沈む夕日と君の横顔
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「帰りが遅いから見に来てみれば、なんだこのザマは」
見上げれば夕陽より赤い機体が穴の中の私を覗き込んでいる。
逆光のせいで顔は見えない。
見えたとしても口元をすっぽりと覆うマスクで、表情は分からないだろう。
私は溜め息のような排気音とともに抱きかかえられ 、穴の外へと引き上げられた。
さかのぼること数時間、ナナシは自転車で山道を下っていた。
山道と言っても緩やかなもので、スピードさえ出さなければ転ぶようなことはなかった。
Dr.ワイリーの秘密基地は山中にあるため、一週間に一回は買い物のために麓の街まで行かなければならない。
今日はその買い出しの日では無かったが、醤油を切らしてしまったため、ナナシは街へ向かっていた。
わがままな主人は夕食が遅れれば癇癪を起こすだろう。
そう思って速度を上げたのが間違いだった。
地面に突き出た石に乗り上げバランスを崩し、そのままの勢いで崖へスライディング。
自転車から放り出された体は一瞬宙に浮き、落下した。
幸か不幸か崖はそれほど高くなく、死ぬような大怪我はしなかったものの、落下の衝撃で挫いた足ではとても登れそうになかった。
助けを呼ぼうにも通信機は自転車のかごの中、崖の上だ。
人はおろか警備のロボットさえ通らないこんな山奥では、叫んだところで誰にも聞こえやしない。
あまりにも帰りが遅ければ、ナンバーズの誰かがGPSで自分を見つけてくれるだろう。
その希望的観測とともにナナシは日が傾くまで、痛む足首をさすりつつ、じっと座っていた。
「いつまでたっても帰還しない上、通信にも応じない。探知して来てみれば、穴にはまって動けなくなっているとは……とんだ間抜けだな」
ひらり、と崖を飛び降りるメタルマン。
ナナシを抱き上げると一気に跳躍した。
ナナシには一人では這い上がることすら出来なかった崖を、やすやすと飛び越えた。
メタルマンはナナシを小脇に抱えたまま、もう片方の腕で自転車を担ぎ上げ、基地へと山道を登りはじめた。
「お……降ろしてください。自分で歩きますから!」
「その足でか?」
ナナシの足首は赤く腫れ上がり、熱をもっている。
さっきよりはましとはいえ、ズキズキとした鈍い痛みがある。
それでもナナシは抱えられていることの気恥ずかしさからか、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないという心苦しさからか、メタルマンを振りほどこうとじたばたもがいている。
だが、人間の力でロボットに勝てるわけがない。
ナナシがいくらメタルマンの脇で暴れても、メタルマンの腕はびくともしない。
結局ナナシは諦めて、おとなしく荷物のようにぶら下がっていた。
「……博士が待っておられる」
(博士も心配してくれたのか……)
「夕食はまだかとご立腹だ」
(そっちか!)
「すみません……」
「謝罪なら博士にすることだ。…まったく、明日からの仕事に支障をきたしたらどうするつもりだ」
いつもより饒舌なメタルマンに抱えられ、基地へ帰りつくまでひたすら小言を言われ続けた。
山道の向こう、ビル群の陰に消えていく夕日を見送りながら、ナナシはため息をついたのだった。
「ありがとう、メタルマン」
「……急になんだ」
「まだお礼は言ってなかったわ」
「礼など必要無い。……精々養生しろ」
沈む夕日と君の横顔
きみのかおはよくみえないけど
あかいのはきっとゆうひのせい
.
1/1ページ