バニーの日の二人
どうやら今日は世間的にはバニーの日というらしい。
今日も元気にコガネ百貨店に出勤してきた際に、毎朝行われる朝礼にて私はその事を知ったのだった。
「……という訳で今日は従業員、男女問わず全員にこれを付けて貰います」と朝礼にて宣告され上司陣から渡されたのはミミロルの耳の部分がデザインされたカチューシャだった。
周囲はこの仕打ちにざわめくも「もう決定事項なので」との社長の一言で崩れ落ちる者もいたくらい、突然の出来事であったのだ。
とりあえず仕事なのでいやいやながらも、ミミロルカチューシャを付けてみる事に。
……うーん、私には似合わないな!と率直な感想を抱くも仕事なので仕方あるまいと受け入れた私の名は、立派な社畜であった。そもそも似合う似合わない以前に、ちょっとお辞儀する時に邪魔ですらある。しかし私はこの仕事とコガネ百貨店を愛しているので、そんな事に心を折られる程弱くないのである。
それにどうせ、今日一日の我慢なのだ。
と、違和感を割り切って業務に励む事にするが、そんな時に限ってある意味招かれざる客が来店されるというものだった。
「……いらっしゃいませ」
「え、何その頭のやつ」
「どうやら今日は世間一般で言うバニーの日らしいので、業務命令で付けているだけです」
「今日も千里眼で仕事中の君を見守ろうと思っていたら、あまりにも可愛らしい姿が視えたものだから、僕は慌ててやって来たんだよ……!」
言葉の通り、息を切らしていたので彼は本当に急いで駆け付けたのだろう。いや、急ぐ意味がまるで分からないが、今はその事については触れないでおく事にしておく。
私の目の前にいる現在ここに来店された人物……、エンジュシティのジムリーダーであり千里眼を持つ修験者と名の知れるその…人……マツバさんは私の幼馴染兼恋人でもある人だった。
そんな彼は嬉々として目を輝かせながら言葉を続けた。
「その頭の……ミミロルだよね?」
「ミミロルカチューシャです」
「ミミロルかぁ。……ジョウトでは見かけないけど、ミミロルは可愛いよね。だけど今の君はそんなミミロルを上回るくらいに可愛いよ。ねぇ、なんでこんなに可愛い格好をするって前もって僕に教えてくれ無かったの?」
「今日の朝礼でいきなり告げられたんですよ」
「それはつまり……朝からこんな可愛い姿で働いてたって事だよね?可愛いよ、本当によく似合ってる……可愛すぎて僕はどうしたらいいかな?」
「とりあえず用がないならお帰りください」
「あ、記念に写真撮影しても良い?」
「店内での写真撮影はお控えください」
「じゃあ動画は?」
「動画も駄目です」
「……恋人である僕がこんなに頼んでいるのに駄目なの?」
「規則なので、いくらマツバさんでも特別扱いはしませんよ。皆さん平等に接するのが私のモットーですから」
マツバさんは私の言葉に明らかに残念そうな表情を浮かべながらも、その目はまだ諦めを滲ませていない。
「じゃあ、仕事が終わったら君の家に行くからそこでその頭のやつ付けててよ」
「カチューシャですか?嫌ですよ」
「だって今日はバニーの日なんだろ?それならプライベートで付けたって良いよね?」
「仕事だから付けているだけで、退勤したら直ぐに外しますよ」
「いや、折角だからバニーの日を堪能しようよ。僕今からミミロルガールの衣装用意しに行くからそれを着て欲しいな」
「そんな事に労力を使わないで下さい、マツバさん。あと私にミミロルガールはどう考えても似合わないので着ません」
「似合うよ!僕が自信を持って断言出来る!既に千里眼で君のミミロルガールの姿が僕には視えているんだ!」
「千里眼の乱用は止めましょうよ、マツバさん。あと存在しない未来を視るのも止めて下さい」
「僕は信じているのだよ!」
「私本人も信じていますよ。ミミロルガールを着ない未来を」
マツバさんはとにかく私の事を「可愛い」と褒めてくれる。それは恋人同士になる前からもそうであった。勿論大好きな人にそう言われて嬉しくないなんて事は無いのだが……、マツバさんの愛は私の想像以上に深くて重いものなのである。
現に今も私には似合わないミミロルカチューシャを、可愛いと褒めちぎり、挙句の果てにミミロルガールの格好までさせたいと言うのだ、マツバさんは恐らく真剣にそれを望んでいる。
「可愛すぎて他の男に見せたくないよ。ねぇ、僕以外の男を接客しないで?」
「マツバさん、ここはコガネ百貨店ですよ?老若男女が数多に来店されるこの地でその頼みを叶えるのははっきり言って不可能です」
「だって、君のそんな可愛い姿を誰にも見せたくないだもん。ただでさえ君は常に可愛らしくそして綺麗であるのに……。もし今日の君のその愛らしい姿を見て、心惹かれる男が沢山現れたらと思うと……僕は気が気じゃないよ」
「そんな心配するのはマツバさんくらいなので、ご安心下さい。あと用が無いなら速やかにご退店願います」
