いつもみているよ
マツバさんはよく些細な変化に気付く人だ。
「なんか今日、瞼の上のキラキラしているのが違う気がするね。変えたの?」
「これはアイシャドウって言うんですよ、マツバさん。そうですね、新しいものを使ってみました」
「いつもの色も良いけど……その色も似合うね。とても綺麗だよ」
「ありがとうございます」
おろしたてのアイシャドウを使ってみたら、早速マツバさんが褒めてくれた。男の人ってこういう変化に鈍感なんじゃないかと思ってたけど、彼はどうやら違うみたいだ。どんな小さな変化にでも気付いてくれるのは、千里眼のなせる技なのだろうか?などと思う程だ。
そして、マツバさんはとにかく私を褒めてくれる。それも媚びを売っているとかは全く感じなくて、本当に心の底から純粋に褒めてくれるんだと私には伝わる。
あんまりにも褒められるのものだから、少し照れくさいけど素直にマツバさんの言葉を嬉しいと感じる自分がいるのも確かだった。
「マツバさんって本当に小さな事でも変化に気付いてくれますよね……」
「君の事は四六時中見つめているからね。どんな些細な変化でも見落としたくないんだ」
「他にも見るもの、沢山ありませんか?私ばかり見ていても何も面白くありませんよ」
「面白さを求めているというか、君を見ていないと落ち着かないんだよね」
そう言いながらマツバさんは目を細める。そんな彼に釣られて私も微笑んだ。でもこんなに私から目を離せないでいるだなんて、私ってそんなに危ういのかな?なんて内心思ったけど黙っておく事にした。まぁ、こんな考えすらもマツバさんにはお見通しかも知れないけど。
マツバさんとは長年の付き合いがあるので、彼がどんな人柄かは把握しているつもりだ。だけど、それだけ年数を重ねた付き合いがあっても彼の事は不思議な人だと思っている。
そんな事を考えていると、マツバさんが不意に口を開いた。
「……今度職場で飲み会があるって言ってたけど、この前買った洋服を来てくのかい?」
「え?」
「ほら、言ってたじゃないか。職場の人に誘われて~って。そ時に新しい洋服を着て行くのかなって思って」
「ええと……そのつもりですが……」
確かにこの間同僚に飲み会に誘われた。それも気乗りしないとマツバさんに愚痴を零した事がある。……マツバさんには飲み会とだけしか言ってないけど、実はこれは合コンなのである。
同僚に「どうしても~!」と頼み込まれて渋々了承したのだが、本当なら気乗りしないどころか行きたくない。だけど、普段から仲良くしている子の頼みだったので断りきれなかった。
そんな訳でマツバさんに「飲み会行きたくないな」と零したが、その飲み会が合コンであるとまでは言ってない。
何故言葉を濁しているのかと言うと、マツバさんは私が異性と接触する事を嫌がっているような節が見受けられるからだった。そういう面に関してはとにかく心配性なのである。
私ってそんなにチョロそうな女に見えるのかな?と自分で不安になるくらいに、私がマツバさんやミナキさん以外の男性と接する事にもはや嫌悪感すらも抱いているように思える。
そんなマツバさんに口が裂けても「合コンに行きます」とは言えない。それは余計な心配を掛けたくないからだ。
そんな私の考えなんてやはり、お見通しなのだろうか。マツバさんは先程の微笑みから一転、真顔になって私に話を続けた。
「そんなに気乗りしない飲み会に、敢えてお洒落していくのかい?」
「ええと……まぁ、たまには良いかなと思いまして。ほら、買ったばかりで早く着てみたいって気持ちがあってですね……」
「新しく買った服はとても君に似合っていたけど、それを着るのは僕と会う時だけにして欲しいな。……本当にただの飲み会かどうか分からないんだし」
マツバさんの言葉に、思わず心臓がドキッと跳ね上がる。
決して疚しい気持ちがある訳じゃないが、こうも追求されると何だか誤魔化しが嘘をついてるように後ろめたい行為なんじゃないかと脳が認識してしまいそうになる。でも、ここで「本当は合コンでした」なんて言ったらマツバさんは絶対に「そんな集まりには行かないで欲しい」と言うだろう。それは過去の経験から予測できる。
「本当にただの飲み会ですよ?心配しすぎですよ、マツバさんは……」
「大事な君の事だから心配にもなるんだよ。変な虫が寄ってきたらと思うと僕は気が気じゃないよ」
「私に寄ってくるのなんて野生のヤンヤンマぐらいですって。それ程に出現率が低いものなんでご安心下さい」
