ドリルくちばし!と秘密の修行
私の幼馴染の一人は生まれた時から秘密の修行に励んでいる人だった。それは大人になった今も変わる事は無い。
その為かその人は何処かミステリアスで浮世離れした雰囲気を纏っているが、昔から付き合いのある私にとってそれはとても馴染み深いものだった。
「……マツバさんって、凄い人ですよね」
「……どうしたの?そんな事急に言い出して」
ここは古民家風の静かなカフェの店内。
淹れたてのカフェラテを目の前にしながら私はふと対面に座る男性に言葉を振った。私が話し掛けたその人こそが先の話に上げていた人物……エンジュシティのジムリーダーでもあり、千里眼を持つ修験者のマツバさんであった。
マツバさんは私の言葉に、微笑みながらも少しだけ不思議そうな表情を浮かべる。そんな彼の微笑みに釣られるように己の口角を少しあげながら私は言葉を続けた。
「だって、生まれた時から今まで厳しい修行に励まれているなんて……。それに千里眼までお持ちになっているなんて、本当に凄いなぁって」
「……僕には目標があったからね。それは憧れとも言えるかも知れないな。……それにこんな僕を応援してくれる人がいるからこそ、続けられているんだと思うよ」
「それってミナキさんの事ですかね?」
「勿論ミナキ君もそうだし……僕は君の存在にだって救われているんだよ」
マツバさんは終始、穏やかな顔でそう話す。
マツバさんを支えてくれる人は色んな方々がいらっしゃると思っているけど、その中に私も含まれているなんて嬉しいなと素直に思えるのだった。
「……私なんかまだまだ、何にもお力添えになれてませんよ」
「そんな事無いよ。出会った頃から君が僕の事を応援してくれている気持ちが伝わっていたし、それが僕は凄く嬉しかったんだよ。……いつもありがとう」
「……えへへ、なんだか改まってそう言われるとさすがに照れてしまいますね」
私がそう言いながら微笑むと、マツバさんもその紫水晶のような美しい瞳を細める。とても和やかな雰囲気のまま、私は何となく前々から気になっていたとある事を彼に尋ねて見る事にしてみた。
「……その、この話の流れでお聞きするのですが、マツバさんの修行の内容とやらは……本当に誰も存じ上げないのですか?」
「……流石にそんな事はないけど、まぁ、あんまり知る人は居ないかな?」
「私のイメージだと修行って聞くと、真っ先に滝に打たれる光景が浮かんでしまうんですよね」
「打たれてるよ、滝」
「そうなんですね……!マツバさん、風邪ひかないように気を付けて下さい」
「修行してて体調くずしたら元も子も無いからね。……それに、もし僕が風邪を引いたら君が看病に来てくれるんでしょ?」
「もちろん行きますよ。あと、滝に打たれてる時は流石にそのバンダナも外されるんですよね……?」
「流石に外すよ。ねぇ、たまに思うんだけど……君、バンダナがマツバの本体だと思っている節無い?あるよね?」
「そんな事はないんですが、トレードマークの一つなので……」
マツバさんはそう言って苦笑していた。
私の中でマツバさんと言えば常にバンダナとマフラーを身に付けているイメージだったので、外している姿があまり想像出来ない。むしろ修行中のマツバさんってどんな感じなんだろう……そんな事を考えていたら、今度はマツバさんの方から私に問い掛けを投げた。
「……そんなに気になる?僕の秘密」
マツバさんの問いを受けて、正直……気になる気持ちはあった。
だけど神聖な修行という概念に興味本位で立ち入るのは失礼なのでは?と思う気持ちもあった。
私はその思いを素直に言葉に乗せていく。
「確かに少し……気にはなります。だけど部外者が不用意に立ち入ってはいけないとも思うので……あまりしつこくお聞きする事はありませんよ」
