彼女はひどく気落ちしているように見えた。

「どうした？」
「ううん、なんでもないの」

そうは見えなかった。

「何かあったのか？ もし拙者で力になれることがあるなら――」
「本当になんでもないから……ごめんね」

そう言って微笑む彼女の顔にはいつものような明るさが感じられなかった。その表情に胸の奥を締め付けられるような感覚を覚えた。それはとても痛々しくて見ていられないものだった。そんな顔をしてほしくないと思った。
だからだろうか。気が付けば口を開いていた。

「……話してくれないか？」
「えっ？」
「貴女の悩みを聞くくらいのことしかできないかもしれぬが……それでも拙者は貴女の助けになりたいのだ」

彼女はしばらく考え込んだ後、小さくこくりと首を縦に振った。
そしてぽつりぽつりと話し始めた。
なんでもナンバーズの誰かと喧嘩になったらしい。人間はいつ裏切るとも知れない、やはり信用できないと言われショックを受けたようだ。

「私なりに信用を得たつもりでいたのに、そう思っていたのは私だけだったみたい」

悲しげな声で呟きながら俯いてしまう。
拙者にはなんと言えばいいか分からなかった。
だが黙っているわけにもいかない。だから思ったことをそのまま口にするしかなかった。

「他のナンバーズがどう言おうと拙者は貴女の味方でござる」
「じゃあ、もし私が本当に裏切って、ドクターの敵になったとしたら？」
「それは……」

言葉に詰まるシャドーマン。

「ごめんなさい、意地悪だったわね。忘れて」
「それでも……拙者は、貴女を守りたいと思う」
「ありがとう、嘘でも嬉しいわ」

疲れたように幽かに笑う彼女。
無理な話なのだとしても、守りたいと願うのは本心だということは彼女には伝わらないのだろう。それがもどかしく、ただ悲しかった。