GirlsTalk Party
「……そんで、率直に聞くけど噂の彼氏とは最近どうなん?」
「……え?」
「そうですよ!今日はお二人の話を沢山聞きたいなぁって思っていまして…で、どうなんですか?」
淹れたての紅茶の湯気がほんのり立ち込める中、人数分のティースタンドも揃っていざ楽しみにしていたアフタヌーンティーの始まりだと言う時に、対面に座る自分よりも少しばかり歳下であろう二人の女の子は笑顔を浮かべながら私に問いかける。
彼女達からの質問の内容は私にとっては1ミリも身に覚えのないものであったので、口を付けようとした紅茶も手付かずのままに、身体は硬直し思考は遥か彼方の宇宙へと飛んでいってしまった。
今日はアカネちゃんとミカンちゃんと恒例の女子会の日。
ちなみにイブキさんもお誘いしたけど「行かないわよ!」の一言で不参加だったりする。
だけど、これは何時もの事だしたまに気が向いた顔を出しくれるので特段気にする事では無い。今度は参加して下さったら良いな、なんて思いながら今日という日を私は楽しみにしていた。
今回の女子会は前回から少しばかり日にちが経ってからの開催だったので、皆が各々話したい事聞きたい事が沢山あるだろうな、なんて思っていたら……さぁ開始と思った早々に女子二人から微笑みの爆弾のような質問を落とされたのが現状であった。
何故、私が彼女達の発言に凍りついているのかと言うと……正直「噂の彼氏」という存在に全く心当たりが無いからであり。
現在コガネ百貨店で勤務している私にとっては、日常が多忙すぎて恋愛をする暇もないというか仕事が恋人だとすら思っているのに、そんな私の見ず知らずの場所で私の「恋人」という人物が爆誕している可能性が出て来ている訳なのだ。
そりゃ事実無根すぎて焦りを通り越して思わず思考も停止しても仕方がないだろうと思う。
とりあえず、ティースタンドのセイボリーを食べ始めながらも、落ち着く為に少しぬるくなった紅茶を口に少し含む。
そして、ごくりと飲み干してから私は呼吸を整えて、アカネちゃんとミカンちゃんに向けて逆に問いかけた。
「……その噂の出処って……一体何処からなんですか?」
「んもー!噂って……今更照れなくてもええやん!」
「いや照れているとかじゃなくて、お二人が誤解されているようなのでそれを訂正しておきたく……」
「誤解なんかじゃないですよ~!」
「なー!ミカンちゃんもそう言うてるし!今日のウチらは惚気を聞きに来たんやから、たっぷりラブラブエピソードを本人から話してや!」
「あんまり甘いと胸焼けしちゃうかもですね。でもお話を聞くのを私も楽しみにしてたんですよ~!」
……駄目だ、完全に二人共私が照れ隠しで噂を否定していると思っている。だって早く話さんかと言わんばかりに二人の目がキラキラと期待に満ちたように輝いていて、私はそのあまりの眩しさにフラッシュをくらったポケモンのようにクラクラとしてしまいそうになってしまう。
いや、本当に誰ですか?本人の知らない所で私の恋人を名乗るのは……。これって訴えたら勝てるかな……。むしろポケモンバトルが許されるのならコテンパンにして二度と変な噂を流さないように出来ないものか……。
そんな事を考えつつ、見知らぬ恋人の出現に頭を悩ませていると一向に話をしない私に痺れを切らしたか、アカネちゃんが口を開く。そして私は彼女の放った言葉に耳を疑う事になった。
「もう!焦れったいな~!マツバ君の前でもそんな奥手なん?」
「……え?」
アカネちゃんが今口にした名前は見知らぬ存在とは真逆の人間であった。その人はエンジュシティのジムリーダーであり、千里眼を持つ修験者……そして何よりも私の古くからの友人でもある存在だった。
マツバさんと知り合ったのは同じく昔馴染みであるミナキさんから彼を紹介されたのがきっかけだったのは記憶に懐かしい。
そして有難い事に今でも二人には良くして貰っている訳だが……何故、今ここでマツバさんの名前が上がるのだろうか?
ここでまだ聞いた事が無い人の話だったら、その人物の事を聞き出して事実無根、根も葉もない噂を流すのは止めろと直談判出来たのに……あまりにも予想外の名前が出てきたので私の思考は再度宙へと昇って行く。
そんなヌケニンみたいになっている私を他所にアカネちゃんとミカンちゃんは二人でキャッキャと楽しそうに盛り上がり始めていく。
「だってマツバさん、何かある度に貴女のお話ばかりされているんですよ?しかも嬉しそうに」
「ほんまやで!!ジムリーダー会合でもそうだし。そんでマツバ君があまりにも楽しそうにニッコニコしながらアンタの話をしてるもんでウチ聞いたんよ?付き合ってるんかって!そしたらマツバ君なんて言うたと思う?」
「えー、気になります~!なんて言ったか教えてくださいよぉ」
「そんなんもう、優しく微笑んでご想像にお任せするよ……って!もうこれって実質そういう事やろ!?ウチは鈍くあらへんからこの一言で確信したってワケ!」
「きゃー!それってもう付き合ってるって公言してるようなものですねー!」
「せやろせやろ!ミカンちゃんもそう思うやろ~!!」
恋バナ?らしきものに盛り上がる女子二人の話を聞いて私は思わずくらりと目眩がしてしまった。
マツバさん……ジムリーダー会合で一体何の話をしているんですか?というか私の話ばかりって議題「私」でそんな話す内容ありますかね?それよりもジムリーダー会合という場にそぐわない内容を話すマツバさんを誰か止めてください……。
言っておくが、私とマツバさんは古き良き友人という関係だ。
決して噂されるような仲ではない。……ないんですけどねー。
しかし、この噂を撤回するにはだいぶ労力と時間が費やされるだろう。だって、目の前の女子二人がもう既に私からの恋バナを聞けるものだと喜々としての臨戦態勢を崩さないんだからなぁ……。
「……という訳で、馴れ初めから話を聞こうやないか!今日はウチらが満足するまで帰らへんで!さぁ、さっさと堪忍して話てや!」
「うふふ、楽しみです~!さぁ!沢山聞かせてくださいね!
恋する女の子は強いと言うけれど、恋バナに食いつく女の子も相当手強い。今の状況をポケモンに例えるならアカネちゃんとミカンちゃんはギャドラスで、私はコイキングだろう。
はねるを連発しても、何も起こらないように。
今日だけで、噂は所詮は噂であると証明するのは難しいだろう。今の時点でもう既にそれは分かっている。
今度マツバさんに会ったら「どういうつもりですか」と問い詰めてやるんだと思いながらも、すっかり冷めた紅茶をお供にしながら私のわるあがきは続いていくのだった。
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