「君のそんな奥ゆかしい考え方……僕は好きだよ。確かにエンジュ生まれじゃない君はその地とは部外者とも言えるかも知れない。だけど、エンジュと近しい存在になる方法があるよ」
「え?」
マツバさんの言葉に頭の中で疑問符を浮かべていると、彼は満面の笑みを浮かべながら言葉を続けていく。
「エンジュと近しい存在になる方法……。それは僕のお嫁さんになれば良いんだよ」
「……はい?」
突然のマツバさんの爆弾発言に、手に持っていたコーヒーカップを落としそうになってしまった。固まる私を他所にマツバさんは意気揚々と話を続けていく。
「エンジュ生まれで、その地のジムリーダーでもある僕のお嫁さんになれば、君もエンジュの人間になる訳だよ」
「いやあの、そもそも私達ただの幼馴染……ですよね?」
「幼馴染と結婚出来ないって法律は無いよ?だからお嫁さんにおいで?」
「いや、法律は確かにそうなんですけど。そもそも前提がおかしいんですよ。私とマツバさんって結婚するような関係じゃないですよね?」
「なら、結婚を前提にしたお付き合いを始めようよ」
「マツバさん。話がそらをとぶを使ってる時のように飛躍し続けてますよ。そろそろ地に降りてきて下さい」
「あ、そらをとぶを使って役所に今から行く?婚姻届貰わなきゃね」
「ちょっと……マツバさん。今直ぐにボールからゲンガーを出してご自身にさいみんじゅつを掛けて下さい。ゲンガー、マツバさんを止めて……頼みます」
……以前から思っていた事だが、マツバさんってもしや天然なのでは?その疑念も今日の一件で確信にへと変わっていく。
天然故の暴走、いや爆走を続けるマツバさんを何とか押し止めながら私の中の彼のイメージである「ミステリアス」「浮世離れ」という二つに加えて「天然なので変な詐欺に引っ掛からないか心配」という新たな認識を植え付けられるのであった。
後日、マツバさんは記入済みの婚姻届を本当に持ってきて私にも書くように促したけど、私の手持ちのドンカラスがドリルくちばしで婚姻届を木っ端微塵にしたので一旦この話は終息するのだった。
◇
「僕は本気なんだけどなぁ」
せっかく書いた婚姻届は彼女の手持ちのドンカラスにボロボロにされてしまった。出会った頃から今に至るまでそうなのだが、彼女の手持ちのポケモン達は中々僕には懐いてはくれない。それは皆が彼女の事を溺愛している証でもあった。
そんな訳で彼女に淡い恋心を寄せ続けている僕が気に入らないのだろう。逆に僕の手持ちは、皆彼女に懐いているのにね。
「ねぇゲンガー。あの子が僕のお嫁さんになったら皆喜ぶよね?」
傍にいたゲンガーにそう話すと、彼はニコニコと嬉しそうに頷いた。僕の手持ちのポケモン達だけじゃない、僕と彼女が幼馴染であり、実に仲睦まじい事をエンジュシティの人々は知っている。そんな二人が夫婦になったらきっと誰も異を唱える事は無いだろう。それに僕は彼女の親御さん含めた親族の皆さんとも面識があるし、きっとご両親達も僕達が結ばれたら喜んでくれると思うけどなぁ。
僕達が結婚したら、皆が祝福してくれるに違いない。
その中には親友であるミナキ君だって含まれている。
彼の事だからもしかしたら誰よりもお祝いしてくれそうだなとも思っている。
結婚式だって、彼女の望むように叶えてあげたいし、自分で言うのもなんだけど……僕って結構優良物件じゃないかな?とも思うんだよね。
この考えは自惚れなのかも知れないけど、僕は誰よりも愛してる彼女に尽くしたい。彼女は仕事が好きだから、家庭に入れなんて言わないし、家事だって折半が当然だし彼女が望むなら僕が引き受けても苦じゃないよ。
彼女になら絶対に亭主関白にはならないと誓える。
ずっと支えたいし尽くしてあげたい、誰よりも愛してあげたいんだ。
あ、でも……夜の夜婦生活の主導権は握りたいなって思うのは男としては当然だよね?