「……君がミミロルガールを着てくれるって約束してくれるなら、僕は帰ってあげても良いよ?」
「悪質クレーマーみたいな事を言い出すのはお止め下さい。マツバさんらしくないですよ?」
「僕は僕だよ?あ、でもミミロルガールの衣装ってどのフロアにある?案内してよ。それも君の仕事だろ?」
「……そんなにミミロルが気になるならマツバさんが着たら良いじゃないですか?ミミロルボーイの衣装もありますよ?」
「……それは僕が着たら君もミミロルガールを着るって事だよね?分かった。なら僕も着るよ」
「そんな事、私は一言も言ってないんですが……」
私にこんな風に告げたマツバさんの目からは熱を帯びた本気度が伝わってくる。
こうなった彼は是が非でも我を通す人だと付き合いのさなかで知っていたので私は思わず溜息を零してしまうのであった。
そうなったら、折れるのはいつも私の方であり……。
「……分かりました。…。ただ、ミミロルガールじゃなくて、ミミロルボーイなら着ても良いですよ」
「……言ったね?本当はガールの方を着て欲しいけどペアルックも悪くないね。じゃあ君のサイズも買うから」
「……売り場にご案内しますよ、こちらです」
とりあえず露出度が低いであろうミミロルボーイでも、マツバさんは妥協してくれたようでそれは助かった。しかし、カチューシャだけでもここまで似合ってないのに、まさか全身までミミロルに染まる事になるとは思ってもみなかったが、それでもマツバさんがあまりにも嬉しそうな表情を浮かべているので、結果的には良かったのかもなぁ、なんて思う自分がいるのであった。
「……ミミロップガールもあるんだね。こっちの方が君には似合うんじゃないの?」
「私はミミロルでもミミロップでもボーイしか着ませんよ」
「でも常に僕の事をメロメロボディで魅了してるのは君だよ?」
「なら、大人しくメロメロ状態のままで何も手出し出来ないでいてください」
ここからしばらく、私にミミロップガールの衣装を着せたいマツバさんVSそれは絶対に着たくない私のバトルが売り場前にて始まる事になるのだった。
「見てみて!ジョウトで噂のラブラブカップル!」なんてお客様にも同僚達にもヒソヒソされているのが、聞こえて来たが、私はそれでも絶対にミミロップガールだけは着たくないので何とかマツバさんとの攻防を制す事に尽力するのであった。
今日も元気にコガネ百貨店に出勤してきた際に、毎朝行われる朝礼にて私はその事を知ったのだった。
「……という訳で今日は従業員、男女問わず全員にこれを付けて貰います」と朝礼にて宣告され上司陣から渡されたのはミミロルの耳の部分がデザインされたカチューシャだった。
周囲はこの仕打ちにざわめくも「もう決定事項なので」との社長の一言で崩れ落ちる者もいたくらい、突然の出来事であったのだ。
とりあえず仕事なのでいやいやながらも、ミミロルカチューシャを付けてみる事に。
……うーん、私には似合わないな!と率直な感想を抱くも仕事なので仕方あるまいと受け入れた私の名は、立派な社畜であった。そもそも似合う似合わない以前に、ちょっとお辞儀する時に邪魔ですらある。しかし私はこの仕事とコガネ百貨店を愛しているので、そんな事に心を折られる程弱くないのである。
それにどうせ、今日一日の我慢なのだ。
と、違和感を割り切って業務に励む事にするが、そんな時に限ってある意味招かれざる客が来店されるというものだった。
「……いらっしゃいませ」
「え、何その頭のやつ」
「どうやら今日は世間一般で言うバニーの日らしいので、業務命令で付けているだけです」
「今日も千里眼で仕事中の君を見守ろうと思っていたら、あまりにも可愛らしい姿が視えたものだから、僕は慌ててやって来たんだよ……!」
言葉の通り、息を切らしていたので彼は本当に急いで駆け付けたのだろう。いや、急ぐ意味がまるで分からないが、今はその事については触れないでおく事にしておく。
私の目の前にいる現在ここに来店された人物……、エンジュシティのジムリーダーであり千里眼を持つ修験者と名の知れるその…人……マツバさんは私の幼馴染兼恋人でもある人だった。
そんな彼は嬉々として目を輝かせながら言葉を続けた。
「その頭の……ミミロルだよね?」
「ミミロルカチューシャです」
「ミミロルかぁ。……ジョウトでは見かけないけど、ミミロルは可愛いよね。だけど今の君はそんなミミロルを上回るくらいに可愛いよ。ねぇ、なんでこんなに可愛い格好をするって前もって僕に教えてくれ無かったの?」
「今日の朝礼でいきなり告げられたんですよ」
「それはつまり……朝からこんな可愛い姿で働いてたって事だよね?可愛いよ、本当によく似合ってる……可愛すぎて僕はどうしたらいいかな?」
「とりあえず用がないならお帰りください」
「あ、記念に写真撮影しても良い?」