……何とかこの場は合コンだとはバレずに済んだけど、それでも新しい洋服を着るのだけは止めてくれと懇願されたので、私はとりあえずは彼の頼みを承諾するのだった。
「何かあったら直ぐに僕に連絡してね?駆けつけるから」
「きっと何にもないですよー、大丈夫ですって」
私の言葉に、マツバさんはそれ以上私を追求はしなかったものの、何かを考え込んだような表情を浮かべていたのが私の中で印象に強く残るのであった。
後日、合コン当日。一次会を何とか愛想笑いで乗り切って帰ろうとする私を参加者の男性が引き止めている最中に、会場も時間も教えてない筈のマツバさんが私を迎えに来た事で、私の誤魔化しは全て最初からバレていたという事実が判明し、マツバさんに「駄目だよ?」と軽く圧を掛けられながら少しだけお叱りを受けるのだった。
◇
「やれやれ……合コンだとは流石に言わなかったか」
彼女と別れた後、帰路に着くまでの間に僕はポツリと呟く。
なんて見え透いた嘘なんだと、問い詰めたくなる気持ちを我慢してその時は何も言わなかったけど、僕の愛する彼女が数多の男達がいる場に誘われるなんて、想像するだけで吐き気を覚えたものだ。
彼女だって合コンに乗り気じゃない事は愚痴を言うくらいだから、分かっている。なら断ってくれたら良いのにと思ったけど恐らくはしつこく参加を頼まれたのだろう。何処か人の良い彼女は押し切られて断りきれなかったんだろうな。
全く……本当に合コンとかいう文化滅んでくれないかな、と何度も心の中で思ったものだ。
彼女は自分の事を「寄ってくるのはヤンヤンマぐらい」なんて謙遜するけど、この世には彼女に良からぬ感情を抱く男だって沢山いると思う。僕はそれが、許せない。
彼女に長年淡い恋心を寄せている身としては、そんな輩の存在を簡単に享受出来る訳がないのだ。
確かに彼女は世界一可愛いくて、美しい存在でもある。
そんな可憐な女性を男達が放っておく事はまず無いだろう。
現に過去にも彼女に言い寄ろうとしてきた男達はいたけど、それを僕が内密に遠ざけてきた。
だって、彼女の隣は僕が居ればそれで十分なのだから。
彼女をこの世で一番幸福にする男は、ずっと前から決まっている。それこそ、この僕……マツバという男の役目なのだ。
それを妨害するのは誰であろうと許されないとすら思っている。
だから、僕は四六時中、彼女をこの目に焼き付けるように見つめ続けているんだよ。何時いかなる時の、彼女のどんな表情も変化もこの瞳に移しては記憶して起きたい。彼女の全てを僕は知りたいし、知っておくべきなのだ。
……他人から見たら、僕のこの感情はあまりにも重たすぎるものなのかも知れない。だけど、どれだけ否定されても僕はこれだけの強い感情は愛だと認識している。僕の愛はまだ一方的なものだ。だからまだ見つめる事しか出来ないけど、いつかは必ずや叶えてみせると心の中で強く誓う。
彼女は僕は些細な変化に気付く男だと思っているけど、それは相手が君だからなんだよ。君という存在の一欠片も僕は一瞬たりとも見逃したくないし、ずっとこの網膜に刻みつけておきたいんだ。
そんな想いがいつか、彼女に届く事を願いながら今日も僕は彼女をひたすらに見つめ続けるのだった。
◇
「……合コンになんて行って欲しくないよ。でも、君にも付き合いがあるのも分かるんだ」
「はい……そうなんですよ……」
「じゃあ、今度誘われたら僕も行けば良くないかな?って思うんだけど」
「はぁ……って、え!?マツバさんが合コンに参加ですと!?」
「やだなぁ、そんなに驚く事かい?」
「多分野生のラッキーが出現するしたくらいに、皆……驚きますよ……イメージにないですもん。合コンに参加してるマツバさんって」
「君ある所に、僕もありきなんだよ。一心同体ってやつだね。という訳で今後は誘われても誤魔化さないで、僕にちゃんと言う事……約束してね?」
「は、はい……分かりましたけど……マツバさん、合コンでほろびのうたとか披露させちゃ駄目ですよ?」
「それは君次第だよ」
「私の責任が重大過ぎませんか?」
そんなこんなで、彼女を守る為なら気乗りしない合コンだって参加する事にした。まぁ、勿論彼女の指定席は僕の目の前だって既に決まってるけどね。
合コンなんて興味無いけど、僕と彼女の仲の良さを周囲に見せ付けるには良い機会かも知れないな等と思うのであった。
