腐り落ちた花
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空に浮かぶ蒼ざめた月。
朝露に濡れた真紅の薔薇。
嗚呼、なんて美しいのだろうか。
人の手に因らぬ完成された美しさに、それらを造り上げた大いなる者の存在を信じる人間の気も分かる気がする。
我らロボットに信じる神はいないが、しいて神とするなら私を創ったDr.ワイリーであろう。
神の手によるものであるかと見紛うほどのこの造形美。
薔薇も蝶も孔雀もなにもかも、私をさらに輝かせる為の引き立て役に過ぎない。
月も星もダイヤモンドも私の前では恥じ入り輝きを無くす。
血より紅いルビーも海より碧いサファイアも私の美しさに色を失う。
それを自惚れと嘲笑う者も在れど、私の目に映る世界の中で最も美しいのは鏡の中の私であり、それはまぎれもない事実なのだ。
そんな私の世界に、私を前にしても色を失わない者が現れた。
それどころか日を追うごとに輝きを増す者がいた。
ろくに化粧もしない、寝不足でクマができてるし、書類仕事で手はガサガサ。
美しいなどという言葉は似合わない女だ。
しかし、彼女の瞳に映った私は今まで見た何よりも美しかった。
彼女こそ私を最も美しくする存在なのだと直感し理解した。
彼女は私の映す視界の中で色彩に富み、私の身体の鏡は彼女を映しオパールの輝きを宿す。
彼女が笑うたび泣くたびに色は淀みなく変化する。
星が瞬くような、蕾が花開いたような、そんな笑顔が私に色を与える。
その色が何よりも好きだった。
それなのに、どうして彼女は笑ってくれないのだろうか。
どうして、どうして、
「どうしてお前は私をそんな目で見るんだ!ナナシ!!」
私ほど美しいものはないというのに、まるで醜い化け物でも見る様じゃあないか。
私が見たいのは絶望の色ではないはずだ。
嫌悪と苦痛に歪む顔ではなかったはずだ。
それなのに、
私の下で蒼ざめたナナシの顔。
涙で濡れた黒曜石の瞳。
嗚呼、なんていとおしい。
ナナシの細い首筋をなぞる。
大きく見開かれた彼女の目に映る私は、ひどく醜い色をしていた。
腐り堕ちた花
濁った視界を映す鏡
色褪せ崩れたのは私
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