第4話
夢小説設定
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ナナシは困惑していた。
原因は目の前の赤い機体にある。
メタルマンでもマグネットマンでも無い、見知らぬナンバーズだった。
ナナシは廊下のすみに追い詰められ、威圧感のある赤い機体、クイックマンに見下ろされていた。
「誰だお前」
「初めまして、私はナナシ。最近、この基地でハウスキーパーとして働き始めたのよ」
今まで会ったナンバーズの中でも抜きんでて美しい顔が、いぶかしむようにゆがむ。
「そんな話は聞いてないし、博士が人間を雇うとは思えない」
クイックマンの手がナナシへ伸びる。
と、その時、助け舟を出したのは偶然近くを通りかかったエアーマンだった。
「そいつの言っていることは本当だ」
「……」
クイックマンがエアーマンを見た後ナナシの顔をまじまじと見つめる。
まだ疑っているような顔だったが、フンっと鼻を鳴らしてナナシから離れる。
「任務の報告が終わったなら博士にメンテナンスしてもらえ」
「どこも壊れてねぇよ」
「いいから行け」
クイックマンは、はいはいと生返事を返すとまばたきをする間には消えていた。
(驚いた……)
紹介がまだのナンバーズがいたことから予想はしていたが、不法侵入者と疑われ排除されたかもしれないことに背筋が寒くなる。
「すまんな、ナナシ。今のはDWN.012クイックマン。長期の任務で不在だったもので、お前のことを伝えるのが遅れた」
エアーマンがばつの悪そうな顔で紹介してくれる。
「大丈夫か?先ほどのことは後でよく言い聞かせておく」
「ありがとうエアー。少し驚いただけよ」
「あいつも落ち着きは無いが悪い奴じゃない。仲良くしてやってくれ。それにしても、お前は肝が据わっているな。俺が来なかったらどうするつもりだったのか」
カラカラとファンが回る。あきれているというよりは面白がっているような声色だったが、いかんせん表情が読みにくい。
「どうしていたかしらね、エアーがいて助かったわ」
おどけたようにそう返すナナシ。
正直どうしようもしなかったのではないかと思っている。
しかし、恐れや焦りはその時には感じていなかった。
ただ他人事のような、遠い出来事のようにも感じていた。
終わった後で汗が噴き出るように、恐怖が追い付いてくる。
やはりスネークマンが言うようにどこかおかしいのかもしれない。
「……どうした、ナナシ?やはりどこか悪いのか?」
急に黙り込んだナナシを心配してエアーマンが声をかける。
「なんでもないわ、エアー。……それより、食料の買い出しがしたいのだけど、近くにお店はあるのかしら?」
「あ、ああ。それなら麓の街に食料品店がある。シャドーマンあたりを護衛にして行ってくるがいい」
俺は目立つから付いてはいけないが、とエアーマン。
確かに影に潜めるシャドーマンと比べれば、巨大な扇風機は目立つだろう。
エアーマンに頼んでシャドーマンと連絡を取ってもらい買い物に付き合ってもらうことになった。
マグネットマンも荷物持ちに付いてきてくれるらしい。
今回はちゃんと仕事を終わらせてきたと自信満々に言うマグネットマンにニードルマンが苦笑していた。
※ ※ ※
―――ナンバーズ専用のメンテナンスルーム。
一足先にメンテナンスを終えたクラッシュマンがスリープモードで横たわっている。
クイックマンもメンテナンスを受けるためクラッシュマンの隣の台に横になった。
「なぁ、博士。あの人間は何なんだ?」
「なんじゃ珍しい、お前が他人に興味を示すなぞ」
「そんなんじゃねえって。……博士こそ人間嫌いなのによくあれを基地に置いておく気になったなって」
「お前が気にするほどの問題じゃないわい」
「俺も気になってるんだが?親戚でもない女を匿って何のつもりなんだか」
フラッシュマンがメンテナンスルームの扉を潜り、姿を見せる。
