開いた恋の瞳


この地に生を受けて、伝承に強い憧れを抱いているのは間違いない。その強い感情は己の心の中にずっと在り続けているけど、どうやらそれだけでは済まないようだ。
伝説のポケモンに対する感情は「憧れ」だと断言出来る。
しかし、そこに執着心というものは薄いように思えた。
だけど憧れにも良く似ているけど、決して同じでは無い感情が僕の中にはずっと渦巻いているのだった。

あの子と出会ったのは結構昔の出来事になる。
ミナキ君から紹介された彼女を初めて見た時、僕の心の中に……いや全身に言葉には出来ない衝撃が駆け巡った。
このエンジュシティという地に生まれてから僕はずっと修行を続けて来た。そんな僕は所謂同年代の子との関わりが薄かったように思える。
何処か閉鎖された空間の中で、歳上に囲まれた環境で育っていた僕は、とにかく修行に励む日々を繰り返していた。そんな中、突如現れたミナキ君と僕が友人関係になるなんて誰も思ってはみなかっただろうな、なんて今でも時たま思ってしまう。

ミナキ君は僕と同じように伝説のポケモンに強く憧れているけど、邂逅を待ちわびる僕とは違い彼は自らの足で追い求めている。気ままに吹く風のような人なのだ、ミナキ君という男は。そんな彼と打ち解けていくうちに「私の友人をマツバに紹介したい」と言われたので、ミナキ君の友達ならきっと自分とも気が合うんじゃないかなと思い、その時はあまり深く考えずに彼の提案を了承する事に。

そして、僕は出会った。
己の運命を揺るがとも過言とは言えない存在に。

てっきりミナキ君が連れてくるのは同性とばかり思っていたけど、その予想は大きく外れる事になる。なんと歳は一緒だけどミナキ君の友達は女の子だったのだ。

同年代の子と関わりが薄い上に、更に異性と対面するとは……。その時の僕は驚きと緊張のあまり固まっていたと思う。だけど、そんな僕に対してミナキ君の友達は少し緊張しながらも「初めまして」と挨拶を始めた。彼女の声は少し小さくて、でもまるで優しい陽だまりの中を微睡んでいるような静かなものだった事は今でも覚えている。
その麗しい声に対して僕もぎこちなく「初めまして」と返すと、彼女は少しだけ緊張が解けたかのように微笑みを浮かべてくれた。ドキドキと脈打つ心臓を押さえ付けながら、そんな彼女の事を脳に記憶しようと改めて彼女を視界に映すと吸い込まれるような瞳と目が合う。

その瞬間、煩く跳ね上がる鼓動は確かに強さを増していく。
陶器のような肌に、ほんのりと紅く染まる頬は乱暴に触れたら壊れてしまいそうで……でも僕はそんな白い肌にこの手で触れてみたいと無意識に感じてしまったのだった。同い歳な筈なのに自分やミナキ君よりも少しだけ大人びた雰囲気と相まって神秘的な夜の静けさのような儚さを持ちうる彼女に、僕は一目で心を奪われてしまった。
今までろくに異性に接してなかったから、ただ慣れてないだけだとそんな考えも初めのうちは脳裏をよぎるも、それは直ぐに違うものだと自分の心が改めてそれを教えていくのだった。

彼女と初めて会った時に抱いた感情は、確かに憧れにも似ていた。だけど、憧れという言葉では片付けられない気持ちを僕はこの日から胸の中で生み出し続ける事になっていく。

それが、「恋」という感情なんだと気付いたのはわりと早かったと思う。何気なく出会ったたった一人の存在が、僕の心の中に深く棲みつき、そして己を着実に今までの日常を狂わせていくのだった。

修行に励む身でありながら、一人の人間に溺れるなんて事は本来なら許されない事態なのかもしれない。だけどそんな抑制すべき感情すらも凌駕する程の強い想いが僕の心の中を侵食していく。憧れにも似ている筈なのに伝説のポケモンに会いたいという気持ちと、彼女に会いたいというものは似て非なるものだった。
……そりゃそうだ、その憧れによく似た感情は僕の閉じていた恋心という瞳を開眼させたのだから。

初めて出会った時から、「君の事が好きだった」と言える日が来る事を僕は今日も内なる望みとして強く願うのだった。






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