君が好き?黄身の話ですか!?


「率直にお尋ねしますが、先輩ってマツバ様の彼女なんですか!?」
「違います」

今まで何度も聞かれてきたこの質問に、私は反射的に返答をするぐらい、何度も聞かれてきた事だった。尋ねてきた彼女は最近私の働くコガネ百貨店に入社してきたばかりの子だった。
意を決したであろう彼女の質問を即座に私が答えたので、後輩は拍子抜けしたかのような表情を浮かべたのが、なんとも印象深い。

「……だって、同期の子達も他の先輩方も先輩の事はマツバ様の彼女だって言ってて……」
「確かに私はマツバさんとは幼馴染ですけど、そういう仲ではありませんよ」

私の答えに後輩はフラッシュを使ったかのように、目を輝かせた。どうやらこの子はマツバさんに気があるらしい、まぁマツバさんっておモテになるからなぁ、なんて思っていたら後輩は意気揚々と話を続けた。

「先輩!それならマツバ様の好みのタイプとかご存知ですか?」
「マツバさんの好きなタイプ?ゴーストじゃないんですか?」
「違いますよぉ!好みの女性のタイプですったら!」
「あ、そっちの方か……」
「え、知らないんですか?幼馴染なのに?」
「マツバさんと私ってそういう話をした事が無いんですよ」
「えぇ~?!本当ですか?恋バナした事ないんですか先輩!」
「ポケモンやバトルの話の方が楽しいので……」
「先輩、今から枯れててどーするんですかぁ?」

後輩に半笑いされながらも、そんなにおかしい事なのかな?と自問自答してみる。
確かにマツバさんと話す事と言えば最近の近況とかあれが美味しかったとかこんな事があったとか、今度何処かに行こうとかゴーストタイプの可愛さとか、憧れのポケモンとかの話ばっかりで……そんな色恋の話なんてした事が無かったかもしれない。
そもそもマツバさんってそういうのに興味あるのかな?いや、幾ら修験者という立場でも恋愛は自由だし、表に出さないだけでそんな思いがあったりするのかな?
なんて事を考えていたら最終的に後輩にとある頼み事をされる事となる。
それは話の流れから既に予想出来ていたのだが「マツバさんの好きな女性のタイプを聞いてきて欲しい」との事だった。
あとついでに後輩の事をマツバさんに紹介して欲しい、縁を取り持って欲しいとまで頼まれた。恋する女の子ってめちゃくちゃガッツがあるな後輩の押しの強さに、もはや感心すらしてしまった。
そんな訳でマツバさんの好みの女性を聞く羽目になったのだが、案外興味本位でワクワクしている自分がいるのも確かだったのが我ながら驚いたものだ。

マツバさんの事だから、好きなタイプってやっぱりお淑やかな人とかかな?それとも案外……自分とは真逆の元気な子が好きだったりして……なんて想像は膨らみつつも、中々「これだ!」というイメージは浮かんでは来ない。

長年の付き合いがある私ですらマツバさんの好みの女性が思い浮かばないのだ。本当にそういった面でミステリアスな人だなと思う。とりあえず明日タイミング良くマツバさんと会う予定なので聞いてみようと思うのだった。

◇

「……という訳で、マツバさんの好きな女性のタイプを教えて貰えませんか?」
「……まさか君からそんな質問を受けるとはおもってもみなかったよ」

通い慣れたカフェ、いつの間にか二人の定番の指定席になっていた席に二人で腰掛けながら、私は早速話題を切り出す。
善は急げじゃないけど、私の好奇心が答えを強く求めているのだ。さぁ、マツバさん。貴方はどんな女性を答えますか?

「……逆に聞いてみるけど、どんな子が好きだと思う?」

マツバさんは私の質問に対してこう切り返した。とりあえず問われたので私は脳内の思考を働かせて考えてみる。こういう時って身近な女性を当てはめてみると例えやすいのかも。そう思った私は親交のある方々の名前を交えながら彼の問に答えてみる事にしてみた。

「元気な子、例えるならアカネちゃんみたいなタイプって可愛いですし、真逆に静かなタイプならミカンちゃんのような子も可愛らしいですよね」
「うん、二人とも各々個性があって良いよね」
「えーと、イブキさんみたいに誇り高い女性って格好良いなと思うし、カリンさんみたいな大人の女性も素敵だなって思います」
「うんうん」
「あのー、マツバさん?私は貴方の好きな女性のタイプを聞いているのですが?」

