「実は最近指圧プログラムをインストールしたんだ。人間は俺達ロボットよりずっと短命だろ。なるべく長く一緒にいたいから長生きして欲しいんだ。長生きするためには健康であることが一番の方法だろ？」

「見てください、美しい私が２人！そして、ナナシさんの瞳の中にも私が４人。フフフ……楽しいですね」

ナナシより先にマグネットマンとジェミニマンがキッチンに来ていた。ナナシがよくいる場所ということで探しに来たらしい。ウイルスによっておかしくなっていないか身構えたが、あまり普段と変わりないように見えた。

（良かった……マグネットマン達はわりと安全な方向に“おかしく”なっているみたい）
人間に対して異常な執着を起こすウイルスらしいが、マグネットマンの“なるべく長く一緒に居たい”というのは異常というには可愛いものだろう。ジェミニマンもナナシの目を鏡代わりにしている以外はいつも通りで、自分の美しさに執心のようだ。

「じゃあ俺がこれから毎日健康チェックをするぞ。身長、体重、血圧、心拍、全て把握するために検査する。健康を保つために起床時間、就寝時間、食事、運動も俺が管理するからな」

前言撤回する。
異常な方向に“おかしく”なっている。
マグネットマンは健康オタクであることは以前から把握しているが、他人のプライバシーや自由を侵害してまで健康を押し付けるようなことはしなかった。

「さっきからどこ見ているんですか？」
突然顎をつかまれ無理やりジェミニマンに向き直される。

「私が見えないじゃないですか。貴女はずっと私だけを見ていてください。私も貴女の瞳だけを見ていますので」

ジェミニマンはナナシの瞳を、正確に言えば瞳に映りこんだ自分自身をうっとりと見つめている。鏡に映った自分自身ではなく、ナナシの瞳に映っていることに固執しているようだった。


「どうやら2人とも……」
「感染しているようね……」

シャドーマンとナナシはほぼ同時にため息をつく。
先のメタルマンよりは安全と言えるだろうが、よそを見るたびジェミニマンに顔の向きを直されていては首がおかしくなりそうだ。

「致し方あるまい……ナナシ嬢、失礼する」
「え？……きゃっ！」

シャドーマンに両手で抱えられたかと思うと全速力で走りだした。
マグネットマン達が呆気に取られている間に逃げ切ることはできた。

「ウイルスに侵されていては言葉での説得は難しかろうと思ってな」
「逃げた方が早いというわけですか……」

あまり害は無いようだったから、あのままキッチンで籠城しても良かった気がするが、ウイルスの詳細が分からない以上豹変する可能性もあるとシャドーマンは言う。

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