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主人公

 「出かけるぞ。支度しろ」
 そう博士は言うと自分だけさっさと行ってしまった。私はどこに、なぜ私を、という疑問を持ったまま慌ててエプロンを脱ぎ捨て鞄をつかんだ。

 外へ出ると博士は使ってないはずのガレージへ向かっていた。今疑問を投げかけても答えてはくれないだろうとおとなしく付いていく。
 ガレージのシャッターを開けると、そこにあったのはレーシングカーだった。ブルーとグリーンを基調とした車体が新品のように輝いて見えた。

 「どうしたんですか、これ」
 「拾ったんじゃよ」

 なんでも廃棄場に捨てられていたのをジャンクマンが拾って来たらしい。
 この人は車の修理もできるのか。驚いていると博士は運転席に乗り込んだ。

 「試験運転じゃ、乗れ」

 慌てて助手席に乗り込む。かなり本格的なレーシングカーで、車に詳しくない私でも細部にこだわりを感じられた。今の時代には珍しく自動走行システムは付いてないようだ。
 シートベルトを締めるや否や車は急速に走り出した。急発進する車内で思わず悲鳴をあげる。車はあっという間にガレージから飛び出した。
 スピードメーターを確認すると時速三百キロを超えていた。

 「大丈夫なんですか!?」
 「問題ない、わしを信じろ」

 そういうことではないのだが……。まあ本人がいいと言っているのだしいいかと思い直す。
ほんの数分ほどで目的地に着く。

 「着いたぞ」

 基地からそう離れてない敷地にレース場ができていた。ストーンマン達がなにやら外で工事をしていると思ったが、レース場を作っているとは思わなかった。

 「ここなら思う存分走れるじゃろ?」

 確かに広いし障害物もある。マシンの性能差が出るだろう。

 「こいつもまだ走りたがっているようじゃしの」

 博士は軽くハンドルを撫でる。

 「それで、ここへ私を連れて来たのはなぜです?」
 「言ったじゃろ、試験運転じゃと」
 「まさか私に運転させる気ですか?!」
 「まさか!せっかく直したこいつを廃車にする気か?わしが運転するからお前さんはそこに座ってろ」

 いや、だから私が聞きたいのはなぜここに連れてきたかということだ。
 だが、これ以上聞いても無駄だと悟り大人しく座ることにした。

 「ルールを説明するぞ。スタートと同時にアクセル全開にしてゴールまで駆け抜ける。ただし途中で妨害はあるからのう、そのつもりでいるんじゃぞ」

 つまり、レースだ。昔よくやったゲームを思い出す。あれよりだいぶ本格的だしコースアウトしたら即クラッシュなので危険極まりないが。

 「では始めるぞ」

 カウントダウンが始まり、ゼロになる。同時に博士はアクセルを踏み込み一気に加速させた。すごい馬力だ。ぐんぐんと速度が上がり、カーブに差し掛かると遠心力により体が振り回される。

 「うわぁああ!!」
 「舌噛むぞ、黙っとれ」

 無茶苦茶すぎる。だがなんとかコーナーをクリアしていく。速度はどんどん上がっていき、ついに最高速に達した。

 「ひゃっほー!!楽しいなあ!!」

 博士はテンションが上がっているのか子供のようになっていた。楽しそうな表情を見てるとなんだかこちらも楽しくなる。
 しかし、そんな時間は長く続かなかった。カーブで大きく車体を傾けながら曲がっていく。その先には急な下り坂があり、このまま行くとガードレールを突き破って崖下に落ちてしまう。

 「危ない!!」

 私はとっさに目を覆う。声にならない悲鳴が出る。指の隙間から伺うと車体はガードレールギリギリのところで曲がっていった。

 「言ったじゃろ大丈夫じゃって」

 そう言って博士は笑う。
まったく心臓に悪い。寿命が何年縮まったかわかったもんじゃない。

 「そろそろラストスパートかけるぞ」

 最後の直線に入る。ここから先はもうアクセルを緩めることはできない。最高速度のままゴールを目指すだけだ。

 「いっけえぇえええ!!!」

 博士が叫ぶと同時にさらに速度があがる。
 そして―――。
 ゴールラインをくぐった。車が止まると同時にどっと疲れが出た。全身汗まみれになり息も絶え絶えである。

 「どうじゃった?」
 「……死ぬかと思いましたよ」
 「大げさじゃのう」

 この人は本当に何者なんだろうか。普通の人間にはこんな運転できないと思うのだが。

 「ありがとうございました。でも今度はちゃんと事前に説明して下さいね」
 「わかったわかった」

 絶対わかってないだろうこの人。まあいいかと諦める。

 基地に帰る時は、行きほどスピードは出てなくて、周りの景色を楽しむ余裕すらあった。
 喉元過ぎればなんとやらというやつで、こんな経験もたまにはいいかなと思えた。

 後日譚ではあるが、博士はこの車をさらに改造し新たなDWNとして迎え入れるが、それはまた別の話。


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