……なんだか私の好きなジムリーダー及び四天王発表会みたいになっているみたいにマツバさんの反応は薄いような気がする。
あの、貴方の好みの話をしているのに、なんで他人事なんですかね?なんて思いつつ単刀直入に再度私はマツバさんに問い掛ける。なにせこの後、マツバさんには後輩を紹介しなくてはならない訳だし。

そんな事を考えていたら、マツバさんは私の方に向き直りゆっくりと私を見つめた。

「……どうしても知りたいの?」
「はい、とても」
「じゃあ教えてあげる」

そう言ってマツバさんはにっこりと微笑んで言葉を続けた。

「僕の好きなタイプはね、君だよ」
「……は?黄身?マツバさん、今卵の好みの話はしてませんよ?」
「違う違う。君の事がタイプって言うか……僕は君の事が好きなんだよ」
「え、は、えぇっ……!?」

マツバさんの突然の爆弾発言に私はあやしいひかりを喰らったかのように混乱してしまった。君って、卵説を否定されたしつまり私の事だよな?私の事をマツバさんが好き?え、突きの聞き間違いだったりしないかな?これ。
何とか自身の混乱状態を解こうと、私は頼んでいたカフェラテを一口飲むも、どうにも落ち着かない。あれだ、これは糖分が足りてないんだ。ガムシロップを追加投入しよう。

「ちょっと、それでガムシロップ六個目だよ?入れすぎだって」
「すみません、状況を理解するのに糖分がどうにも足りてなくて」
「もうそれカフェラテじゃなくて、ガムシロラテだよ。まぁ、とりあえずそれ飲んで落ち着いたら話を続けても良い?」
「あ、はい。今飲むので少々お待ちください。……甘っ」
「そりゃ甘いだろうね」

カフェラテならぬガムシロラテを一口。甘い、めっちゃ甘い。
でも、糖分のおかげか少しだけ冷静になれて来たかも知れない。私は何とか混乱を解いて、姿勢を正してマツバさんに問い掛ける。

「あの、一体何時から私の事を……その、好きになってくれたんですか?」
「え?それはね、ミナキ君に君を紹介された時からかなぁ?」
「っ?!そ、それって……凄く前からって事になりますよね……!?」
「うん、僕は出会った頃から君の事が好きだったんだ。まぁ……恋心だと自覚したのは紹介されてから少し経った後だったけどね」
「……私の何処を好きになって下さったんですか?」
「話すと長くなるよ?それでも聞く?」
「あ、やっぱり遠慮しておきます」
「いや、折角なら聞いてよ。僕の好きなタイプを知りたいって質問の答えにもなるよ。じゃあ話すね」

マツバさんはそう言って目を細めたと思ったら直ぐさまに私について語り始めた。

「君の好きな所は沢山あるけど、とりあえずは一目惚れだったんだ。あの頃の僕の周囲には歳上しかいなかったからね。ミナキ君という友達が出来た事が先ず僕にとってはとても嬉しい事だったし、そんなミナキ君の友人である君を初めて見た時、僕の身体中にまるで10万ボルトを受けたかのような衝撃が走ったんだ。ビビッときたよ。この世界にはこんなにお人形のように可愛い女の子が実在してたなんて当時の思いもしなかった。君のその艶のある髪の毛が風に靡く光景はまるで絵画のよう美しくて、そして君の夜空を照らす月明かりのような眩しくも優しく、そして麗しい瞳に僕は恋焦がれたんだ。君は幼い頃から可愛かったけど、大人になるにつれて昔の面影を宿しながらも美しく成長していった……まるで夜にだけ咲く月下美人のような人だよ君は。勿論外見だけじゃないぞ。君は内面すらも美しい人だ。物静かで知的な一面も一緒にいて心地よいし、でも時たま少女のような可憐な仕草を取るそのギャップは僕を誘惑してるんじゃないかと思ってしまうぐらいだよ。君がポケモンだったら絶対に特性はメロメロボディだと思う。ていうかメロメロ使えるでしょ?使ってるよね僕に?僕はラブラブボールで君を今すぐにゲットしたいよ。君の事が好きすぎて、僕は常日頃から千里眼を使って見守っているし、君の事をずっと見つめ続けているよ。あと君はポケモンバトルが大好きで、腕前も確かな所にも惹かれているよ。君のバトルの時のあの高揚感に染まった表情を見る度に僕はゾクゾクしちゃうんだ。本当にポケモンとポケモンバトルが好きなんだなって伝わる熱い闘志が、普段のクールな一面に眠っていると思うと、本当に君って女性は素晴らしいよ。最高だ。そんな君をこの世で一番愛しているのは僕……マツバという男なんだ。君を世界で一番幸せに出来るのも僕自身だけだと信じているよ。こんなに仲が良い二人だし、結婚したらきっと周囲の皆は祝福してくれるに違いないよ。……誰よりも愛しているんだ。きっと君と僕の結婚生活は穏やかなものになると思うし、家事だって折半しようね。将来的には子どもは欲しいし、もし可能なら男女が良いな。あ、でも君似の女の子だったら僕は簡単に嫁にはやれないかも……どうしよう」
「待って、待って下さいマツバさん。色々と待って」

