第1話
夢小説設定
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ナナシはまぶしい日差しに目を細める。
記憶は無いが、太陽なんて久しぶりに見た気がする。
少なくとも目覚めてからは窓のない部屋に監禁状態だったので、最後に見たのはその前のはずだ。
初夏とはいえまだ汗ばむほどではない穏やかな日差しの中、再びまどろみかけた時だった。
ふと視線を感じて見やると、大きなくりくりとした瞳と目があった。
ドアの隙間からこちらを伺っていた彼は気付かれたとみると、はっと身を隠すが、好奇心を抑えきれずにまた顔をだす。
高さからみて子供だろうか。
「そんなところに立ってないで、入ったらいかが?」
なるべく優しい声で話しかけてみた。
驚いてまた顔を隠す彼は、今度こそおずおずと部屋に入ってきた。
あどけない顔立ちに透き通った大きな目、金色のジッポーライターに手足が生えたような姿に、一目でロボットだということがわかった。
「はじめまして、私はナナシ。あなたは?」
「……ボクはDWN.015ヒートマン」
もじもじしているヒートマン。
知らない人間を警戒しているのではなく恥ずかしがっているようだ。
「そう、ヒートマン、よろしくね」
「?」
ヒートマンはナナシが差し出した右手を、困惑した様子で見ていた。
「握手よ、握手」
「あくしゅ……?」
「はじめて会ったら握手するものでしょ?ほら、あなたも右手出して」
おそるおそるナナシの右手を握りしめるヒートマン。
ナナシは機械とは思えぬ温もりに驚いた。
「よろしくね、ナナシ。ボクのことはヒートってよんでね」
照れくさそうにはにかむヒートマン。
まるで人間の子供そのものの表情にロボットだということを忘れそうになる。
「ところでヒートくん、さっきあなたが言ってたDWNって?」
「ドクター・ワイリー・ナンバーズの略だ」
突然割り込んできた声の主が姿を現す。
橙色の機体にバイザー、両腕にはいかついドリル。
少なくとも家庭用ではないだろう。
「ボクたちはDr.ワイリーにつくられた、せんとうようロボットってことだよ。ね、クラッシュ!」
クラッシュと呼ばれた戦闘用ロボットは、無表情でナナシを睨んでいる。
「あなたはクラッシュマンって言うのね。私はナナシよ」
「ニンゲン、貴様と馴れ合う気は無い」
差し出した右手は虚しく宙をつかむ。
「そう、残念ね」
おとなしく手を引っ込める。
第一、あの手じゃ握手もできないだろう。
「ヒート、行くぞ」
「やだ!もっとナナシとおしゃべりする~!!」
この返答に驚いたのか、クラッシュマンは僅かに表情が曇った。
しかし何も言わず、ヒートマンを部屋の外に押し出す。
ヒートマンは文句を垂れながら、
「またね」
と囁いて、手を小さく振る。ナナシはそれに微笑み返して見送った。
ヒートマンはDWN.015だという。
戦闘用だということには驚いたが、クラッシュマン以外にも少なくとも13機はいるということか。
博士の世界征服の野望は案外本気なのだろう。
あんなに精巧な機械を造ることのできるワイリーは、実際すごい科学者なのかもしれない。
しかし、戦闘用ロボットを表情豊かに造る理由がわからない。
博士は心を持ったロボットにも人間と同じ権利を与えたいと言っていたが、その為の兵器にも自我はともかく感情まで与える必要はあったのか。
※ ※ ※
「おい、女。てめぇがゴミ溜めに棄てられてたっつうニンゲンか」
見るといつのまにか青いロボットがすぐ近くに立っていた。
先ほどのヒートマンとは打って変わり、がっしりとした体格で、白い右腕は恐らく武器だろう。
物音も立てず気配さえ感じさせず、どうやって部屋に入って来たのか。
「別に棄てられてた訳じゃないわ。それと、私の名前はナナシよ」
青いロボットは、フンっと鼻でせせら笑い、身をかがめ顔を近づけた。
「ナナシサンよぉ、ここはな、天下の大悪党Dr.ワイリーのロボット軍団の居城だぜ?お前みてぇなニンゲンがいていい場所じゃねぇんだよ。命が惜しけりゃ逃げ出すこったなぁ」
「ご忠告どうも。ところで、あなたの名前は?」
「あぁ?」
「名前。どう呼んでいいか分からないわ」
動揺する様子もないナナシに面食らったような顔をするロボット。
「……DWN.015フラッシュマンだ」
「よろしく、フラッシュマン。……あ、左手のほうが良かったかしら?」
「誰もてめぇと握手なんてしねぇよ」
「あら、ヒートマンはしてくれたわよ」
フラッシュマンは、チッと舌打ちすると、乱暴に左手を握り返した。
「まったく、あのじいさんは何でこんなもん拾ったのかね」
ぼやくフラッシュマンが兄弟機の存在に気が付いた。
「おう、エアーの兄貴。どうした?」
「どうしたはこっちの台詞だ。何故お前がここにいる?」
「いいじゃねぇか、俺が何処にいたって。俺の家なんだからさ」
エアーと呼ばれた群青色のロボットは、ため息と共に腹の大きなファンをカラカラと回した。
「ナナシと言ったな。俺はDWN.010エアーマンだ。怪我の具合はどうだ?」
「おかげさまで」
「女性型でもいればよかったのだがな。俺が治療を行った」
なるべく人間とはかけ離れた姿のロボットを使ったのは、ワイリーの配慮だろうか。
「おー、ずりぃな兄貴。触り放題かよ」
下卑た笑い声をあげるフラッシュマン。
いくら男性型といえど、ロボットが人間の女の肌を見ても喜ばないと思っていたが……。
まさかDr.ワイリーはそんな感情まで戦闘用ロボットにプログラムしているというのか。
「黙れフラッシュ。……すまんな、包帯は自力で換えられるな?ここに置いておくぞ」
「ありがとう、エアーマン」
「エアーで構わん。……行くぞ、フラッシュ」
へいへい、とフラッシュマンはエアーマンに連れられ出ていった。
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