なんて事をひたすら頭の中で考えながら……とりあえずは結婚の前に婚約まで話を持っていかせないとな、どうやったら彼女の記入済みの婚姻届が手に入るかな~?なんて思うのであった。
「……もしも、どうしても上手くいかない時には……皆も協力してくれるよね?」
僕の言葉に呼応するように、ゲンガーはニカッと笑った。
その為かその人は何処かミステリアスで浮世離れした雰囲気を纏っているが、昔から付き合いのある私にとってそれはとても馴染み深いものだった。
「……マツバさんって、凄い人ですよね」
「……どうしたの?そんな事急に言い出して」
ここは古民家風の静かなカフェの店内。
淹れたてのカフェラテを目の前にしながら私はふと対面に座る男性に言葉を振った。私が話し掛けたその人こそが先の話に上げていた人物……エンジュシティのジムリーダーでもあり、千里眼を持つ修験者のマツバさんであった。
マツバさんは私の言葉に、微笑みながらも少しだけ不思議そうな表情を浮かべる。そんな彼の微笑みに釣られるように己の口角を少しあげながら私は言葉を続けた。
「だって、生まれた時から今まで厳しい修行に励まれているなんて……。それに千里眼までお持ちになっているなんて、本当に凄いなぁって」
「……僕には目標があったからね。それは憧れとも言えるかも知れないな。……それにこんな僕を応援してくれる人がいるからこそ、続けられているんだと思うよ」
「それってミナキさんの事ですかね?」
「勿論ミナキ君もそうだし……僕は君の存在にだって救われているんだよ」
マツバさんは終始、穏やかな顔でそう話す。
マツバさんを支えてくれる人は色んな方々がいらっしゃると思っているけど、その中に私も含まれているなんて嬉しいなと素直に思えるのだった。
「……私なんかまだまだ、何にもお力添えになれてませんよ」
「そんな事無いよ。出会った頃から君が僕の事を応援してくれている気持ちが伝わっていたし、それが僕は凄く嬉しかったんだよ。……いつもありがとう」
「……えへへ、なんだか改まってそう言われるとさすがに照れてしまいますね」
私がそう言いながら微笑むと、マツバさんもその紫水晶のような美しい瞳を細める。とても和やかな雰囲気のまま、私は何となく前々から気になっていたとある事を彼に尋ねて見る事にしてみた。
「……その、この話の流れでお聞きするのですが、マツバさんの修行の内容とやらは……本当に誰も存じ上げないのですか?」
「……流石にそんな事はないけど、まぁ、あんまり知る人は居ないかな?」
「私のイメージだと修行って聞くと、真っ先に滝に打たれる光景が浮かんでしまうんですよね」
「打たれてるよ、滝」
「そうなんですね……!マツバさん、風邪ひかないように気を付けて下さい」
「修行してて体調くずしたら元も子も無いからね。……それに、もし僕が風邪を引いたら君が看病に来てくれるんでしょ?」
「もちろん行きますよ。あと、滝に打たれてる時は流石にそのバンダナも外されるんですよね……?」
「流石に外すよ。ねぇ、たまに思うんだけど……君、バンダナがマツバの本体だと思っている節無い?あるよね?」
「そんな事はないんですが、トレードマークの一つなので……」
マツバさんはそう言って苦笑していた。
私の中でマツバさんと言えば常にバンダナとマフラーを身に付けているイメージだったので、外している姿があまり想像出来ない。むしろ修行中のマツバさんってどんな感じなんだろう……そんな事を考えていたら、今度はマツバさんの方から私に問い掛けを投げた。
「……そんなに気になる?僕の秘密」
マツバさんの問いを受けて、正直……気になる気持ちはあった。
だけど神聖な修行という概念に興味本位で立ち入るのは失礼なのでは?と思う気持ちもあった。
私はその思いを素直に言葉に乗せていく。
「確かに少し……気にはなります。だけど部外者が不用意に立ち入ってはいけないとも思うので……あまりしつこくお聞きする事はありませんよ」
「君のそんな奥ゆかしい考え方……僕は好きだよ。確かにエンジュ生まれじゃない君はその地とは部外者とも言えるかも知れない。だけど、エンジュと近しい存在になる方法があるよ」