「任務お疲れさん。お前が無事で残念だ」
「なんだと?」
まったくもって労わっている素振りの無いフラッシュマン。
天才肌でせっかちなクイックマンと、努力型で慎重派なフラッシュマンはことあるごとに対立していた。
そのせいか顔を合わせるたびに喧嘩になっていた。
「父の前でやめんか。……ナナシの話が聞きたいのじゃろう?」
息子達の相変わらずの様子にDr.ワイリーはため息をつく。
「あれはいわゆる改造人間だ」
「改造人間?」
「サイボーグと言っても良い。人体の一部を機械に代替し、能力を大幅に向上させた人間のことじゃ。ナナシのいた研究所の資料によると、セラミカルチタン製の強化骨格に人工筋肉、神経線維も光ファイバーに代替され、おまけに負傷した際には細胞分裂が異常に高められ、大怪我を負っても数日で治るようになるようじゃ。」
「そんなことして何になるんだ?」
「ロボットと戦わせるためじゃ」
「ロボットと?いくら強化したところで人間じゃ話にならねぇだろ」
「ロックマンと戦わせるためじゃったらしい」
Dr.ワイリーによる世界征服に対抗すべく改造され家庭用ロボットから戦闘用ロボットになったロックマン。
彼はDr.ワイリーとそのロボット軍団を退け平和をもたらしたが、そのロックマンが人間の新たな脅威になると危惧する者たちがいた。
ロックマンを始めとするするライト製ロボットにはロボット3原則により人間を攻撃できないプログラムが組まれていた。
それゆえ、ロボットに匹敵する戦闘力の“人間”を作ることでロックマンに対抗しようとしたらしい。
ナナシのいた研究所は、人権を無視した違法な実験を繰り返し、そんな改造人間を作ろうとしていたのだ。
「あいつ……ナナシだっけ?そんな強そうには見えねぇけど?」
「あやつはただの試作機のようじゃ。強化されているのも一部で、せいぜい“ちょっと頑丈な人間”という程度じゃのう」
「完成品なら強えぇのか?」
「お前そればっかだな」
クイックマンは俄然興味を持ったとばかりに上体を起こす。
そんな戦闘狂の兄弟機の様子を、フラッシュマンはあきれたように見やる。
強者と見るや食らいつくように戦いを挑むクイックマンと、弱者から確実に叩いていくフラッシュマン。
そんな戦闘スタイルの違いも二人の不仲に拍車をかけていた。
「残念ながら完成には至らなかったようじゃ。研究所も潰して研究資料も根こそぎいただいて来たから完成することはあるまい」
「ええ!なんでだよ!?」
「当然じゃろ。ロックマンを倒すのはワシのロボットじゃい!改造人間など出る幕ではないわ!」
あからさまに落胆し興味を無くしたクイックマンはおもむろにE缶をとり封を開ける。
「じゃあなんでナナシを生かしておいているんだ」
クイックマンにかわり話を引き継いだのはクラッシュマンだった。
「なんだ、お前起きてたのか」
「騒がしくて起きた」
クラッシュマンはあくびをかみ殺しながらフラッシュマンに答える。
「なぜ完成品でもないナナシを助け、あまつさえそばに置いているんだ」
「ナナシをそばに置いている理由か……それはな……」
クイックマンもフラッシュマンも固唾を飲んで博士の言葉を待つ。
「それはな……悪の首領といえば美人秘書がつきものじゃろう?」
「……は?」
「それだけ?」
「そうじゃが?ロックマンと戦う時に横に立たせておけば絵になるじゃろ?普段は掃除でもさせとけばいいじゃろうし。料理もできるようじゃから……これクラッシュマン話は終わってないぞ!聞いといて途中で去るとはなんじゃ!」
「博士ー、早くメンテ終わらせてくれー」
クイックマンはメンテナンス台の上でスリープモードに移行し始める。
気が付けばフラッシュマンもいなくなっていた。
「なんじゃみんな聞いといて……」
Dr.ワイリーはぶつぶつ言いながらクイックマンのメンテナンスに取り掛かった。