「店内での写真撮影はお控えください」
「じゃあ動画は?」
「動画も駄目です」
「……恋人である僕がこんなに頼んでいるのに駄目なの?」
「規則なので、いくらマツバさんでも特別扱いはしませんよ。皆さん平等に接するのが私のモットーですから」
マツバさんは私の言葉に明らかに残念そうな表情を浮かべながらも、その目はまだ諦めを滲ませていない。
「じゃあ、仕事が終わったら君の家に行くからそこでその頭のやつ付けててよ」
「カチューシャですか?嫌ですよ」
「だって今日はバニーの日なんだろ?それならプライベートで付けたって良いよね?」
「仕事だから付けているだけで、退勤したら直ぐに外しますよ」
「いや、折角だからバニーの日を堪能しようよ。僕今からミミロルガールの衣装用意しに行くからそれを着て欲しいな」
「そんな事に労力を使わないで下さい、マツバさん。あと私にミミロルガールはどう考えても似合わないので着ません」
「似合うよ!僕が自信を持って断言出来る!既に千里眼で君のミミロルガールの姿が僕には視えているんだ!」
「千里眼の乱用は止めましょうよ、マツバさん。あと存在しない未来を視るのも止めて下さい」
「僕は信じているのだよ!」
「私本人も信じていますよ。ミミロルガールを着ない未来を」
マツバさんはとにかく私の事を「可愛い」と褒めてくれる。それは恋人同士になる前からもそうであった。勿論大好きな人にそう言われて嬉しくないなんて事は無いのだが……、マツバさんの愛は私の想像以上に深くて重いものなのである。
現に今も私には似合わないミミロルカチューシャを、可愛いと褒めちぎり、挙句の果てにミミロルガールの格好までさせたいと言うのだ、マツバさんは恐らく真剣にそれを望んでいる。
「可愛すぎて他の男に見せたくないよ。ねぇ、僕以外の男を接客しないで?」
「マツバさん、ここはコガネ百貨店ですよ?老若男女が数多に来店されるこの地でその頼みを叶えるのははっきり言って不可能です」
「だって、君のそんな可愛い姿を誰にも見せたくないだもん。ただでさえ君は常に可愛らしくそして綺麗であるのに……。もし今日の君のその愛らしい姿を見て、心惹かれる男が沢山現れたらと思うと……僕は気が気じゃないよ」
「そんな心配するのはマツバさんくらいなので、ご安心下さい。あと用が無いなら速やかにご退店願います」
「……君がミミロルガールを着てくれるって約束してくれるなら、僕は帰ってあげても良いよ?」
「悪質クレーマーみたいな事を言い出すのはお止め下さい。マツバさんらしくないですよ?」
「僕は僕だよ?あ、でもミミロルガールの衣装ってどのフロアにある?案内してよ。それも君の仕事だろ?」
「……そんなにミミロルが気になるならマツバさんが着たら良いじゃないですか?ミミロルボーイの衣装もありますよ?」
「……それは僕が着たら君もミミロルガールを着るって事だよね?分かった。なら僕も着るよ」
「そんな事、私は一言も言ってないんですが……」
私にこんな風に告げたマツバさんの目からは熱を帯びた本気度が伝わってくる。
こうなった彼は是が非でも我を通す人だと付き合いのさなかで知っていたので私は思わず溜息を零してしまうのであった。
そうなったら、折れるのはいつも私の方であり……。
「……分かりました。…。ただ、ミミロルガールじゃなくて、ミミロルボーイなら着ても良いですよ」
「……言ったね?本当はガールの方を着て欲しいけどペアルックも悪くないね。じゃあ君のサイズも買うから」
「……売り場にご案内しますよ、こちらです」
とりあえず露出度が低いであろうミミロルボーイでも、マツバさんは妥協してくれたようでそれは助かった。しかし、カチューシャだけでもここまで似合ってないのに、まさか全身までミミロルに染まる事になるとは思ってもみなかったが、それでもマツバさんがあまりにも嬉しそうな表情を浮かべているので、結果的には良かったのかもなぁ、なんて思う自分がいるのであった。
「……ミミロップガールもあるんだね。こっちの方が君には似合うんじゃないの?」
「私はミミロルでもミミロップでもボーイしか着ませんよ」
「でも常に僕の事をメロメロボディで魅了してるのは君だよ?」
「なら、大人しくメロメロ状態のままで何も手出し出来ないでいてください」
ここからしばらく、私にミミロップガールの衣装を着せたいマツバさんVSそれは絶対に着たくない私のバトルが売り場前にて始まる事になるのだった。
「見てみて!ジョウトで噂のラブラブカップル!」なんてお客様にも同僚達にもヒソヒソされているのが、聞こえて来たが、私はそれでも絶対にミミロップガールだけは着たくないので何とかマツバさんとの攻防を制す事に尽力するのであった。
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