「なんか今日、瞼の上のキラキラしているのが違う気がするね。変えたの?」
「これはアイシャドウって言うんですよ、マツバさん。そうですね、新しいものを使ってみました」
「いつもの色も良いけど……その色も似合うね。とても綺麗だよ」
「ありがとうございます」
おろしたてのアイシャドウを使ってみたら、早速マツバさんが褒めてくれた。男の人ってこういう変化に鈍感なんじゃないかと思ってたけど、彼はどうやら違うみたいだ。どんな小さな変化にでも気付いてくれるのは、千里眼のなせる技なのだろうか?などと思う程だ。
そして、マツバさんはとにかく私を褒めてくれる。それも媚びを売っているとかは全く感じなくて、本当に心の底から純粋に褒めてくれるんだと私には伝わる。
あんまりにも褒められるのものだから、少し照れくさいけど素直にマツバさんの言葉を嬉しいと感じる自分がいるのも確かだった。
「マツバさんって本当に小さな事でも変化に気付いてくれますよね……」
「君の事は四六時中見つめているからね。どんな些細な変化でも見落としたくないんだ」
「他にも見るもの、沢山ありませんか?私ばかり見ていても何も面白くありませんよ」
「面白さを求めているというか、君を見ていないと落ち着かないんだよね」
そう言いながらマツバさんは目を細める。そんな彼に釣られて私も微笑んだ。でもこんなに私から目を離せないでいるだなんて、私ってそんなに危ういのかな?なんて内心思ったけど黙っておく事にした。まぁ、こんな考えすらもマツバさんにはお見通しかも知れないけど。
マツバさんとは長年の付き合いがあるので、彼がどんな人柄かは把握しているつもりだ。だけど、それだけ年数を重ねた付き合いがあっても彼の事は不思議な人だと思っている。
そんな事を考えていると、マツバさんが不意に口を開いた。
「……今度職場で飲み会があるって言ってたけど、この前買った洋服を来てくのかい?」
「え?」
「ほら、言ってたじゃないか。職場の人に誘われて~って。そ時に新しい洋服を着て行くのかなって思って」
「ええと……そのつもりですが……」
確かにこの間同僚に飲み会に誘われた。それも気乗りしないとマツバさんに愚痴を零した事がある。……マツバさんには飲み会とだけしか言ってないけど、実はこれは合コンなのである。
同僚に「どうしても~!」と頼み込まれて渋々了承したのだが、本当なら気乗りしないどころか行きたくない。だけど、普段から仲良くしている子の頼みだったので断りきれなかった。
そんな訳でマツバさんに「飲み会行きたくないな」と零したが、その飲み会が合コンであるとまでは言ってない。
何故言葉を濁しているのかと言うと、マツバさんは私が異性と接触する事を嫌がっているような節が見受けられるからだった。そういう面に関してはとにかく心配性なのである。
私ってそんなにチョロそうな女に見えるのかな?と自分で不安になるくらいに、私がマツバさんやミナキさん以外の男性と接する事にもはや嫌悪感すらも抱いているように思える。
そんなマツバさんに口が裂けても「合コンに行きます」とは言えない。それは余計な心配を掛けたくないからだ。
そんな私の考えなんてやはり、お見通しなのだろうか。マツバさんは先程の微笑みから一転、真顔になって私に話を続けた。
「そんなに気乗りしない飲み会に、敢えてお洒落していくのかい?」
「ええと……まぁ、たまには良いかなと思いまして。ほら、買ったばかりで早く着てみたいって気持ちがあってですね……」
「新しく買った服はとても君に似合っていたけど、それを着るのは僕と会う時だけにして欲しいな。……本当にただの飲み会かどうか分からないんだし」
マツバさんの言葉に、思わず心臓がドキッと跳ね上がる。
決して疚しい気持ちがある訳じゃないが、こうも追求されると何だか誤魔化しが嘘をついてるように後ろめたい行為なんじゃないかと脳が認識してしまいそうになる。でも、ここで「本当は合コンでした」なんて言ったらマツバさんは絶対に「そんな集まりには行かないで欲しい」と言うだろう。それは過去の経験から予測できる。
「本当にただの飲み会ですよ?心配しすぎですよ、マツバさんは……」
「大事な君の事だから心配にもなるんだよ。変な虫が寄ってきたらと思うと僕は気が気じゃないよ」
「私に寄ってくるのなんて野生のヤンヤンマぐらいですって。それ程に出現率が低いものなんでご安心下さい」
