第2話
夢小説設定
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Dr.ワイリーの秘密基地で暮らし始めてから数週間、傷も大分ふさがってきた頃、
「ナナシ嬢、博士が御呼びでござる」
声の主は何処に、と思った矢先、足下の影が歪み、膨らみ、形を変え、人の姿となり目の前に立っていた。
さすがに驚き眼を丸くするナナシに影は、
「付いて参れ」
と告げ、音も立てずに歩きだす。
さながら忍者のごときその姿、こいつも博士の戦闘用ロボットだろうか?
薄暗い廊下をいくつも通り、たどり着いたのは博士の研究室と思しき部屋。
照明を落とした暗い室内の壁一面に青白く光るモニターが設置してある。
Dr.ワイリーはその前で、革張りの椅子に足を組んで踏ん反り返っていた。
その横に影のように控えているのは、忘れもしない、この傷を作った張本人。
血よりもなお赤い装甲は逆光の中で赤黒く、紅い瞳だけがギラギラと光っていた。
「怪我の調子はどうじゃ?」
「はい、おかげさまで」
ワイリーが素知らぬ顔で聞く。
ナナシもそれにしゃあしゃあと答える。
「それはいい。今日からみっちり働いてもらうからな。……おお、そうじゃ、お前らはまだ初対面じゃったな。ナナシ、こいつはDWN.009メタルマン。分からない事があったらこいつに聞け」
ナナシを切り刻んだ戦闘用ロボットはメタルマンというらしい。
いったいどういう因果だろうか。
感情の読めない眼で己を見据えているこの機械人形が、己がここにいる原因を作ったとは。
「メタルマンといったわね、私はナナシ。よろしく」
笑顔で右手を差し出してやった。
取り乱したり、怯えたり、なんて無様な真似はしたくない。
ワイリーはナナシの行動に眼を丸くしている。
恐れを知らぬ大胆さに驚いているのか、はたまた敵に尾を振る愚かさに呆れているのか。
無機質な機械は意外にも素直に握り返すが、繋いだ右手をぎりぎりと締め付けられた。顔には出さなかったが解放された右手は、しばらくずきずきと痛んだ。
「下がってよいぞ、ナナシ。」
Dr.ワイリーは興が冷めたというような顔をしながらナナシに手をひらひらと振り、追い払うような仕草を見せた。
「おい、シャドーマン、こいつに基地内を案内してやってくれ」
「御意」
影の中から沸いた忍者は、ナナシに先立ち研究室を後にした。
※ ※ ※
コンクリートやパイプが剥き出しの廊下を歩く忍者。不釣り合いなようで違和感がないのは、彼がロボットだからか。
行きと同じように無言の二人。先に口を開いたのは忍者の方だった。
「……そういえば紹介がまだであったな。拙者はDWN.024シャドーマン、以後よしなに」
「こちらこそ、私の名はナナシ。改めてよろしくね」
今回の握手は穏やかなものだった。
「お主の立ち入っても良い場所はこれから案内するが、お主の部屋、厨房、博士の寝室、屋上、あと幾つかの施設とそれらを繋ぐ廊下のみでござる」
「了解。私が信用されてないのはわかってるわ」
「そう云うことではござらん。基地内には危険な場所も多い故……」
「勝手に歩き回ったりしないから安心して」
「うむ……。しかし博士はお主をわりと信用しておられるよう見受けらるがな。博士が拾ったロボットを修理するのはよくある事でござるが、人間を招き入れる、ましてや助けるなぞ考えられぬ事でござった」
「……人間じゃないからじゃない?」
「え?」
「ううん、なんでもないわ。ところであなた、さっき影の中から現れたわよね、驚いたわ」
「フフ……お主の驚く顔はなかなか良かったぞ」
「え?」
「いや、なんでも無いでござる。其れより中庭に着いたぞ。……おや、ウッド殿」
灰色の基地の真ん中に、ぽっかりと陽光の射し込む空間があった。
緑の木々や美しい草花に囲まれて、一体のロボットがジョウロを持ってたたずんでいた。
「こんにちは、シャドーさん。そちらの方がナナシさんですね。はじめまして、DWN.016ウッドマンです。ウッドと呼んでください」
「こっちも呼び捨てで構わないわよ。これからよろしくね、ウッド」
「こちらこそよろしくお願いします。ナナシ……さん」
呼び捨てで構わないって言ってるじゃない、と笑うナナシ。
ウッドマンは礼儀正しいロボットなのか、人を呼び捨てで呼ぶには抵抗があるようで、困ったように笑っている。
「うーん……難しいです。さん付けで呼ぶのはクセみたいなものですから」
「まあ、好きに呼んでちょうだい」
そう言ってお互いに握手を交わす。
「……大きな手」
ナナシの手と重ねると、まるで父親と子供の手のようだった。
「驚いたわ、あなたのボディ本物の木なの?」
「はい、天然檜です」
「へぇ、すごいわね」
「えへ……ありがとうございます」
ナナシは心から感嘆の声を上げた。
日本のカラクリ人形を思い出したが、目の前ではにかんでいるウッドマンは表情豊かで、温かみを感じられた。
そんな二人のやり取りを微笑ましく見守っているシャドーマン。
ふと思い出したように口を開いた。
「ウッド殿は基地の敷地内の植物全ての管理を任されているのでござる」
「じゃあ、ここの木々や草花もみんなあなたが?」
「はい。趣味みたいなものですし、他のロボット達にも手伝ってもらってますけどね。シャドーさんだっていつも手伝ってくださるんですよ」
「たまに、でござるよ。茶を飲みに来るついででごさる」
今度三人で茶を飲もうという話になって、シャドーマンとナナシは案内の途中だったことを思い出した。
「ありがと、また来るわね」
お互い手を振り、ナナシ達は中庭を後にした。
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