マツバさんの私に対する想いを舐めていた。舐めていたというのは語弊があるかもしれないが、想像以上にマツバさんは私の事を想ってくれていたのは痛い程に伝わった。むしろ最後らへんは結婚の話になっていたのは私の聞き間違いだろうか?

「マツバさん、もう十分です。十分伝わりましたから」
「えー?これまだほんの一部だよ?まだ足りなくない?」
「恐ろしい事を涼しい顔で言わないで下さい」

マツバさんはまだ語りたげにしていたけど、強制的に終了させて頂く事にして貰った。もう聞いてるこっちは気恥しさやらで脳内が宇宙に飛んでいってしまいそうになるからだ。

「……とりあえず、今度から僕の好きなタイプを聞かれたら自分ですって答えておけば大丈夫だね」
「……あのー、この流れで言うのもなんなんですが……マツバさんにご紹介したい子がいるんですけど……」
「え?さっきも話した通り僕は君が好きなんだよ?好きでもない子に会って変に期待させたら申し訳ないし……ごめん。正直君以外の女性に興味が無いからその申し出はお断りさせて頂くよ」
「あー、そうですよね、はは……」

マツバさんの答えをそのまま告げたらきっと後輩は酷く落ち込むだろうし「酷いです!」と泣かれるかもしれない。明日が憂鬱だなーと思いながら乾いた笑いを零した私に、マツバさんは言葉を続ける。

「……で、僕は君の事が好きなんだって事が伝わったよね?実質告白のようなものだし返事が欲しいな」
「え、えーと……」
「別に焦らなくて良いよ。最終的に「はい」って言ってくれればそれで全てが丸く収まるから」
「あの、それもはや私に回答の権利が存在していないようなものでは……?」
「うん、そうだなぇ。君は僕のお嫁さんになる子だって決まってるからさ。そういう未来が視えていたんだよ。あぁ、ようやく言えてスッキリしたよ」
「……私は先程から終始、混乱しっぱなしなんですが……」
「大丈夫大丈夫。僕の手持ちも君に懐いているし、既にジョウト内では君と僕の仲を応援してくれている人が多数いるし、何も不安に思う事はないよ?」
「いつの間にそんな噂が流れていたんですか……!」
「信じられないならアカネちゃん辺りにでも聞いてみれば?今聞きに行く?」
「いや、あの、クールダウンさせる時間を下さい……」

長年、マツバさんがこんなにも私を想っていて下さったなんて知らなかった。だから、どうして良いか分からない。だけど、マツバさんの熱を帯びた視線に私も当てられたのかな?不思議な事に胸がずっとドキドキと煩くて、何だか息苦しくて仕方がない。冷静になろうと思ってまた糖分を摂取してもこの胸の高鳴りは中々落ち着いてはくれなかった。

「……どうしたの?頬が赤いようだけど。……もしかして照れちゃったのかな?そんな所も凄く可愛いよ」
「マツバさん、今の私にそのような言葉は禁止です……私が私じゃ無くなっちゃうみたいで……おかしくなりそうなんです」
「どんどんおかしくなっちゃっても、僕は構わないよ」

そう言って微笑むマツバさんを見つめるだけで、今日は精一杯な自分がいるのだった。
これがどんな感情なのかは分からないけど、私は近いうちにマツバさんに今日の事の返事をするだろう。その時はきっと彼は笑ってくれるに違いない。何となく、そんな気がしながら私はニコニコと嬉しそうに笑っているマツバさんの傍らで、すっかり氷の溶けたカフェラテだったものを飲み干すのだった。

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