「え?」
マツバさんの言葉に頭の中で疑問符を浮かべていると、彼は満面の笑みを浮かべながら言葉を続けていく。
「エンジュと近しい存在になる方法……。それは僕のお嫁さんになれば良いんだよ」
「……はい?」
突然のマツバさんの爆弾発言に、手に持っていたコーヒーカップを落としそうになってしまった。固まる私を他所にマツバさんは意気揚々と話を続けていく。
「エンジュ生まれで、その地のジムリーダーでもある僕のお嫁さんになれば、君もエンジュの人間になる訳だよ」
「いやあの、そもそも私達ただの幼馴染……ですよね?」
「幼馴染と結婚出来ないって法律は無いよ?だからお嫁さんにおいで?」
「いや、法律は確かにそうなんですけど。そもそも前提がおかしいんですよ。私とマツバさんって結婚するような関係じゃないですよね?」
「なら、結婚を前提にしたお付き合いを始めようよ」
「マツバさん。話がそらをとぶを使ってる時のように飛躍し続けてますよ。そろそろ地に降りてきて下さい」
「あ、そらをとぶを使って役所に今から行く?婚姻届貰わなきゃね」
「ちょっと……マツバさん。今直ぐにボールからゲンガーを出してご自身にさいみんじゅつを掛けて下さい。ゲンガー、マツバさんを止めて……頼みます」
……以前から思っていた事だが、マツバさんってもしや天然なのでは?その疑念も今日の一件で確信にへと変わっていく。
天然故の暴走、いや爆走を続けるマツバさんを何とか押し止めながら私の中の彼のイメージである「ミステリアス」「浮世離れ」という二つに加えて「天然なので変な詐欺に引っ掛からないか心配」という新たな認識を植え付けられるのであった。
後日、マツバさんは記入済みの婚姻届を本当に持ってきて私にも書くように促したけど、私の手持ちのドンカラスがドリルくちばしで婚姻届を木っ端微塵にしたので一旦この話は終息するのだった。
◇
「僕は本気なんだけどなぁ」
せっかく書いた婚姻届は彼女の手持ちのドンカラスにボロボロにされてしまった。出会った頃から今に至るまでそうなのだが、彼女の手持ちのポケモン達は中々僕には懐いてはくれない。それは皆が彼女の事を溺愛している証でもあった。
そんな訳で彼女に淡い恋心を寄せ続けている僕が気に入らないのだろう。逆に僕の手持ちは、皆彼女に懐いているのにね。
「ねぇゲンガー。あの子が僕のお嫁さんになったら皆喜ぶよね?」
傍にいたゲンガーにそう話すと、彼はニコニコと嬉しそうに頷いた。僕の手持ちのポケモン達だけじゃない、僕と彼女が幼馴染であり、実に仲睦まじい事をエンジュシティの人々は知っている。そんな二人が夫婦になったらきっと誰も異を唱える事は無いだろう。それに僕は彼女の親御さん含めた親族の皆さんとも面識があるし、きっとご両親達も僕達が結ばれたら喜んでくれると思うけどなぁ。
僕達が結婚したら、皆が祝福してくれるに違いない。
その中には親友であるミナキ君だって含まれている。
彼の事だからもしかしたら誰よりもお祝いしてくれそうだなとも思っている。
結婚式だって、彼女の望むように叶えてあげたいし、自分で言うのもなんだけど……僕って結構優良物件じゃないかな?とも思うんだよね。
この考えは自惚れなのかも知れないけど、僕は誰よりも愛してる彼女に尽くしたい。彼女は仕事が好きだから、家庭に入れなんて言わないし、家事だって折半が当然だし彼女が望むなら僕が引き受けても苦じゃないよ。
彼女になら絶対に亭主関白にはならないと誓える。
ずっと支えたいし尽くしてあげたい、誰よりも愛してあげたいんだ。
あ、でも……夜の夜婦生活の主導権は握りたいなって思うのは男としては当然だよね?
なんて事をひたすら頭の中で考えながら……とりあえずは結婚の前に婚約まで話を持っていかせないとな、どうやったら彼女の記入済みの婚姻届が手に入るかな~?なんて思うのであった。
「……もしも、どうしても上手くいかない時には……皆も協力してくれるよね?」
僕の言葉に呼応するように、ゲンガーはニカッと笑った。
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