼男が牙を剥いて笑う。シェードと呼ばれた吸血鬼は眉根を寄せる。
「スラッシュ……盗み見とは行儀が悪いですよ?」
「ナンパしてるシェードが悪いんジャン」
「ナンパじゃありません」
「フーン?でも広場に行くな、なんて、あの娘には優しいジャン」
「……ただの気まぐれですよ」
吸血鬼はまだ何か言いたげな狼男を無視して、舞台の上の役者の様な大袈裟な身振りで振り返る。
「さて、そろそろ“パーティー”の時間です。ジャンクも広場で待っているでしょう」
「たっのしみ~!ジャン!」
その後、私は無事友達と合流できたのだが、喜びもつかの間、爆発音が鳴り響く。
仮装大会に来ていたロックマンを狙ってのDWNの襲撃だ。
避難先で見たテレビはそのニュースで持ちきりだった。
命懸けのカメラマンとリポーターが報道する映像に、一瞬だけ映った見覚えのある姿。
さっきハロウィンの仮装大会で見かけたあの姿。
広場で暴れるロボットの狼男、フランケンシュタイン。
吸血鬼。
ハロウィンの魔物
今日はハロウィン。仮装した人々に紛れて魔物が徘徊する日。
私はとんでもない者と話していたのかもしれない。
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