ねがいごと、ひとつだけ
君の願いなら、短冊なんかに書かなくても僕が何でも叶えてあげる。だから僕の願いを君に叶えて欲しいな。
そんな事を思いながら僕は今日も君の帰りを待ち侘びているのだった。
「マツバさん、お疲れ様です。今日は七夕セールがあったので……忙しかったです……流石に疲れました」
「残業だったんだね、お疲れ様」
「……マツバさんたら。こんなに夜遅くなのに、いつもみたいに私の事を待っててくれたんですか?」
「勿論だよ。夜道の女の子の一人歩きは危ないからね」
「マツバさんはいつもそう言ってくれるし、家まで送り届けて下さるけど……私は一人でも大丈夫ですよ?お忙しいマツバさんの負担になっていると私は思うのですが……」
「全然負担なんかじゃないよ?むしろ、君に会えないと修行の調子も出ないんだよね」
「……なんですか、それ。私まるでマツバさんのビタミン剤みたいですね」
僕の言葉に彼女はふふっと、静かに笑った。
あぁ、その笑みが今日も愛しくて仕方がないよ。
コガネ百貨店で働く彼女は常に忙しい日々を送っている。
まぁ、僕だって暇な訳じゃないけど。でもこうやって彼女の退勤を待って家まで送り届けるのは僕の大切な日課の一つでもある。だって、こうでもしないと彼女には会えないからさ。
「……マツバさん、空を見てくださいよ。とても綺麗な夜空です」
「……本当だ。天の川もよく見えるね」
二人して見上げた空には燦々と瞬く星々達が集合して七夕の夜を美しく彩り、そして輝いていた。
二人だけの闇を照らすには、眩しいくらいだった。
「……きっと織姫と彦星も今ごろ再会してるんでしょうね」
「そうだね、今日が雨は降らずに良かったよ」
「マツバさん。今日、私……短冊を書いたんです」
「……それの内容は僕が聞いても良いのかな?」
「はい。私のお願い事は……マツバさんとミナキさんと私、三人がこれからも仲良く過ごせたら凄く嬉しいなって……事です」
そう言いながら目を細めて僕を見つめる彼女に、何度この胸の内に駆け巡る恋情を溶かされて来た事か。
ほら、今日もまたそうやって嫋やかな笑みで僕の心を魅了していくんだ。
「その願いなら、僕もミナキ君も叶えてあげられると思うよ」
「……ありがとうございます。これからも宜しくお願い致します」
「うん、よろしくね」
三人で仲良く過ごす……か。実に彼女らしい願いだと思った。
そんな純粋で無垢な君が僕は大好きだ。その好きという感情は君が僕やミナキ君に抱いているものとは違う感情だけどね。
僕の願いは、簡潔に言うと恋愛成就である。
その相手は今、僕の隣を歩く君なんだよ。
織姫でも彦星でも無い、君にしか叶える事の出来ない願い事を僕はずっと昔からこの心に抱えているんだ。
星の寿命は数百年あると言われている。一生の終わりを迎え今にも死にゆく際に星は最期に大爆発を起こし、一瞬だけ銀河全体よりも明るく輝いた後消滅する。
僕らの住む星と宇宙とは遥か彼方の距離があるから、今この目で見ている星は実はもう既に消滅しているのかもしれない。
星にすらも死という終わりがあるけど、僕のこの想いだけは例え死してもなお、消えずこの世に留まり続けるものだと信じている。
幾数億年の時を経ても、変わらぬ愛を捧げるとここに、そして君に誓おう。
だから、君のその白い指先に僕の想いが触れて、それをしっかりと受け取ってくれる未来の訪れを僕は待ち望み続けている。
夜を越えて、闇を駆け抜けて月と僕達だけの空が広がっている。
星達は楽しげに笑い月夜は煌めく、そんな空には僕の中に孕まれた想いという名の闇も混じっていて。
そんな僕が手を伸ばしたらどうか、君に繋いで欲しいよ。
そうすれば僕は闇から夜に、そして君はそんな僕を照らす月にへとなり、二人で美しい月夜を紡ぎ出せると思うんだ。
それは、天の川にも負けないくらいにね、きっと凄く素敵な闇夜を作り出せるよ。
僕のこの想いが昇華されていつか、美しい星の欠片となって君に届くと良いな。いつかとは言ったけど、なるべく早く……僕が我慢できるうちに、どうかその想いが叶いますように。
短冊には書かぬ、秘めたる願いを今宵も僕は君に託すのであった。
1/1ページ