……何とかこの場は合コンだとはバレずに済んだけど、それでも新しい洋服を着るのだけは止めてくれと懇願されたので、私はとりあえずは彼の頼みを承諾するのだった。
「何かあったら直ぐに僕に連絡してね?駆けつけるから」
「きっと何にもないですよー、大丈夫ですって」
私の言葉に、マツバさんはそれ以上私を追求はしなかったものの、何かを考え込んだような表情を浮かべていたのが私の中で印象に強く残るのであった。
後日、合コン当日。一次会を何とか愛想笑いで乗り切って帰ろうとする私を参加者の男性が引き止めている最中に、会場も時間も教えてない筈のマツバさんが私を迎えに来た事で、私の誤魔化しは全て最初からバレていたという事実が判明し、マツバさんに「駄目だよ?」と軽く圧を掛けられながら少しだけお叱りを受けるのだった。
◇
「やれやれ……合コンだとは流石に言わなかったか」
彼女と別れた後、帰路に着くまでの間に僕はポツリと呟く。
なんて見え透いた嘘なんだと、問い詰めたくなる気持ちを我慢してその時は何も言わなかったけど、僕の愛する彼女が数多の男達がいる場に誘われるなんて、想像するだけで吐き気を覚えたものだ。
彼女だって合コンに乗り気じゃない事は愚痴を言うくらいだから、分かっている。なら断ってくれたら良いのにと思ったけど恐らくはしつこく参加を頼まれたのだろう。何処か人の良い彼女は押し切られて断りきれなかったんだろうな。
全く……本当に合コンとかいう文化滅んでくれないかな、と何度も心の中で思ったものだ。
彼女は自分の事を「寄ってくるのはヤンヤンマぐらい」なんて謙遜するけど、この世には彼女に良からぬ感情を抱く男だって沢山いると思う。僕はそれが、許せない。
彼女に長年淡い恋心を寄せている身としては、そんな輩の存在を簡単に享受出来る訳がないのだ。
確かに彼女は世界一可愛いくて、美しい存在でもある。
そんな可憐な女性を男達が放っておく事はまず無いだろう。
現に過去にも彼女に言い寄ろうとしてきた男達はいたけど、それを僕が内密に遠ざけてきた。
だって、彼女の隣は僕が居ればそれで十分なのだから。
彼女をこの世で一番幸福にする男は、ずっと前から決まっている。それこそ、この僕……マツバという男の役目なのだ。
それを妨害するのは誰であろうと許されないとすら思っている。
だから、僕は四六時中、彼女をこの目に焼き付けるように見つめ続けているんだよ。何時いかなる時の、彼女のどんな表情も変化もこの瞳に移しては記憶して起きたい。彼女の全てを僕は知りたいし、知っておくべきなのだ。
……他人から見たら、僕のこの感情はあまりにも重たすぎるものなのかも知れない。だけど、どれだけ否定されても僕はこれだけの強い感情は愛だと認識している。僕の愛はまだ一方的なものだ。だからまだ見つめる事しか出来ないけど、いつかは必ずや叶えてみせると心の中で強く誓う。
彼女は僕は些細な変化に気付く男だと思っているけど、それは相手が君だからなんだよ。君という存在の一欠片も僕は一瞬たりとも見逃したくないし、ずっとこの網膜に刻みつけておきたいんだ。
そんな想いがいつか、彼女に届く事を願いながら今日も僕は彼女をひたすらに見つめ続けるのだった。
◇
「……合コンになんて行って欲しくないよ。でも、君にも付き合いがあるのも分かるんだ」
「はい……そうなんですよ……」
「じゃあ、今度誘われたら僕も行けば良くないかな?って思うんだけど」
「はぁ……って、え!?マツバさんが合コンに参加ですと!?」
「やだなぁ、そんなに驚く事かい?」
「多分野生のラッキーが出現するしたくらいに、皆……驚きますよ……イメージにないですもん。合コンに参加してるマツバさんって」
「君ある所に、僕もありきなんだよ。一心同体ってやつだね。という訳で今後は誘われても誤魔化さないで、僕にちゃんと言う事……約束してね?」
「は、はい……分かりましたけど……マツバさん、合コンでほろびのうたとか披露させちゃ駄目ですよ?」
「それは君次第だよ」
「私の責任が重大過ぎませんか?」
そんなこんなで、彼女を守る為なら気乗りしない合コンだって参加する事にした。まぁ、勿論彼女の指定席は僕の目の前だって既に決まってるけどね。
合コンなんて興味無いけど、僕と彼女の仲の良さを周囲に見せ付けるには良い機会かも知れないな等と思うのであった。
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